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瞳という名の湖/画像で創作という企画

【小説】瞳という名の湖

「これっていつ頃だっけ」シンガポールの象徴マーライオンの写真を見つけた田中ひとみは、同居している山田和夫に声をかけた。

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「えっと?ああ忘れた。いつだろうね」このふたりはちょうど1年前からシンガポールに在住していた。元々マレーシアのペナン島に在住して現地企業で働いていたひとみ。そこに遊びに来た和夫と偶然に出会う。途中で幼馴染だとわかり、そのまま付き合い始めたのがきっかけ。
 さらに昨年の1月からにシンガポール勤務になったと聞いて、日本の会社を辞めてシンガポールの寿司店で働くという冒険をした。和夫はそこまでして、ひとみを求めてくるほどの仲良しカップルだ。

「もう、忘れるなんて和夫君もひどいわね」「だって、ここは何度もいったはずだ。そんな細かいときなんて」和夫は言い訳をしながら手で頭の後ろをなでる。「確かにそうだけど!」少し不機嫌なひとみ。
 和夫は強引に話題を変えた。「日本では3日までが三が日の正月モードだよな」
「ここは違うって言いたいんでしょう。まあ中華系の人の国だから春節のときが一番盛り上がる。カウントダウンのときはともかく、1月3日なんて何もないわね」

「でも」和夫は口元を緩めて嬉しそう。
「今日はひとみちゃんの日だよね」「え、何?私の誕生日じゃないわ」と驚くひとみ。しかし和夫は自慢げな表情で「今日1月3日は日本では、ひ(1)とみ(3)で瞳の日なんだって。コンタクトレンズの会社が制定したらしい。これさっき偶然に見つけたんだけどね」と和夫は口元から白い歯をのぞかせた。

「もう、私は裸眼なのにコンタクトって」とひとみは大きく両目を見開き、和夫に対して自慢げに自らの瞳を見せる。
「でも瞳といえば、目よりも僕は湖のイメージがあるなあ」「湖?」「うん、僕高校のときに一時期、静岡の伊東にいたときがあったんだ」
「え、それって意外に初耳かも」ひとみは、興味深い話になると、右目が自然に少し大きく開く癖があった。ひとみが右の瞳を大きく輝かせると、それを見てまた口元を緩ませる和夫。
「そうなんだ。で、そのときには伊東市街の南にある伊豆高原によく遊びに行ったんだよ。そこに伊豆の瞳っていう観光地があるんだ」
「伊豆の瞳?」「正式名称は一碧湖というらしいんだ」
「へえ、『伊豆野ひとみ』という人の名前みたいね。そういうことなら、私もあるわよ。父の仕事の関係でヨーロッパにいたときには、アルプスの瞳と呼ばれるところに行ったことがあるわ」

「アルプスの瞳か」「スロベニアにあって正式名称はブレッド湖っていうんだけど、真ん中に小さな島があってそこに教会が立っているの。今思い出しても素敵。おとぎ話の世界みたいだったわ」ひとみは瞳を光らせて、遠くに視線を置く。

「ヨーロッパは、なんとなくずるいなあ。僕行ったことないのに」
「あ、ごめん。日本なら福島かなあ」「福島?」「私じゃなくて友達から聞いたんだけど、魔女の瞳というところがあるんだって」
「魔女か、なんか不気味だ。ひとみちゃん魔女らしくないし」「もう、私が魔女なわけないでしょ」瞳は笑いながら和夫の肩を軽く叩く。

「ああそんな話聞いていたら、伊豆でも福島でもいいから日本に戻ったら行ってみたいわね。瞳が付くところってなんとなく他人事に感じないから」
「あ、それならここがいいよ」和夫はスマホを取り出して指を動かした。そして数秒後にある画面を出して、ひとみに見せる。

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「おお、これは青い湖だわね」「そう、ひとみちゃんと再会する前の年かな、北海道にひとり旅したときに行った摩周湖の写真だ」
「摩周湖! 霧が多いイメージだけど」「うん、この日は偶然に霧もなくはっきり湖面が映っていたよ。瞳の別名とかは無いけど、青い瞳のように美しかった。今見てもきれいだけど、現地で見たときは本当に驚いた」
 ひとみは、和夫の画面を見ながらうらやましそう。そのときは左側の目が自然と大きくなり瞳が輝くのだ。

「いいわね。いつか絶対に行こうね摩周湖」
「うん、僕も先輩の経営する日本料理店の寿司職人として最近ようやく一人前のレベルになったよ。もっと頑張れば店を任されるようになれると思う。そうすれば」
「そうすれば?」和夫のほうに振り向くひとみ。
「あ、ああ、まだずっと先の話だけど、そのときには絶対に北海道に行こう」と和夫は意味深な笑いで、ごまかすのだった。



毎月更新「画像で創作」企画をやります

 昨日に続いてもうひとつ企画を立ちあげてみました。
 これは昨日とは逆で、私の持っている画像を元に、皆さんに創作してもらおうという企画。昨日発表したのと逆をやろうということです。これは月替わりで違う画像を用意します。

画像で創作「1月分」の募集要項

募集期間:今から1月31日24時まで(ほぼ1か月)

創作の内容:自由(小説、エッセイ、随筆、コラム、詩、ポエム、短歌、日記など。文章であればなんでもあり)

今回の画像:小説本文内にある摩周湖の写真

注意点:無料記事で投稿願います。
 なお、この企画は賞金もなければ、優劣をつけるコンテストではありません。全員がオンリーワンの優秀作品ということでお気軽にご参加ください。

完成しましたら、1月分はこのページのリンクを張っていただき、
#画像で創作1月分  のタグをつけてください。

 私が見つけ次第、専用のマガジンに登録し、その日の小説の後に参加者の紹介をしていきます。どうぞよろしくお願いします。
※なお一か月やってみて誰も参加しなければ、恥ずかしいのでこの企画はなかったことにします。


こちらもよろしくお願いします。

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シリーズ 日々掌編短編小説 348

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