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進路への分岐点 #第二回絵から小説  第760話・2.22

「石見さん、進路はどうするの?」石見葵は今後の進路について、放課後に担任に呼び出されていた。
「え、いや」葵は進路については何も考えていない。高校3年になった石見は、小さいときから漠然と自由というものに憧れていた。とにかく縛られるのが嫌い。義務教育などはさすがに従ったが、高校進学すらも迷ったほどで、両親からの説得で進学したほど。それもわざわざ私服が認められている高校を選んで入学。
 だから高校卒業後の進路について、全く何も考えていない。普通に考えればどこかの大学に進学するのが良いのかもしれない。しかし、意外にも高校からどこかの企業に就職という選択肢もありではないかと、葵の中では考えていた。

「学校の授業もなんだかなぁ」これは葵の口癖である。幸いにも元々勉強ができる方らしく、こんな感じなのに成績は比較的良い。恐らく本気で勉強すれば国立の有名な大学への進学できる可能性すらある。だが当の葵はこんな感じなので、むしろ担任の方が苛立っていた。

「高校3年となったら、志望校を決めて大学に受験するとかしないといけないのに、あなたは相変わらず。いったい何を考えているのかしらね」担任はやや厭味のある言葉を吐く。だが葵はそれには何も答えず黙ったまま。

「わかりました。あなたまだ進路を決めていないようね。だったら私からの宿題にします。1週間後にもう一度個人面談しますから、それまでにあなたの行きたい進むべき進路を決めておきなさい」
 担任はそういうと立ち上がり、そのまま教室を出て行った。

「ふう、」葵は担任が出ていくのを見計らって大きくため息をつく。そのあとゆっくり立ち上がり、帰宅の準備をした。

「特にやりたい仕事もないし。さて、どうしたものかしらね」放課後の教室を出た葵は、ひとりで学校の校門をでていく。同じクラスの友達はみんな部活で忙しいが、葵はいわゆる帰宅部だから、そのまま家を目指す。
「みんな、部活で必死なんだけど、真剣に進路とか考えているのかしら」 
 葵は、同級生が本気で進路を考えているのか信じられずにいた。

 この日、葵は少し寄り道がしたくなる。帰り道、歩いて5分くらいのところに河川敷があった。最近はめったに行かなかったが、今日だけは無性に河川敷に行きたくなった。葵はゆっくりと階段状になっている河川敷の土手を登る。河川敷の土手の上は自転車道になっていて、いろんなタイプの自転車が、各々の速度を保ちながら、すれ違っていく。

 葵は自転車が走っていないタイミングで、道を横断。その先は下りになっていて、幅が20メートルくらいはあるであろう川が見える。葵はその川めがけて斜めになっている土手の座れそうなところを見つけると、そのまま座った。
「進路ねぇ」葵は小さくため息をつく。目の前には川が流れている。ここは都会の住宅街で、海が非常に近い。つまり下流の位置にあるから、川の流れはゆったりとしている。
「川はいつ見ても同じようなペースで、山から海に向かって流れているか。進路なんて慌てて決める必要なんて本当にあるのかしら」

 葵は仰向けに寝そべった。空はわずかに雲があるが基本的には青空が広がっている。間もなく日が暮れようとしているためか、青空の色が少し白っぽくなっていた。葵はそのまま顔を横にして下流側を見る。そこは西側で太陽がずいぶんと下の方に向けた傾いていた。その太陽の光が葵の顔に差し込み少し目をつぶる。

「まだダメ! 日が沈むのは1時間以上先かな」葵はそうつぶやき顔を上に向けてまた空を見た。このとき東の方角、つまり上流側からゆったりとした風が吹く。葵は風を感じながら「今から進路なんて考える必要ある。やっぱないと思うな」と小さくつぶやいた。

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 一週間が経過。葵は奇しくも1週間前と同じ服装で担任の前にいる。「さ、石見さん、宿題はできたかしら」担任はいきなり質問をしてきた。葵は先週の時と変わらず黙ったまま。数秒が経過した。

 目の前で徐々にいら立ちを見せる担任。さらに数秒が経過したが、葵は黙ったまま。ついに担任は苛立つように目の前の教壇を思いっきり叩くと。叫ぶように声を出す。「いい加減にしなさい!石見さん、進路はどうするの!もちろんこの一週間で決めたわよね。早く言いなさいよ」

 怒りに満ちた担任を前に臆することのない葵は、視線を担任に向けたまま、ゆっくり席を立ちあがると一言。「決めていません。将来のことをわざわざ今決める必要がないと思っているからです。以上」と少し大きめの声で言い切る。
 唖然とする担任に、葵は一礼すると、そのまま教室を後にした。



三度こちらの企画に参加してみました。(これで終わりです)

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シリーズ 日々掌編短編小説 760/1000

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