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先祖降臨 #ぐるぐる話(第40話)

 この物語は、tsumuguitoさんの企画しているリレー小説。ぐるぐる話の40話部分です。これまでの内容が気になる方は下記リンク先をご覧ください。

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 那須塩原の温泉宿・楓屋。3代続き地元ではトップクラスの売り上げを誇る、この名旅館にとっては最大のピンチ。いや、それまで燻ぶっていたものが一気に表に噴き出たといっても過言ではない。この日の朝は思わぬ暗い空気を旅館の関係者、そして木綿子と龍之介が集まる広間に漂っていて、重苦しい沈黙が流れていた。

 突然空が暗くなった。それまで晴れていたはずの天気が、あっという間に黒い雲に覆われる。あたかもこの広間の中にいる人たちの、それぞれの悪しき思いが、そのまm空に反映されたかの如く。
 すると今度は大きな稲妻の爆音が鳴り響いた。近くに落ちたのか!一瞬光って部屋にフラッシュが光ったかのよう。このとき広間にいた女性陣からは悲鳴のような高い声が上がった。


 こんどは突然広間のドアが開き、一人の少女が入ってきた。入院している服のいでたちで、広間の出席者の真ん中で立ち止まった。
「あ!柚」声を上げる木綿子。
「おい、柚!お前何しているんだ。まだ病院で寝ていないと」と龍之介。
 前日に露天風呂で溺れて意識不明と混濁を繰り返し、入院中の柚がなぜか現れた。ところが柚は、小学生とはとても思えない表情で眼光が鋭い。目が薄青く光っている。何かに憑依しているかのようだ。そして堂々とした振る舞いで、多くの大人たちを見下ろすように胸を張る。
「この小娘の名前が、柚というのか、悪いがしばらく体を借りるぞ」とは、もちろん柚のものとは違う、野太く力強い大人の声。さらにエコーがかかっている。

「信用しないかもしれないが、ワシはお前たちの先祖である」「せ・先祖?」
「ワシの名は平夢盛(たいらのゆめもり)。平安末期に日本を支配した平清盛の孫である」途端に広間にいた人々がざわつく。
「夢盛!聞いたことがない」「そうだ、それに平家は滅亡したはずだ」誰かはわからないが、夢盛と名乗る存在に突っ込みを入れる男の声。従業員の誰か、板前たちだろうか?

「そう、我が平家は表向き滅ぼされた。祖父清盛が築こうとした大陸との交易都市を目指していた野望。広島の宮島にその名残がある。だが源の連中らにつぶされた。特に頼朝・義経兄弟が憎い!」夢盛の語調が強くなる。
「諸君らも知っている通り、祖父亡き後に源の連中らが突然軍を率いて襲ってきた。そして我らは逃げるしかない。ついに九州近くの壇ノ浦に追い詰められた。そのとき元服前の少年だったワシは、最悪の事態を考え、軍団の最後方の小舟で供のものと潜んでいた。それは祖父・清盛の血を守るため、すぐに逃げられるようにだ」
「それで逃げたのか? 平家落ち武者伝説ということか」
「半分は正しい。形勢不利とみて小舟は脱走したが、運悪く源の軍勢に見つけられてしまった。そのとき突然光に覆われ、ある人たちに助けられた」

「ある人とは?」と声を出したのは女将の楓。「それはスターピープルと呼ばれているもの。彼らはシリウス星人と申しておった」「し・シリウス!」ここで再びざわつきの声。
「そしてワシはそのシリウス星人からアンドロメダ星人の霊が入っていると告げられた。そして歴史の表舞台から消えた影となるが、この国で子孫は生き続けるだろうと」
「スターピープル? そういえばそんな話が昨夜」木綿子は誰にも聞こえないようにつぶやいた。

「シリウス星人に助けられ、アンドロメダ星の霊を持つと知ったワシは、一部の供とともに生き残った。あの出来事が夢のようだということで、ワシが元服したときの名前が夢盛となったわけじゃ。そしてスターピープルたちにより特殊能力を身に着ける。そして、この力を使い、我が平家を滅ぼした憎っくき源たちを闇に葬り去ることにした」「げ・源氏を」との声にうなづく夢盛。
「幸いなことに、弟の義経は兄・頼朝に殺された。兄はその後将軍となり鎌倉に幕府を開く。その際にワシの特殊能力で、頼朝が愛する北条政子の凋落に成功した。頼朝は天命を全うしたに見えるが、実はあれはワシが仕組んだ毒でわからぬように殺害。そしてその子たち、2代・頼家と3代・実朝も最終的に殺害に成功し、源の一族を滅ぼすことに成功したのだ」

「そ、そんな馬鹿な!」「ふん、歴史の真実などタイムマシーンでもない限り、誰にもわからん」相変わらず突っ込みを言える従業員の声を、夢盛は一蹴。
「宿敵、源を滅ぼし我が恨みも消えた。以降は子孫が歴史の裏で活躍した。例えば鎌倉末期には日本に来た元軍を追い返す手伝いをし、鎌倉幕府滅亡後には南朝側として戦った。その後の戦国時代には関東で勢力を持っていた北条氏のところで潜んでいたが、豊臣秀吉の大軍勢の前に北条は潰えた」
「では、秀吉も恨みで」今度は3代当主の聡の声。「いや北条は我らとは無関係。秀吉への恨みなどない。その代わり海を渡って国外に行った」「国外?」
「そうだ、それはシャム。アユタヤ王朝である」「アユタヤ... ... タイ!」とつぶやいたのは木綿子。

「われらの子孫は、アユタヤにいた山田長政を頼りそこに住んだ。その後日本は江戸幕府となり、往来ができなくなった」「鎖国か」
「その通り。だが我が一族は地元・アユタヤの妻を迎えることなく、この平家・清盛の血とアンドロメダ星の霊としての純潔を守った。暫く平和であったが、今度はアユタヤがミャンマーの王朝につぶされた」
「それはタウングー王朝だ。ヤンゴン滞在経験のある職場のイギリス人が言っていた」と龍之介が横にいる木綿子に聞こえるようにつぶやくと腕を組む。
「だが、すぐにタークシンという将軍が追い払った。そして彼が新しい大王となりトンブリーという都が作られる。それがワットアルン、つまり暁の寺の周辺だ。この寺はミシマという作家が有名にしたようだな。
 すでにこのころには寺院があった。そしてわれらは大王と力を合わせて新しい王宮と町を再建する。その後別の王に代わり、それが今のタイの王室。川の反対方向にできた都市がバンコクというわけだ」

 「それで、旅館に暁の寺が」木綿子は事件が起こる前の風呂に入ろうとしていたときのことを思い出していた。
「我らの一族は、シャムの人たちからは中国人と思われていたようなので、中国人街で住む。だがさらに強力な欧米なる国が進出してきた。連中らの武器は見たこともないほど強力。ときの当主はそのとき、恐らくはシリウス星人らしき存在から啓示を受ける。こうして中国を経由して再び日本に戻ったのじゃ。それが幕末の開国前後のとき」
「中国から日本に!ご先祖様からそんな話聞いたことがない」とは楓。
「ふふふ、さっきも言った通り、中国から渡っているが元は日本人。幕末から明治の混乱したタイミングで、他の日本人と区別がつかないように同化することなどは簡単なこと。アンドロメダ星の霊による特殊能力も効いたのだろう」

「その子孫が、壱呉ってこと」楓のつぶやきに、夢盛はうなづきながら「琥珀の先祖もだ。そしてこの小娘も実は我が一族の末裔だ」

「え!柚が末裔ってことは」「そう。そのほうも、我が一族の末裔ということになる」と夢盛は木綿子を指さした。「ということは、木綿子さんや麻子たちと楓屋の人たちとは遠い親族」「まさかこんなことが!」聡も驚きの表情でつぶやきながら龍之介のほうを見る。


「長くなったが、ワシがここに来た理由はひとつ。お前たちは一時はこの国を支配した我が祖父清盛の末裔で、800年もの間生き続けていた一族の血を持つ者たちだ。アンドロメダ星の霊力もある。そんな素晴らしい能力があるはずなのに、たがが旅館の運営ひとつで、ここまで慌てるとは、まことに情けない。だから活を入れに来た。お前たちの能力をしっかり使えば、この程度の危機など、赤子の手をひねるよりも簡単に解決できるはずである!」

 夢盛の力強い言葉に体を震わせながら畳にこすりつけるように頭を下げる楓と聡。従業員も続いた。ここでようやくにこやかな表情になる夢盛。
「わかればそれでよい。では小娘、いや柚の体を返すとしよう。ただこの子の体を借りたので、彼女に褒美を与えてほしい。彼女はスマホなるものが欲しいと言っておったぞ。では」

 そういうと、夢盛の声は消え、それまで暗闇だった外の雲がなくなった。広間は再びざわつく。するといつの間にか、杏と麻子、それに森田美花と花音、さらには旅館の組合長まで姿を現した。

「あ、あれ私、ここどこ、あれ?みなさん。え? 確か風呂に溺れて」
 そこには小学生の声に戻った柚が、左右に首を振りながら状況をつかもうと必死になっていた。



追記:このシリーズ過去に一度参加したことがあります。

 このシリーズ一応目を通していたのですが、このころと比べてずいぶんストーリーが進んでいて、今回の執筆を前に1話からもう一度じっくり読んだうえで書いてみました。おそらく大きなずれはないと思います。よろしくお願いします。




※こちらの企画、現在募集しています。
(エントリー不要!飛び入り大歓迎!! 10/10まで)

こちらは87日目です。

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シリーズ 日々掌編短編小説 252

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