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セレブなゴミ屋敷の1日

「ふぁああ。さて今日もネットで遊ぼう」武雄はいつもと変わらぬ朝を迎えた。武雄は地主の家系の末裔。祖父は地元の県会議員を務める名士であった。そして多くの土地を持っている。
 両親はそれらの数多くある土地をマンションやレジャービルにして、その家賃収入で生活。複数の管理会社にそれぞれの土地を任せていた。
 そのため武雄は大学を出てから就職していない。まるでニートのような生活をしていているのに、何の不自由なく収入が入ってくる。

 武雄に口うるさく言わない両親であったが、10年前に父、3年前に母を亡くしてしまう。兄弟もおらず独り身の武雄は今年30歳。恋人もいなければ、探そうという気持ちがまるでない。
 ただ毎日自由気ままに起きて寝ることの繰り返し... ...。
 武雄は毎日パソコンの前でネットで遊ぶ日々、ネット以外に友達もおらず親族との付き合いもないから、誰も注意しない。

 ところがそんな生活が原因だったのか、1年くらい前から異変が起き始める。それはごみがどんどん家の中にたまっていったのだ。
 もちろん臭いの出る生ごみは、きっちり処分している武雄。それ以外の細かい雑貨のようなものが集まって、部屋そのものが粗大ごみのようになっていた。気がつけばいわゆる「ごみ屋敷」になっている。

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 この日目覚めた武雄は、ようやくゴミが溜まっていることを意識し始めた。「それにしてもずいぶん余計なものが増えたな。前はあそこに窓があって外からの光見えてた気が」
 しかしすぐにスマホを見て時間を確認。「10時30分か、いつも通りだな。さてと、えっとまずはいつものチェックからだ」
 武雄はごみ屋敷の風景に慣れているので、洗面だけを済ませると何事もなくパソコンの電源を入れてネット始めた。2時間近くネットで遊ぶと、いつものように武雄は空腹を覚える。
「ああ、そろそろ何か食べようか」と独り言をつぶやくと、そのまま目の前に合った服を着て外に出る。

 家のすぐ近くにはスーパーマーケット。実はコンビニもあるけれど、スーパーの方が安くていろんな種類のご飯を売っていることを武雄は知っているので、コンビニに行くことは基本的にない。
「やっぱりこれこれ」と武雄は、昼と夕方、そして深夜に食べる物を買ってレジに。毎日3食分を買うが、午前中はメロンパンとチョコレート、深夜はカップめんといつも同じもの。
 夕方だけは、武雄なぜかこだわりのある。少し迷って買う。「あ、これ気になる」いつも良くわからない雑貨や雑誌を見つけてはカゴの中に。お金に困らない武雄はそうやっていつも直感で「欲しい」と思うものをかごに入れてしまう。
 この日は本日発売の週刊誌2誌と不思議な人形のようなもの。
「手や足が自由に動かせるな。暇つぶしに良さそうだ」

 こうして家に戻り、取りあえずメロンパンとチョコレートでお腹を満たした武雄は、雑誌を読み始める。
 毎週読む雑誌は読むところがある程度決まっていて2・3時間で読み切ってしまう。すると「ハイ終わった」と小さくつぶやき、そのまま部屋に投げ捨てる。それは部屋にたまっているごみの中に吸い込まれた。
 こんなことを繰り返しているから部屋がごみ屋敷。でも武雄は全く気にしない。毎週のルーチンにすぎないのだ。

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 武雄は雑誌を読んで眠くなったのかそのままベッドに。すでにベッドの周りの3方向にはごみが迫っている。武雄は意にも介さず御昼寝タイム。数時間寝てると武雄は起き出す。
「ふぁあ、良く寝た。でも毎日こんな生活だな。いい加減生活替えようかな。ずいぶんいろんなものが溜まってきたし」ふとごみ屋敷を眺める。
「でも、面倒だ辞めておこう」これは3日に1回程度で同じことを思いついてはやらないことを繰り返しているに過ぎない。
 結局武雄はネットで少し遊んだ後、こだわりの夕方の食事タイム。この日はハンバーグ弁当。

 武雄がひとりで黙々食べていると、目の前に衝動的に購入した人形が視界に入る。
「あれ、こんなのいつ買ったっけ。まあいいや」といいながら、人形を触ってみた。「ほう、いろいろな格好をするね。顔とかないけどそれが良いのか」そうつぶやきながら武雄は人形にいろんなポーズをさせて遊ぶ。

 だが10分程度で飽きてしまう。
「飽きた。もう用済みだ」と武雄はゴミ山に投げようとした。ところがこのときになぜか投げない。ふと「でも、後でもう一度遊ぶかも」とその場に置いた。以降はネットでゲームをはじめて時間を過ごす。

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  数時間後、武雄がスマホを見ると日付が変わっている。
「さて、最後の食事を食べたら寝よう」と、カップめんにお湯を入れると、武雄の視線に先ほどの人形が見えた。
「ああ、さっきの人形か。しかし、俺なんでこんなの買ったんだろう」そうつぶやく。出来上がったカップめんに対して音を出してすすり出す。
 武雄は食べ終わると、その人形をもういちど見つめてみる。すると顔が無いはずの人形に顔が浮かんでいるように見えるのだ。
「ん? 顔があるぞ、寝ぼけてるのか」と武雄は目をこするが、その人形には確かに顔が見える。そしてその顔は女の子の顔に見えた。
「ほう、この人形なんか可愛い顔してるな」その人形をとりだしてしっかり見てみると、人形は武雄を誘っているかのような笑顔を見せている。
「よし、今日はこの人形と一緒に寝よう」と武雄は、人形と一緒にベットで寝ることにした。ベットでも人形を見つめる武雄。
 相変わらず見れば見るほど可愛いのだ。そしてなんとなく落ち着くような気がした。気が付いたら武雄は眠くなる。

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 タケオの耳元に女性の声が聞こえる。「gomigomigomi」とタケオには聞こえているような気がした。
「ゴミ、ああ部屋の物のことかな。あれはゴミじゃないんだけど」と夢心地のタケオが寝言のようにつぶやく。
しかし「gomi」という声は止まらない。その声が徐々に大きくなる目覚まし時計のアラーム音のように大きくなっているような気がした。
 あまりの大きさにタケオは目が覚める。夢と思っていたら、現実に聞こえているではないか。

「gomi」武雄は最初パソコンを見た。次にスマホ。しかしパソコンの電源は切れており、スマホも深夜の時刻を指示している以外に何も変わらない。
 しかし「gomi」だけは相変わらず聞こえ続ける。武雄はだんだん怖くなった。「そんなことをいうやつはだれだ! ここはごみ屋敷ではない」
 怖さを紛らわせようとわざと大声を出す武雄。しかし声は消えずに相変わらず「gomi」とつぶやく。ふと例の人形が目に留まった。
「まさか... ...」武雄は後ろを向いている人形を取り出して顔を見る。すると先ほどとは違う恐ろしい形相になっている人形。「gomigomi」と淡々とつぶやいている。「う、うわあ!」狂ったような大声を出す武雄は、その人形を思いっきりゴミの塊に投げつけた。

 人形はゴミ山の中に吸い込まれていったが、その瞬間ゴミの山が突然崩れ出してタケオに襲い掛かる。
「え、う、ああああ」直後に聞こえる衝撃音と体に走る痛み。武雄が気付くとゴミの中に埋もれていまった。先ほど人形も「gomi」の声も聞こえなくなっている。
 武雄はゴミから出ようとするが、身体が動かない。
「う、うごけない。そんなに溜まっていたのか」ただ、大きなかたまりばかりなので、隙間は十分空いており、呼吸などは困らない。
「まあ、いいかもういつもの生活飽きたし」そう思った武雄は、そのまま何もしないまま、ごみの一部ように過ごすのだった。


「画像で創作(1月分)」に、ぺんぎんさんが参加してくださいました

 画像を見ながら半月の間、創作への想いが綴られています。たとえ見事な成果物として表に出なくとも、そ子に至る過程が楽しいという。旅と同じですね。それは凄くわかる気がします。ぜひご覧ください。


こちら伴走中:8日目

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画像で創作1月分 

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シリーズ 日々掌編短編小説 366

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