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マネジメント人材育成/行動変容の努力を褒めよう

藤本 正雄 さんのマネジメント人材育成と行動変容についての記事から触発されて考えたことを記します。
画像出典:geralt-pixabay

藤本さんの記事は、こちらです:

1.優秀なプレイヤーがマネジャーになるためには、行動変容が必要

 
 どの企業でも、個のプレイヤーとして優秀な人間がマネジャーに起用されえることが多いと思います。この起用にともなう難しさを藤本さんは指摘していらっしゃいます。

マネジメントを、ざっくり業務(タスク)マネジメントと人マネジメントに分けて捉えてみます。優秀なプレイヤーは、業務に対して体系的なPDCAなどを実践しているかどうかはともかく、個人単位での業務マネジメントはできているはずです。本人がやるべきタスクの管理や改善ができなければ、プレイヤーとして成果を出せないからです。
そのうえで、他者や組織全体に関わるタスクなど、自分以外の人が絡むタスクのマネジメントができるかというと、そうとは限りません。自分以外の人をマネジメントすることも同様です。そのように考えると、キーワードは「人」となります。マネジメント人材の不足は、言い換えると人マネジメントができる人材の不足だということかもしれません。

引用:『マネジメント人材に関する意見交換』
/太字部は原文のまま

 これを働き方という観点からみると、優秀なプレイヤーは、マネジャーになった日から、今までと違った働き方を求められることを意味します。

 新しい働き方には新しい行動が伴います。つまり、優秀なプレイヤーがマネジャーになるとき、今までと行動の仕方を変えることが求められる。行動変容が必要なのです。

2.行動変容は難しいが、その果実も大きい(藤本さんのご指摘)

 
 しかし、人間にとって、行動変容は実に難しいものです。その難しさを、藤本さんは次のように指摘していらっしゃいます。

私たちは、基本的に変化を嫌います。これまでに知っていることと違うこと、異物が入ってくるとそれを排除しようとする性質があります。

引用:『行動変容の難しさを理解する』
/太字部は原文のまま

 藤本さんは、一方で、行動変容が難しければ難しいほど、それを達成したときに得られる果実も大きいと指摘していらっしゃいます。

変化を嫌う私たちは、変化を拒絶し抵抗しようとします。その抵抗の反応が大きいほど、本当は変わらなければならないと強く認識していることの裏返しなのかもしれません。
見方を変えると、変化への抵抗の反応が大きいほど、行動変容によって手に入れることのできる果実が大きい可能性があるのかもしれない、などと思ってしまいます。もしそうなら、抵抗の反応が大きい=チャンスととらえることもできそうです。

引用:『行動変容の難しさを理解する』
/太字化は楠瀬

 私は、研修のファシリテーターとして、多くの方々の行動変容のお手伝いをさせていただきましたが、その方たちが「変化への抵抗が大きいほど、本当は変わらなければならないと強く認識している」ことを実感しました。
 そして、行動変容がもたらす果実がも大きいと感じる程度に比例して行動変容への抵抗が大きくなっているケースに頻繁に出会いました。
 このような経験を、次の2つの記事にまとめています。

3.行動変容には脳神経回路の切り換えが必要である

 
 21世紀に入ってから、fMRI、光トポグラフィなど、人間の脳の働きを外部から測定する技術が登場し、脳科学が飛躍的に発展しました。そこから、人間の行動変容と脳の関係についての5つの重要な知見が得られています。

 脳科学の観点からいうと、優秀なプレイヤーの脳内では《個のプレイヤーとして有効な行動に伴う神経回路》が常に使われ続けて強固なものになっているのだと、私は考えています。
 優秀なプレイヤーが優秀なマネジャーになるためには、常に使う神経回路を《マネジャーにとって有効な行動を促進する神経回路》に切り換える必要があるのです。

 次の講演は、通勤のドライブを喩えに使って脳の神経回路の切り換えを分かりやすく説明しています。


 毎日通いなれた道筋をたどって通勤するとき、意識的な努力はあまり必要ありません。それに対応する脳の神経回路が出来上がっていて、自動的に身体を動かしてくれるからです。講演では、この回路が「オートパイロット(自動運転設定)」と呼ばれています。
 優秀なプレイヤーの脳では《プレイヤー用神経回路》が「オートパイロット」になっているのです。
 
 通勤経路を変えると意識して丁寧に運転することが必要になります。しかし、やがてこの経路に慣れてくると、この経路に対応する脳の神経回路が形成されて、再び、意識的な努力なしにそれを働かせることができるようになります。新しい神経回路が「オートパイロット」になるのです。

 優秀なプレイヤーが優秀なマネジャーになる過程では、脳の「オートパイロット」が《プレイヤー用神経回路》から《マネジャー用神経回路》に切り換わるのです。

 ビジネスパーソンが脳を鍛錬する必要性については、藤本さんも、次の2つの記事で指摘していらっしゃいます。

 脳についての5つの知見のうち、人材育成の上で非常に重要でありながら、現実に活かすことが難しいと思うものがあります。それは、【知見2】の「脳には、報酬をもらえるように神経回路を変化させる学習機能がある」という点です。次の3つの節で、この点について考えていきたいと思います。

4.脳神経回路の切り換えには報酬が必要である

 脳が報酬を得られる方向に神経回路を変化させる力がいかに大きいかを示す実験結果があります。白黒の縦縞模様が赤っぽく見える「共感覚」が生まれるように、脳の活動パターンを誘導する実験です。

 被検者は何に対して報酬をもらっているのか分かっていないのに、脳は、報酬をもらえるように神経回路を作るのです。

 
だとすると、何に対して報酬をもらっているか分かっていれば、意識して脳の新しい神経回路を作ることができるのではないでしょうか?

 《プレイヤー用神経回路》でなく《マネジャー用神経回路》を作動させているときに報酬を得られるようにすれば、《マネジャー用神経回路》への切り換えがより早くより強力に進む可能性が大きいと、私は考えています。

5.成果が出るのを待っていては、報酬の提供が遅れる

 これは行動変容全般について言えることですが、個人が行動変容に取り組み始めてから、その成果が現れるまでには時間がかかることがあります。むしろ、タイムラグがあることの方が多いと私は感じています。

 一方、行動変容に対する報酬には、

  A:上司・同僚・部下から高く評価されること
  B:昇給・昇格がもたらされること 

の2つがありますが、どちらも実際に成果を上げてから提供されるのが一般的だと考えます。
 
 したがって、行動変容に取り組むとき、かなり長い時間、報酬なしで脳の神経回路組み換えを進めなければならないことになります。これは、なかなかシンドイことだと、私は思います。
 
 業務の評価においては成果主義が重要ですが、こと行動変容に関しては、成果が出ていなくても、努力を評価し報酬を与えることが必要なのではないでしょうか?
 
 とはいっても、まだ成果が出ていないのに昇給や昇格を提供することはできません。そこで重要になってくるのがAの上司・同僚・部下からの評価、その中でも、特に上司からの評価です。

6.努力を褒めよう

 プレイヤーとしての優秀さを認められてマネジャーに登用された人に対しては、良いマネジャーになるための行動変容へ取り組みを上司が評価して本人にフィードバックしてあげることが重要だと考えます。

 まだ成果が出ていなくても良いのです。行動の事実をとらえて、それを褒めてあげればよいのです。

「君が対応していたお客様を(部下の)X君に回したのは、X君の成長に役立つと思う」

「結論を出すのには手間取ったようだけれども、部下たちの意見をよく聴いて採り入れたのは、今後の展開を考えると適切だったよ」

「最近、一人ひとりの部下によく声かけをしているようだね。部下たちも目つきが変わってきたように思う」

といった言葉かけで十分です。ただし、適切な言葉かけができるためには、日頃から新任マネジャーの言動をよく観察している必要があります。

 一方、行動変容に取り組んでいる本人も、自分で自分を褒める仕組みを作るとよいのです。良いマネジャーになるために新しく実践すると決めた行動を一覧表にして、毎日、出来た行動に印をつけていく。これをするだけで、ずいぶん違います。
 印が多くついた日は、お酒が好きな人なら帰りにいっぱい飲んでもいいし、読書が好きな人なら新しい本を一冊買って帰るのもいいと思います。

 周りも本人も、まだ成果が出ていなくても、行動変容の努力を認めて褒める。これが、行動変容を実現する上で、とても大切なことだと考えます。

 以上、藤本さんの投稿に触発されて思いついたことを記しました。 

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


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