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日本の果てに向かって 第534話 7.10

単独作品ですが こちら の続編のようなものです。
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「え! 違うの あちゃあ」優奈は、海陽からのメッセージに愕然とした。これは石垣島から離島に向かう船の中。すでに外洋にでているためか、波はやや強い。
 海陽からの連絡の前に、優奈は船のデッキにでていた。すると茶色いボディに身を包んだ複数のカツオドリが、船の周りを滑空している。その速度は離島に向かってスクリューを全力で回し、白い波を攪拌して航行している船よりもはるかに速い。後方から翼を大きく広げて滑空。まるで人間が作り上げた文明の乗り物をあざ笑うかのように、高速で抜き去り前に行く。
 だが彼らの目的は、船に乗っている人間をからかうのではない。船が通過するためか、周囲では魚が飛び跳ねていた。そして鳥たちはその魚を狙うのだ。そして彼らは海中にも潜って魚を捕る。だから滑空時によく見ると、ボディーが濡れて、太陽に反射して光輝いている者がいた。

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 優奈は昨日石垣島に到着し、ホテルで1泊。そしていよいよ離島にいる海陽に会うために港から船に乗った。優奈は船に乗ってからサプライズ的に海陽に連絡して驚かそうと画策。そして船に乗って港を出てから連絡を入れた。ところがその返信に目を見開く。優奈は何を間違えたのか? 違う島に向かう船に乗ってしまったのだ。
「そうだった。海陽君は波照間島だった、なのになんで与那国島行きの船に乗ったんだろう」
 
 石垣島から与那国島に行く方法は、毎日就航している飛行機と週2便の船。ちょうど優奈が到着した次の日の午前中に出航し、4時間かけて船が動き出す。「週2回しかないの。急がなくては」この日程が限られているというスケジュールに、気を取られてしまった優奈は、無意識に与那国島に海陽がいると勘違い。そのまま当日のチケットを買い、何のためらいもなく乗り込んでいた。

『しょうがないな。今日は与那国島で一泊して、それでまた石垣島に戻っておいて』とのメッセージ。「ここまで来たのに......」優奈は残念そうに目をつぶる。と言っても今更戻れない。言われたとおりに同意の返信を返す。
『そうだ、与那国島に行くならいいところがある。日本最後の夕日が見える丘というところ。ここの夕日がおすすめなんだ』と海陽から返事がきた。

「日本最後の夕日ねえ。間違えちゃったし、ついでに行ってみるか」

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 船は予定通り、午後2時過ぎに与那国島に到着。旅館の予約もしていなかったが、港の近くの宿泊施設をスマホで探して片っ端から連絡。比較的近いところと連絡が取れ、どうにかその日の寝場所は確保できる。
 すぐにチェックインできたので、夕方まで部屋で休憩することにした。「まるで熱帯地域みたいね」昨日到着した石垣島も、本土と比べるとずいぶん暑い。だが与那国島はさらに暑い気がした。ここは日本の西の果てである。台湾やその先に続く東南アジアに最も近いから、余計にそうなのかもしれない。

「そろそろね。歩いて行けそう」優奈は夕暮れ前になり宿を出た。そして海陽が勧める『日本最後の夕日が見える丘』を目指す。
 歩くこと20分程度、とりあえず高台まであがると、その場所はあった。
「石碑があるからわかりやすいわ」優奈は目印目指した最後の頑張りをみせる。

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 どうやら優奈は早く来すぎたようだ。太陽が沈むまでもう少し時間がかかると感じる。「ここで座って待つか」そう言って石碑の反対側にあった石の上に腰掛けると、静かに夕日が沈むのを待つ。

「さて、明日は石垣島に戻って、それで明後日に波照間島か。もう少しね。この前ZOOMで見たときも、彼は随分焼けてたわ。この日差しじゃ当然ね。でも、もっと焼けてるかも」優奈は数日後に再会する海陽のことをあれこれ頭の中で想像していた。
「優奈! よく来たな」突然どこかできたことのある声。「あれ、空耳」
海陽の声が聞こえたが、最初は彼のことを想像するあまり聞こえた錯覚と思った。だがもう一度「優奈!」との声。「え、いるの海陽君?」

 優奈が声のする方を見ると、この前よりさらに焼けた白いTシャツ姿の海陽が現れた。「あれ、海陽君! なんで? 違う島って言ってなかった」
 まさかここで海陽が来るとは思っていない優奈は、頭が混乱する。
「ハハハ! びっくりした。実はお前から突然メッセージが来たときに驚いたよ。だって今日から3日間、俺休みだったんだ。だから前から気になっていた与那国島に遊びに来たんだよ。俺は飛行機だけどね」
「え!」
「そしたらお前が、与那国島行きの船から今日メッセージが来たから、本当にびっくりだ。まさか八重山に来るなんて全く言わなかったし」
 優奈は少し不快な表情で「なんで、そのときに海陽君行ってくれないの! もう」だが、海陽は笑顔を絶やさず「ああ、だったらちょっとサプライズしようかなってね。大体、君が最初に俺に黙ってサプライズしようとしたし」と言って笑う。「ああ、そうか」その笑顔に思わず優奈も笑った。
 
 そんな会話をしていたら夕日がいよいよ沈んでいく。途中からふたりは手をつないで西の空を見た。こうして日本で最後に沈む。夕日がゆっくりと水平線に向かって......。

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 この日の宿は別々だったが、翌朝からは常に一緒に行動するふたり。レンタカーをチャーターして海陽が運転。島の名所を回った。そしてその日の夕方に石垣島に戻って一泊した後、翌日は海陽の働くダイビングショップのある波照間島に来た。

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「与那国は、日本最西端。で、波照間は日本最南端」ダイビングショップの車を借りた海陽は、優奈を最南端の場所に案内する。「見た目は同じ水平線ね」「だけど天気が良ければ台湾も見えるかもという与那国と違い、波照間の先には何もないんだ。もちろん厳密に海を南下すれば、フィリピンあたりに到達するが」

「え、『ぱいぱてぃろーま』は?」優奈のこのキーワードに海陽は驚く。「何、優奈なんでそれを? 波照間島の南にある伝説の島の名前は、俺もここに来てから初めて知ったのに」
 意外なことだったのか、本当に驚いている海陽。ここで優奈は得意げになり「本土の沖縄料理店の人に教えてもらったの。その人は波照間島出身なんだって」と言って笑いながら舌を出す。「そうか、なるほどね」海陽も笑顔になって優奈を見つめる。

 しばらくふたりは最南端の海を眺めた。この日の天気が良いが、外洋に浮かぶ島だからか波立っているようだ。
「実は、お前がここに来てくれて、俺決心したんだ」突然海陽は真顔になる。
「え?」「あ、あのう、お前が俺のところまで来てくれただろう。たぶん俺とお前は一緒になる運命だと思ったんだ」
「うん、私もそう思う」優奈は笑顔で返事した。

「でも、俺まだダイビングショップで働き始めたばかり、だから収入は少ない。でも優奈とは離れたくない。あ、まだそういう物とか何も用意もしてないけど。そのう、え、あ、結婚とかしてみないか」
 海陽からの突然のプロポーズ。さすがに突然すぎて優奈は戸惑ったが、心は決まっていたのか数秒後にうなづく。
「はい、わかりました。私はいったん本土に戻りますが、会社を辞めるかリモートで働けないか会社と交渉するわ。そして海陽君のいるここに必ず戻る。だから改めてよろしくお願いします」と、承諾するのだった。

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シリーズ 日々掌編短編小説 534/1000

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