事例から「相手の視点に立つ」を考える
相手の側からものごとを見る。そうは言っても何をどうすればいいのか…。
100%は無理ですが、それでも思いを馳せることが良いコミュニケーションに繋がると信じています。
この記事では私が仕事の中で実践している事例をご紹介します。
『「相手の視点に立つ」一緒に考えてみませんか?』の第二弾です。
“日本語が第二言語の人” からのFAX
私は手話通訳者です。
今回も、手話が第一言語のろう者が日本語で書いたFAXを読み解きます。日本語は第二言語なので私たちとは違う表現をします。言葉の裏の思いを、相手の視点でできる限り考えてみます。
正しいかどうかより、思いを馳せられるか。難しいですが手話技術は不要です。良かったら一緒に考えてみましょう!
ひとつだけヒント。ろう者は手話ではきちんと自分で考え自ら行動することができます。“支援” や“助けてあげる” の視点は不要です。
寧ろ別言語の方が、読み取ってくれると信じて私たちの言語で伝えてくれるものです。文面にはうまく表れないかもしれませんが、その思いやりを汲み取っていきます。
読み解く
これは手話通訳依頼で “どういった理由で、いつ、どこに通訳者にきて欲しいか” を伝えるFAXです。何が書かれているでしょうか?
分からないよ!って思われた方、そうですね、情報が少ないですよね!ただ少しでも、分かったことがあれば。
私はまずは書いてあることを整理して、推測します。
「今日」と「4:00」「北村」は余白を持って書いている
→今日16時にいつも通っている北村医院に行くのか。黒塗り
→首が痛いか凝ったのか、喉が痛いか苦しいのか。違和感があるのは確か。沢山の時間
→首のところに書かれているから…それを感じた時刻か。何のため?
⇒首か喉の辺りの違和感のため、今日午後4時、北村医院に派遣依頼
※時間は沢山あって4時と言い切れない。再度確認する
さて、この沢山の時間の目的は何か?
こちらの視点で考えれば、通訳依頼には待ち合わせ時間だけで十分です。
症状の詳細は病院で伝えればいいから、紛らわしいし具合悪い中無理して書く必要のないもの。
相手の視点に立つ
今度は相手の視点で考えてみます。
朝から夕方までの時間。朝つらくて午前中落ち着いて、また午後に、そして夕方まで…我慢してたのか。
依頼は4時…派遣事務所は公的機関なので5時過ぎには閉まります。ギリギリの時間の依頼です。
それで私なりに考えたのがこちら。
こう書いてくれれば分かるし!と思われた方、第二言語で書く大変さを思い出してみてくださいね。
70代、半日以上我慢していれば不安ですよね。しかも夜になったら派遣事務所は閉まり、119番も困る。今日病院へと思いますよね。
更に実は手話通訳者は慢性的に不足で、当日依頼は緊急以外お断りすることもあります。そういった背景も分かった上で、それでも今日お願い、と書いているのかもしれません。体調の優れない中で、派遣事務所の実状まで考えてくださったなら、思いやりを持った、大変ありがたい方ですね。
考えすぎかもしれません。でも無意味だと判断して実際思いやりだったら、その方が辛いです。
自分の当たり前と他人の当たり前
こういったFAXを日常受付しながらいつも考えることです。私は日本語で生まれ育って、どんな風に日本語を使えば意図が伝わるか大体分かります。でも違う人もいます。それを「分らず屋」「思いやりない」「意味不明」で片付けていないか。
皆、言語だけでなく年齢、環境等、自分との違いの中で自分視点だけでは理解できないことがあります。
「こう書けばいいのに。こんな書き方するなんて捻くれている」「当然こうするべきでしょ。これだから若い子は非常識」
もちろん自分の拠りどころとして常識を持つことは大事だと思います。でも相手も同じか、一旦立ち止まって考えることも同等に大切です。
“分かってあげる” 必要はありません。自分とは違う視点があること、理解できなくても共にあることを認めることで、多くの人が生きやすくなると感じます。
無意味な時、正しくない時もあります。それでも思いを馳せることが無駄な争いや対立を避けることに繋がると考えています。
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