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眠る大熊猫 第816話・4.19

「ふう、今日も疲れた。それにしてもさ、人気者は辛いよね」大熊猫(パンダ)はそういうと布団に入った。
 大熊猫が野生動物のように裸で適当な運動をして、動物園に見学する人たちに愛嬌を振りまく行為。人間からすれば大熊猫の本当の生態を見ていて、夕方になれば、横にある小屋でで寝泊まりをしている思っているが、実際には違った。

 動物園の地下には動物たちの真の居住区がある。小屋の中にはその地下に通じる秘密の道があり、動物園の営業時間が終わると、動物たちも人間同様に服を着て地下に向かう。居住区には各々の家があり、人間同様の生活をしている。

「私たちの先祖は、確かにあんな生活を送っていたらしいけど。実際には私たちも進化しているのよね。と言っても少数派の大熊猫ファミリーだから、私は1日たりとも休むことができないわ。
「ふぁああ、もう寝ようかしら」大熊猫はそういうとイビキをかいて眠る。

ーーーーーー

「あれ?」大熊猫が気付くと、動物園の大熊猫の活動エリアの中心にいた。見ると、長く眠っていたようで、起き上がったのを見た人間たちが歓声を上げている。
「あ、ああ、そうか。私、いつの間にか眠っていて夢を見ていたのね。変な夢。あそこにいる見物している人間みたいな格好して、窮屈で仕方がなかったわね。綿みたいなのに挟まれて寝てたし」ここで大熊猫は大あくび。
「さてと、しっかり眠ったからちょっと遊んであげようかな」
 大熊猫は立ち上がるように歩きだし、見物客の前にきてポーズをとる。客は大喜び、みんな一斉にスマホで撮影を始めた。

 大熊猫は客の反応に上機嫌。さらに喜ばせようと、エリアの中にある木に向かうと、そのまま木登りを始めた。客の反応はさらに良くなり喜んでいるいるのがわかる。
「ウフッフフフフ!」思わず口元が緩む大熊猫。ところがここで思わぬ想定外なことが起こってしまった。少しでも喜ばせようと木の幹から枝に足を置いたが、細い枝では大熊猫の体を支えることはできない。少し嫌な音が枝の方から聞こえたと思った瞬間、大熊猫の体が地上に向かって落下。
「キャー」大熊猫の意識が吹っ飛んだ。

ーーーーーー

「うわぁ、ゆ、夢!」大熊猫が起きた時はまだ夜中だった。「ふう、もう仕事が夢で出てきたし。何、最後の。木の枝が折れて落ちたのって」大熊猫は全身に汗をかいている。
「嗚呼、困ったわ、こんな悪夢を見るなんて、相当ストレスが溜まっているのかしら。朝、飼育員さんに相談した方が良いわ」
 とはいえ、悪夢で目が覚めてしまった大熊猫。仕方なく部屋にあるテレビをつける。テレビは深夜番組を放送していた。番組内容は猿が何かしゃべっている。
「動物共通言語を開発してくれたから、まったく種類が違うのに、猿のしゃべっていることの意味がわかるっていいわ。それにしても猿って小難しいことばかり考えているのね。まるで人間みたい」
 大熊猫はしばらくテレビを見ていたが、猿の小難しい話が幸いしたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。「ふぁああ、また眠くなってきたわ。寝ようかしら」 そう言って大熊猫は再び布団に入る。

ーーーーーー

「あれ、どうなっているの?」気が付くとここは動物園の中にある小屋のような部屋。見ると飼育員が複数目の前にいた。「よかった。目が覚めてくれたぞ。これで大丈夫だ」飼育員たちが笑顔になっている。
「あ、あのう」私が飼育員に話しかけようとすると「おまえ、木から落下して脳震盪を起こしたんだ。もう心配させるなよ。お前が動物園一の人気者なんだからさ」別の飼育員も口を開く。「大体、木登りで客を喜ばせるとか無理に芸なんてしなくていいんだよ。そんなのは猿にやらせればよい。君はおとなしく寝ているだけでも客が呼べるからな。絶対無理するなよ」
「今日は」私が飼育員たちにこの後の予定を聞くと。「今日はいいよ。もうすぐ夕方だし、お客さんあれ見てみんな引いてたよ。もう今日はそこで寝ていなさい。また明日頼むよ」

 そういうと飼育員たちは小屋を去っていった。
「アタタ。ちょっと腰が痛いわ。そうか私、無茶したのね。こんなに痛い目に遭うならやめておこう。そうね私は動物園一の人気者。いるだけで客が呼べるのは私かレッサー(小熊貓)くらいしかいないわ」

 飼育員からおとなしくするように言われ、狭い小屋で横になったままの大熊猫。「ああ、まだ明るいのに。やれやれ退屈ね」
 それでも、大熊猫は自然と睡魔が襲う。気が付いたら記憶がない。

ーーーーーー
「ふわあああああ、よく寝た」ようやく目が覚めると外を見る。すでに太陽は出ていた。「本当に、今日は変な夢ばかり、なんだったの。夢の中で夢を見ているとかになって」
 昨夜見た不思議な夢のことを思い出していると、隣の部屋から声が聞こえる。「ねえ、やっと起きたの? 今日は動物園に大熊猫を行く予定だったでしょ」

「そう、そうだった!」私はベッドから飛び上がるとあわてて身支度をする。「それにしても変な夢だった。いくら私がパンダが好きだとしても自分がパンダになる夢。それも通常バージョンと、人間のような生活をしている進化バージョンのふたつを交互に見るなんてね」
 
 このとき私は思った。今日この後パンダを見たときには、今までとは違う感情が起きそうな気がする。




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