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相談 第730話・1.23

「お、君、ちょっと相談があるんだ」サンタクロースのいでたちをした男は、2足歩行でで歩いている猫を呼び止めた。
「なんだ、旦那。まだそんな格好してるんですかい。もう年が明けましたぜ」「い、いやそれは良い。ではなくこれからの相談じゃ」
「旦那、あんたの仕事が終わったってことでしょう」猫がズバリと答えるので、サンタクロースは軽く咳払い。
「ああ、わかっているなら話は早い。何か仕事がないかという相談じゃ」猫は何度かうなづくと、大きく「ニャオーン」と鳴いた。

「しょうがありませんね。旦那、それだったらまずその恰好を止めることから始めないと。どこ行ってもそのいでたちでは『今、来てもらっても困る。12月に改めて来てくれないか』って言われますぜ」
 サンタクロースは自ら来ている服装を何度も見る。「ロシアじゃジェド・マロースということにして、うまく年末年始まで行けたが、もう無理か。まだ雪が降っているのにのう」サンタクロースは遠くに見える雪山を見てため息をつく。

「旦那が、サンタクロースなんて仕事を選んだからですぜ。この前もかぼちゃが、同じようにあっしに相談に来ましてね『ハロウィンが終わったから仕事がない』って言うんですよ。
 季節ものの仕事は、その直前の1・2か月は忙しいですが、まあそれが終わった途端、即失業。直前の準備があるって言っても半年以上も失業していりゃ、いくらシーズンで莫大に稼いでも中々大変でしょう。その点、あっしは猫一本で勝負しとりやす。だからシーズン関係なく、比較的安定収入が入るって寸法で」
 猫は自慢げに語る。サンタの表情は暗くなった。

「やっぱり季節ものの時代ではないのか、せめて爺キャラで春・夏・秋と稼げないものかのう」
「旦那、秋ならハロウィンに出てくる爺の妖怪というというのは如何ですかい」「爺の妖怪か。何かいるのかなぁ?」サンタクロスは空を見上げる。この辺り昨夜はふぶいていたが今日は雲ひとつない青空。澄んだブルーがすがすがしい。
「そうだ、旦那、子泣き爺ってのはどうですかい」「コナキジジイ、聞いたことがあるな」サンタクロースは猫の方に顔を戻した。
「へい、こいつは夜道で赤ん坊のような産声を上げる爺さんで、人が哀れに思って抱き上げると急に重くなって、最終的に相手を殺害する妖怪だそうですぜ」「ふむ、面白い。まあ服装さえ用意すればいいのじゃな」
 サンタクロースはいったんは納得した。しかしすぐに首をかしげる。
「じゃが、ハロウィンは10月31日、すぐにクリスマスの準備がある。こりゃずいぶんタイトなスケジュールになるな」

「旦那、無理を言ってはいけませんぜ。ハロウィンってのは、元々古代ケルトの収穫時期の祭りですからね。実りが秋ではなく夏にしろって、少々ムシが良すぎやしませんか?」
「だろうな。ということは1日で......」サンタクロースは腕を組む。「じゃけど、やっぱそりゃあ無理じゃ」
「旦那、どうしてですかい」
「その相手を殺す妖怪なんてわしには出来ん。人を不幸にする仕事はわしには向いておらん。ワシは人を楽しませる仕事が好きなんじゃ。だからサンタクロースという仕事を選んだ」いつしかサンタクロースの語りは熱を帯びる。

「ケケケッケケ!旦那、本当に人がよろしいな。本当に人殺しするわけじゃなく、コスプレで町を行進するだけっていうのにさ。だからおめぇさんは、サンタクロースやってんでしょうけど」猫は笑いながらもサンタクロースの仕事への誇りに少し感動している。

「そうだ、君もハロウィンは特需があるんじゃないかい」「ど、どういうことですかい!」「化け猫じゃよ」
 それを聞いた猫は驚きのあまり目を見開いた。「へ、そ、そりゃ気づきやせんでした。化け猫か、いいですな。こりゃ今年の秋稼げるかも。ちょいと検討しやす。旦那、良いアドバイスありがとうございました」
 猫はそう言って丁寧に頭を下げると、その場を立ち去る。

「うん、化け猫か。中々良いのう」サンタクロースは何度もうなづいたが、途中で気づく。「あれ、ワシがあいつに相談したのに、いつの間にかあいつのアドバイスしておった。こりゃあ、言ってみれば、少し遅いクリスマスプレゼントじゃな。ハハハハハハ!」
 こうして笑いながら、サンタは雪山の方に歩いていくのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 730/1000

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