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野球界の財産、未来の大投手を守るために

記念すべき第1回大会から103年…節目となる通算100回目を数えた夏の全国高校野球選手権大会は、史上初2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭高校の優勝でメモリアル大会の幕を閉じた。

決勝戦はまさに大阪桐蔭らしい王者の野球…今大会のシンデレラボーイとなった秋田の輝く星、豪腕・吉田輝星から5回12得点を奪って早々にノックアウトし、一歩たりとも譲ることなく史上初の快挙を以て見事戴冠を果たした。

厳しい練習を乗り越え栄光に輝いた大阪桐蔭高校の選手には最大限の賛辞を贈りたいし、公立高校ながらメモリアル大会の台風の目となりおらほの球児として旋風を巻き起こした金足農業高校の選手には大いに賞賛を贈りたい。

決勝のみならず本当に素晴らしい試合ばかりで、100回もの轍を積み重ねてきた記念大会に彩るに相応しい熱闘が繰り広げられた夏の甲子園だった。

ただ、美談称賛ばかりで終えてはいけないのも事実だ。

チームの方針、選手層が薄い地方公立高校の宿命とは云え、岩手大会では10日間・5試合で計636球、13日間・5試合で計749球と、試合だけで1,400球ものボールを投げ続ける事は、上記文中の通り『限界の到来』を意味しただけでなく、吉田輝星という未来の大投手の肩に拭いきれない大きな負荷を掛けた事は間違いない。

これまでも全てがとは云わないまでも、高校時代の投球過多が影響し、大成しないまま人知れずグラブを置いた『エース』は数知れない。

大成した中でも松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大など日本が誇る野球界の大エース達もメジャー移籍後に肘や肩を痛めている。

もちろん上記の通り高校野球だけの影響ではないが、多かれ少なかれ一因はあるだろう。
ちなみにダルビッシュは高校野球の仕組みに苦言を述べている。

文中で名前が出ている安樂智大を筆頭に、近年だけでも決勝再試合を投げきった斎藤佑樹、うちなートルネード島袋洋奨など、いずれも超高校級エースとして君臨し一世を風靡した投手ばかりだが、プロ入りしたものの大輪を咲かせずに苦戦している選手は星の数ほど散見している。

ダルビッシュの高校野球論でも記載されている通り、これまでの価値観を覆して変革していく事も重要だが、この価値観が浸透するまではしばらく時間を要するだろう。

100回もの轍を積み重ねた高野連に変革が期待したいが、組織論としてこれだけ数多の利権が絡む中ではなかなか変革は難しいと考える。
それで、野球界の財産、未来の大投手を守るために今こそ日本野球機構が手を差し伸べるべきではないか。

例えば過密日程。
甲子園球場の使用料やスケジュール云々ももちろんあると思うが、何より高校の旅費交通費の問題が大きいと思う。
この費用の一部を日本野球機構で負担するだけでも、だいぶ変わってくるのではないだろうか。
高校野球は教育の一環であり当然ながら学校行事等の兼ね合い等もあるとは思うが、高校時代の投球過多や疲労蓄積により球界を背負うであろう未来のエース達を多数失うより損失を考えれば安いものではないか。

当然甲子園以外でやれば…という話も散見している。高校サッカーの様に準決勝ぐらいから甲子園で…というのももちろん「あり」だ。
野球をやっていた身としては甲子園はやはり特別な場所であり感慨深いものがある。全国の厳しい予選を勝ち上がってきたチームだけが立てるプレミアムチケットという側面も大いにある。

ただ、100回もの轍を積み上げてきた高校野球だからこそ、時代に即した運営に舵を切るべきである。

国立競技場の改修に伴い、高校サッカーは埼玉スタジアムへ移行している。
いずれ甲子園も老朽化等から大幅な改修や立て直しが検討され、会場変更に踏み切らざる得ない時期がくるであろうから、かけがえのない選手の未来を守るためにもいまのうちに議論を重ねておきべきだろう。

何のための、誰のための高校野球なのか?

もちろんプロ野球のためではない。
ただ、高校球児たちは少なからずプロ野球を目指しており、プロ入りして活躍しているのも事実だ。

これまでの歴史を紐解けばプロアマの確執を鑑みてもなかなか容易ではないが、球界の財産を、未来の大投手を守るためにも未来志向で協議をすべきではないか。
もちろん時代とともに融和してきており、少なからず元プロの指導者なども増えている事から、少しずつ変革していくであろう。

高校野球の次なる一世紀を見据え、平成最後となった夏の高校野球選手権が終わったタイミングでこれらが超党派で議論され、近い将来プロアマ等問わず、野球界の財産を守るために協働し、より価値のある、意義のある大会となって開催される日がくる事を心から願うばかりである。