見出し画像

本みりんとタイ料理で晩酌

「どうしたの、紙袋なんて」海野沙羅は、会社から戻ってきた勝男がいつもと違う袋を持っていたことが気になった。
「おう、これお土産だ」「お土産って何?」

「実は全社で行われたコンテストでうちの部署が優秀賞を取ったんだよ。その景品が今日届いた」
「景品?なにもらったの」
「本みりん。今日11月30日はいい(11)みりん(30)で、本みりんの日らしいぞ。結構良いタイミングだな」

「みりんねえ。それ何でもらったの?まさかその記念日だから」
 勝男は軽く首を横に振る。「じゃなくて、うちの部署25人いるんだけど、優秀賞はいろんな商品20種類をもらう。それでメンバー全員で分けることになって、どれにしようかとくじ引きをして決まったんだ」

「で、みりん」「そう、本みりんだ。くじなんだから文句をいうな」
「本みりんか、なんとなく微妙だわ」不満そうに口をとがらせる沙羅。
「そんなこと言うな。5人ほどもらえないのがいたんだ。彼らをフォローするために課長が変に気を使ってたぞ。次の部署の飲み会は5人だけちょっと会費安くしようとかなってるし、それ聞いたら外れたほうがよかったよ」

「そんなことない。調味料をタダでもらえるのは主婦の強い味方。さっそく開けてみましょうよ」
 沙羅は、勝男から紙袋を受け取ると、さっそく包装を解包した。すると透明のボトルに入ったみりんが登場する。

「え、埼玉県? すんでいるところと同じ県よ。そんなところでみりん作っているんだ。本みりんと聞いたら三河とか有名だけど」
「うん、加須市か。ということは群馬の館林や佐野に近いな」ふたりは初めて見る本みりんのメーカーに釘付けになる。
「じゃあ、いまからさっそくつかおうかな」沙羅がみりんのボトルを手に持つと、勝男が大声を出す。「ちょっと待って」「え?」
「ちょっとそれガラスの猪口に入れてくれないか」
「なんで?」「何でって、みりんを呑むんじゃないか」「え、みりんを呑むの?というかこれ飲めるわけ」

「知らないのか、本みりんは飲めるんだぞ。これを見たところ酒蔵が作っているようで、昔ながらの無添加とある。これは飲まないともったいない」「はいはい、相変わらず変わり者ね」
 沙羅は立ち上がって冷酒用のガラス猪口をもってきた。勝男は嬉しそうにふたを開けると、透明の猪口にみりんを注ぐ。黄茶色のみりんの液体が透明の空間を少しずつ色づけてくれる。気が付けばみりんがなみなみと猪口に入っていった。

「よし、あとは好きに使ったら」「OKさっそく使ってみるわ。晩酌になりそうなものをサクッとね」
 沙羅はみりんを手に置くのキッチンに入った。数分後にはキッチンのほうからフライパンで何かを炒めている。油が高熱の鉄に対して反応している音がした。

「さて、何を作ってくれるんだろう。その前にちょっと味見してみるか」
 勝男は猪口を花の近くに近づける。米が原料とあるが、むしろやわらかい甘さのを感じる香りがした。次に舌を出して舐めてみる。「甘い、まるでリキュールみたいだな」

 気が付けばフライパンの炒める音が終わっていた。

「できたわよ。さっそく頂きましょう」「うん?これは」
「パッタイ(ผัดไทย)。今日は作る気満々だったの」「あ、タイ料理か。これ米の麺使ってんだよな」

パッタイ

「それにしても本格的につくったな。でもこれって酒の晩酌というよりご飯ものでは?」
「でも、焼きそばだし、晩酌でちょこっとつまむのよさそうよ。この前パッタイにみりんを入れるレシピをネットで見つけたの。それ思い出して試しにほんの少しだけ入れてみた」
「タイ料理にみりんか。また変わった組み合わせだ」「まあ、いろいろやってみないとわからないわ。ちょっとまって」沙羅はいったんキッチンに戻ってくると、先ほどのみりんと猪口を持ってきた。
「私もちょっと本みりん味見するわ」

「よし乾杯」ふたりはみりんの入った猪口を合わせる。さっそく口に含む。「甘い、とろみがある」口の中にはみりん由来の甘さが広がった。しかし同時に広がる香りはとても心地よい。「食前酒っぽくもあるな」勝男は猪口のみりんをほとんど飲み干した。

「次はどうする。今日は本みりんだけで行く」「いや、普通の酒にしないか。パッタイならビールが合うだろう」
「そうね」と言って沙羅は冷蔵庫からビールのロング缶を2本持ってきた。
 プロトップを開けると勢いよく噴き出る炭酸音。透明のグラスに注がれる黄金色とその上で不安定なふくらみを持つ泡。
 勝男はさっそくビールを口に含む。甘いみりんを飲んだ直後のためか、いつもよりホップの苦みが鮮烈に口の中を覆う。口から入った黄金の泡は、みりんの甘い後味を消し去って口の中がすっきりする。

「うーん旨い。タイで飲んだときを思い出すよ。ああタイに行ったのは何年前だったかな」「えっと5年前かしら。懐かしいわね。あの独特の熱を帯びた空気には、フルーツがかすかに香ってたわ。あ、ドリアンまた食べたくなった」
「でもいつ行けるだろうね」「さあ、いつかね。あ、早く食べないと!米麺だから冷めたらくっつくわよ」

 ふたりは懐かしい思い出を語りながら、みりんを加えたパッタイをつまみ、冷えたビールを味わうのだった。


こちらのコンテストに参加してみました。


アドベントカレンダーについて

昨日、ご案内しました「アドベントカレンダー」について、登録方法に関する質問を複数の方から受けましたので説明します。

1、最初に https://adventar.org/calendars/5841 をクリックしてください。

2、そうすると次の画面が出ます。「登録」と書いているのは空いている証拠なのでそこをクリックしてください。

アドベント1

3、そうしましたら次のようなものが出てくるので、左下の保存を押せば登録されます。あとメッセージはご自由にどうぞ。

アドベント2

特にテーマも絞っていませんし、何の記事でも良いです。また私をフォローする必要もありません。今までからみのない人でも良いので興味がありましたらどうぞよろしくお願いします。
(勢いでやってしまったばかりにいっぱい余ってしまってどうしたものかと困っています)


こちらもよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーーーーーーー
シリーズ 日々掌編短編小説 314

#小説 #掌編 #短編 #短編小説 #掌編小説 #ショートショート #本みりんの日 #私の晩酌セット #埼玉 #タイ料理 #パッタイ #勝男と沙羅


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?