見出し画像

眠れない夜に 第1165話・5.23

「今日は午前中からでもよいかな」こうしておいらはまだお昼にもなっていないのに昼寝をすることにした。理由のひとつとして昨日は目が冴えて眠れない夜だったこともある。
 おいらは猫だ。猫だが前世の記憶とやらが少し残っていて、その時は人間だったらしい。だからその時の記憶が残っている分、周りの猫よりは利口だ。字だって読めるものがあるし、わずかながら人の会話も何を言っているのかわかってしまうのだ。
 とはいえ、今は猫。4つんばいになって駆けずり回り、生肉なども平気で喰らう。もちろん会話もできないし、ネズミのような輩を見ると本能が働いて無意識に突撃してしまうのだ。

 今日は天気も良かったので、おいらは草むらの上に仰向けになった。今日は心地よい風もときおり吹く。周りには人もいないし他の動物たちの姿もなかったので、絶妙な昼寝のタイミングである。
「さてと、ひと寝入りするか」と、思って目をつぶったが、数秒後に慌てて目が明いた。

「まてよ、あの夢だけは勘弁してくれだよな」実はおいらにとっては最近頭痛のタネになっている夢がある。それは特に最近のことだが、どうも人間時代の夢を見る事が増えているのだ。
 毎日は見ないが、3・4日に一度は見ている気がする。
 どんな内容かといえば、おいらが起き上がると人間になっていて、すでにパジャマなるものを体にまとっている。それから人間の指示、それは多分親かもしくは配偶者のような親しい存在だと思うが、それによって別の服に着替えるというものだ。
 それから起き上がるのは良いが、いつもの4足歩行ではなく、2足歩行になる。いつもなら後ろ足と同じ役目をしている前足が、人間界で言うところの手となるから、いつもとは違った動きをするのだ。その、服とやらを脱いだり着たりするのも、前足が進化した手なるものを駆使する。

 さらにだ。起き上がるときに二足歩行だから前足は足として使わない。あくまで人間界で言うところの手だから二足歩行で普段は体からぶら下げているだけだ。後足だけで移動しなければならない。それにしても人間というのがすごいといつも思うのは、どうしてこの体制で移動できることだろう。
 頭があんなに地面の上から高いところにあって、本当にバランスを崩さないのかと感心するのだ。

 こんな調子で夢を見るから、見終えたときにはいつも飛び起きる。慌てて自らの今の状況が、本来の猫であることを思い出して、我に戻って安心するが、あの夢を見た直後はもう見たくない思っているのだ。
「あの夢を見るととにかく頭が疲れる」おいらは身も心も猫だ。いくらわずかに人間時代の前世の記憶があり、その記憶のせいで夢となって人間時代のことが浮かんだとしても所詮は猫、あんな人間界の高度な生き方などできるはずもない。

「なんで急に見始めたのだろう」おいらは最近本当にこの人間の夢を見るようになるから、最近は寝る前に、いつもその時の記憶がトラウマとして残る。せっかくのお昼寝タイムを台無しにしてしまった。
「寝るの止めようかなあ。気持ちよさそうだけど」おいらは目を開けたまま空を見る。特に深くは考えないのが猫の世界。おいらのような野良は飼い主なる存在に気を使う必要もない。着の身着のまま生きて、腹が減った時に動き回って餌を得るだけでよいのだ。

「ふぁあああ」おいらは少しずつ睡魔が襲ってくるのを感じた。こうなると不思議だ。意識がゆったりと下がっていくためか、また人間界にいるという悪夢を見てしまわないかという不安が自然と解消される。

「もう、目を開けるのがふぁああ」おいらの瞼は自然と下がっていく。この状況になると何の抵抗もなく自然と眠る。ただ過去においらにとってある脅威があった時は、さすがに飛び起きて逃げたことはあるが。

ーーーー

「あ、ああああ」あれからどのくらいの時間がったのか、おいらが目覚めた。まただ。人間界の夢を見たために意識が混乱している。「ここは草むら、そ、そう昼寝してたんだ」おいらは今の置かれている立場という意識を戻そうとしていた。
「そ、それにしても」今日の夢はこれまで以上に強烈だったのだ。よくわからないが、今までのように起きて服を着てとかそんなレベルではない。どこかのコンクリートで遮蔽されたところに多くの人間と共にいて、椅子なるものに座っている。目の前に大きな鏡のようなものがあった。そこからは別の映像が見えていたのだ。
「あれは人間が毎日している仕事なるもの」おいらの前世の記憶でホンのかすかに残っていること。まさかあれまでが夢に出てくるとは...…。

 数分後、ようやくおいらは元の猫に意識も戻った。
「まあ、睡眠は十分にとれな。お!」ここでおいらのおなかのあたりから音が聞こえるのだ。「腹減った。さて今日は何を食べようか」おいらは猫として4つんばいに移動を始める。そして今日の食事を求めて芝生を後にするのだった。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A旅野そよかぜ

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 1165/1000
#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#眠れない夜に
#擬人化
#夢
#前世の記憶


この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?