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ネコのお迎え 第870話・6.12

「あ、今日は日曜日だ。もうちょっと寝ようかな」僕はいったん目を開けたがすぐに目をつぶった。僕は休日は大好きだ。時間に拘束されずに眠れるから。だけど日曜日の夕方から嫌になる。明日、月曜日を意識してしまい、憂鬱。月曜日になれば朝からの決められたスケジュールに従わなくてはならない。

 だが、今日は様子が変だ。僕が目をつぶると僕を起こそうと体を動かすものがいる。「なんだよ、今日は休みだって」僕が嫌がって無視するが、その揺り起こす行為が止まらない。僕はこれをやっている相手は薄々わかった。目を開けるとはやはりそうだ。ベッドに飼いネコのアレンがいて僕を見つめている。

「おい、アレン。今日は日曜日だって。ゆっくりさせてくれよ」だが、アレンは真剣な眼差しのまま。そして驚くことが起きた。
「吾輩はアレンではない」「え、し、しゃべった?」僕は目をこする寝ぼけているのかと思ったが、そうではない。「吾輩の本当の名は ムテスシ・ドーカ・ルプリトである」

「ムテスシ?え、何言っているのアレン?」「長い名前で驚いたようだな。ならムテスシと呼ぶがよい」自らの名前を名乗ったムテスシという名の猫の表情は真剣そのもの。僕がアレンとかってに名付けて飼いだしてから2年たつが、こんな真剣な表情は初めてである。

「あ、あの、ム、ムテスシさあ。なんでしゃべっているの?」僕は直球的な質問をぶつけた。「今日は大事な話をしなければならない。吾輩は君を迎えに来た」

「迎えに?」僕はムテスシが何を言っているのが全く分からない。だがムテスシはさらに口を開く。「初めから話をすれば、恐らく君は混乱するだろう。徐々に説明をするからとにかく急いで準備をしなさい。君は今から吾輩と行くべきところに行く」

「行くべきところってどこ?」僕はもうムテスシと会話をしていることに違和感がなくなった。だが僕をどこかに連れ出そうとしているようだが、その理由が全くわからない。
「それは、今の君に説明しても理解できないだろう。この世界の生命体ではな。吾輩が本来住んでいる高次元世界とだけ伝えておく」

「そ、その、こうじげん。な、なんだよ。君がその世界に住んでいたってこと」ムテスシは大きくうなづく。「これは2年前に吾輩が君の家に厄介になったときからの計画だ。君を我が高次元世界に迎えるにあたり、適正な生命体かどうか2年かけて調査をした」

「調査、何を言っているんだ。ただ『にゃー』と鳴いているか、餌をうまそうに食べていて、僕になついていただけじゃないか」僕は頭がおかしくなった。昨日までどこにでもいるかわいい猫だったアレン。
 それが突然しゃべっただけでなく、名前がムテスシで、僕をよくわからない世界に迎えに来たなどというのだから。

「ふっ」ムテスシは僕が動揺しているのを軽蔑するかのように口から息を吐く。「まあ君に行っても仕方がないからな。当然、君にわからないように、吾輩は巷の猫と同じ行動をとる。猫のふりをしながら君の生態をチェックさせてもらった」

「チェックって。あ、あのさ」僕はここで怒りがこみあげてくる。
「ちょっと待てよ!おい、君が僕たちの世界より高等な生物かなんだか知らないけど、僕たちの世界でそんな勝手に生態をチェックするってあり得ない。大体何様のつもりなんだ!2年間も君の食べ物代を無償で提供したというのに、君は僕を馬鹿にしているのかよ!」

 僕が本気で怒ったのを聞いたムテスシは、さすがに驚いたのか大きく目を見開きながら僕のそばを後ずさり。
「そ、それについては謝罪しよう。だが仕方がなかったんだ。少なくとも君は2年間の調査した結果合格したんだよ」
「合格?何が合格だ。おい、ムテスシさんよ。勝手にチェックとか迎えるってなんだ。僕にだってこっちの生活があるんだ。君らの都合でこの家から勝手には出るなんてありえないんだよ!!」
 僕の怒りは頂点に向かって急上昇。僕の顔が赤くなっていることは間違いない。僕もこんなに怒りがこみ上げたことなんかなかった。でも昨日までかわいいペットがこんな理不尽な事を言うなんて!

 僕は、ベッドにある据え置き型の目覚まし時計を手にした。それをムテスシ向けて投げようとする。ムテスシはさらにに怯えながら後ずさり。
「ま、待ちたまえ。平和的に話し合おうではないか。高次元世界は少なくともこの世界よりは、はるかに楽しい世界だ。君が普段から嫌がっている拘束された世界ではない。私の世界に来れば、いつ寝ていつ起きても自由だ。好きなものを好きなだけ食べられる。働く必要も勉強する必要もない。どうだ素晴らしいだろう!」

「うるさい!消えろ!!」僕は最大限怒鳴る声で、目覚まし時計をムテスシめがけて投げる。ムテスシはとっさに避けたが、目覚まし時計はいったん床にバウンドした後、そのままムテスシに直撃した。「ギャアアー」ムテスシの叫び声。僕はこのとき我に戻る。

「あ、ごめんムテスシやり過ぎた、痛くなかったか」僕は慌てて起き上がってムテスシの方に行こうとしたためか、ベッドから落下した。

「イテ!」僕はベッドから床に落下して顔をぶつける。顔に手を置きながらムテスシを見る。ムテスシはそこにいるが、さっきとは表情が違う。「にゃー」と言って僕に近づいてくる。
「あれ、ムテスシ、いや、アレン?」僕はムテスシではなく、昨日までと同じアレンに戻っている目の前の猫を両手で抱きかかえた。「にゃー」アレンはもうしゃべらず、かわいらしい鳴き声だけを上げる。

「そうだ、朝ご飯だな。ちょっと待て」
 僕はアレンの朝食を用意しながら、あの不思議な出来事は多分夢だと確信。というより夢であってほしいと願うのだった。


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