佐賀駅から　第852話・5.25

「さてと、佐賀駅に着いたが、これからどこに行こうかな」佐賀に旅に来ている。なぜ佐賀に来たのか、理由はあまりにも適当だが、今まで佐賀県に来たことがなかった。たまたま長期の休暇が取れたので、どこに行こうかと思ったとき、佐賀という文字が目に飛び込んだ。
「何があるかわからないが行ってみよう」ということで来た。何も予定を立てずに来たので駅に来たのは良いものの、どこに行こうか迷ってしまう。地図を見る。ありきたりだが、駅から南に歩いたところに城跡があった。「とりあえず佐賀城跡にでも行こうか？」と駅から南に向かて歩いて行く。駅からまっすぐに続く道、途中で小さな水路をいくつか渡る。城跡に行く少し手前にバルーンミュージアムというのがあったので、ちょっと覗いてみた。

「熱気球か、乗ってみたいけど怖い気もするな」とミュージアムをさらりとみてまた城に向かって歩く。町中の水路よりも幅の広い濠を渡ると城内に入った。白の中には県庁や県立のミュージアムがある。でもここは城に行ってみた。門をくぐって向かったところにあったのは意外なもの。「天守閣ではなく本丸？」そこは天守閣ではなく本丸御殿を復元した建物。後で調べると日本で初めて本丸御殿を復元したそうだ。
「江戸時代とかは戦いもないから、天守閣も不要。殿さまは御殿でくつろいでいるんだろうなあ」そう言いながら再建された本丸御殿の建物を見学した。

「さて、次はどうしようかな」佐賀城の南側の濠を越えるとどうしたものか頭をひねらせる。
「地図を見るともう少し道があるな」ということで、そのまま南の方向に進んでみた。しばらく歩くと、国道とすれ違う。さらに南に向かった。住宅が並んでいるところをさらに進むが、やがてその住宅もまばらとなり田園地帯に出てきたようだ。
　それだけではない。道がどんどん細くなっている。別にこの先に山や森などがあるわけではないが、少しずつ不安になってきた。

「次の広い道で曲がろうかな」ということを決めて歩くと、少し広い道が出てきたようだ。「これは佐賀県道か、さてどっちに行こうかな」しばらく立ち止まって迷ってしまった。この辺りは遠くに民家が見えるだけで田んぼか畑しかない。ビニールハウスが少し見えるくらいか。
「迷うな」およそ1分ほど迷ったとき、後ろから車が追い越していく。するとその車は左に曲がった。「よし、左にしよう」なんと適当な動機なのだろう。その車の後を追うように左に曲がって歩いてみる。もちろん車は圧倒的に早いから気づいたら虫のように小さくなっていたが。

　県道をひたすら歩く。やはり同じような田園地帯が続くだけ。見るとこの道は佐賀外環状線というらしい。この辺り、佐賀平野にはクリークと呼ばれる排水路が縦横無尽にあることは佐賀駅に来る前に、列車の中でちょっと調べていたので知っていた。細い水路に混じって少し大きな水路を越える。すると国道と合流したようだ。「国道444号線！いろんな意味ですごいな。この先には何があるのかな？」そう思っていると近くにちょいと気になるものを見つけたので、いったん国道から離れてみる。

　早津江川の畔に来ると、三重津海軍所跡というところに来た。「実質的な国産初の蒸気船『凌風丸』の製造した場所か」近くには佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館というのがあるのでそこにもよってみる。
「佐野常民が日本赤十字の創設者で、この海軍所跡が世界遺産に登録されているとは、偶然に歩いて見つけただけなのに面白い」
　さっきまで田園風景ばかり見ていて単調だっただけに、久しぶりに楽しいひとときとなった。

　先ほどの国道444号線に戻り、さらに歩いてみる。徐福サイクルロードというのが現れて、そっちの方に行くと橋の駅ドロンパという施設がある。「橋の駅、道の駅なら聞いたことがあるのに......」
　少し不思議にあ思ったが、その施設で販売している物を一通り眺めていたら、ここが橋の駅などという名前になっている理由がわかった。「ほう、これどこかで見たことがある」
　それは筑後川昇開橋（ちくごがわしょうかいきょう）というもので、昔の国鉄佐賀線で使われていた橋。大型船が川を渡るときに橋の真ん中が垂直方向に上下するのだという。タワーのような橋を撮影。渡れるようなので渡ってみることにした。
「この辺りが上下するところか」コンクリート床の遊歩道が突然金属の床に変わっている。両方のタワーがあるので、その場所が稼働するところであることが一目瞭然。

　こうして橋を渡り対岸に来た。そしてこのときに重要なことに気づく。そこは佐賀県ではなく福岡県に入ったことを。

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シリーズ　日々掌編短編小説　852/1000

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