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忘れられない恋物語 第1107話・2.14

「結局あの時が最後とはな」俺は、失恋ののショックからまだ立ち直れないでいた。気になる相手を見つけてから半年、1週間前を最後に彼女が二度と俺の前に現れることは無い。
 俺はいわゆる片思いであった。きっかけは今から半年ほど前のことである。いつも歩く道の途中にあるお店に立ち寄るとそこに彼女はいた。最初は単なる客としてそのお店に行ったが、彼女の笑顔を見ると徐々に気になってきている。そのうち特に用もないのに、その店に立ち寄ることすらするようになった。
「あの子に恋をしたようだ」俺はそう確信する。それからだ、彼女の姿を見ると、それだけで心臓が速度を上げた。耳のあたりが赤くなり、その耳の奥からは鼓動がはっきりと聞こえるのだ。

 それでも、彼女の前で俺ははそういうそぶりを見せずに過ごした。俺は「単なる客で来たぞ」とばかりに振舞う。でも毎日必ず決まった時間にお店に行く。その時間には彼女がいることを知っているから。
 だから本当に用もないのに店に来て、店でいちばんリーズナブルなものをひとつだけ買うということも多い。それでも彼女は嫌な顔ひとつせず笑顔で接客してくれる。

 俺はその笑顔を見るだけで、もうたまらないのだ。だから彼女に告白はもちろん、プライベートな会話もしない。ただ黙って商品をレジに持っていき、言われた金額を支払う。それだけの関係だった。
「せめて、少しの会話だけでも...…」俺はそう思いつつ出来ないまま時が過ぎる。こうして1週間前、あの日を境に彼女とは片思いのまま会うことは無くなった。

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「おい、その話、昨日も言ってなかったか」今、目の前には俺の友達がいる。「そ、そうだったか」俺は意識していなかったが、どうやらそのようだ。「昨日どころか、一昨日も聞いたぞ、いい加減忘れたら」友達は半ば呆れた表情をしている。
「そ、そうしたいんだけどさ...…」俺は手を頭の後ろにおいて苦笑い。
「わかるよ、その気持ち」友達は呆れながらも話を聞いてくれる。だから友達なのだろう。「けど、向こうの気持ちとか、解らないんだろ」
「うん、確かめようもなくて...…」俺は正直に答える。
「相手にはすでにパートナーがいたかもしれないんだ。それに、仮にそうではなくてもだ」「わかっている!それは言うな」ここで俺は友達を止めた。俺だってわかっている。わかっているんだ!

 彼女との出会いは、半年間の留学先での出来事、フィリピンの英語留学先でのこと。そのとき俺は英語を学んだが、片言の英語しかしゃべられず、彼女の前では恥ずかしくて何もできなかった。

「本当に好きなら、もっと英語勉強しないと」そう友達に言われてしまう。俺は何も言い返せない。静かにうなづきながら友達と別れ、家に戻った。

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「あれ、誰だこれ?」俺は驚いた。家に帰る途中見たこともない相手からの着信である。普通に考えれば危ないものだと思うだろう。フィッシング詐欺のようなもの。だが俺は、少し精神的に不安定だったのかもしれない。
 半ばやけくそになっている。だから開けた。すると驚いたことが起こってしまう。ひらがなが主体だがその相手が、なんと俺が片思いである相手だったのだ。

 実は彼女の店に行った最後の日、俺は思い切ったことをしていた。それは俺の名刺を店に残したのだ。それも彼女に渡すのではなく、店のレジの前にあったマスコットのぬいぐるみに挟んでおいた。その名刺には英語で連絡先メールアドレスも書いている。だから連絡をくれたようだ。

「こんど、ニホンにいきます」と、ひらがなと片仮名でかいてある。その理由は、今度彼女の方が日本に留学するのだという。お店の人がと思ったがそうではなかった。彼女はあくまでバイトをしていて、本当は現地での最高学府の大学を卒業したという。さらに日本語を少し学んでいるとのこと。日本への関心が高くなった彼女は、日本の大学院に入るために留学するというエリート学生だったのだ。
「アナタともっと、オハナシしたかった」とメッセージに書いてある。どうも彼女の方も俺の事を気にしているような書き方だ。それはそうかもしれない。でなければ向こうから俺に対してメッセージなど送ってこないはずだ。

 彼女が言うには、俺が無意識に置いた名刺を俺が立ち去るときに見つけたという。それまで無かった日本語で書かれたカード。彼女が手にすると裏には俺の連絡先が英語で書いてある。彼女の方もしばらく迷ったという。
「だけど、にほんじんのシリアイガホシイ」ということで、重いっ切って俺に連絡が来たという。まさかの展開に、俺は全身から電気が走った。
 こうして彼女が日本に来たとき、俺は日本の案内人として彼女と会うことになった。もちろん空港に迎えに行くつもりだ。

「なるほど、卒業式の前に一度日本に来るのか?日本には2月14日...…そうだ」俺は一計を考えた。2月のバレンタインデー本来なら女性から男性にのはずだが、あえてやろうと思った。
「俺からチョコレートを彼女にプレゼントしよう。そして」

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