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「創られた伝統」として見る初詣


「日本の伝統」の正体

2023年末、興味深い書籍に出会った。藤井青銅氏の著書、『「日本の伝統」の正体』である。この本によると、我々が伝統だと認識している日本の文化の中には、意外と新しい時代に創られた伝統があるようだ。

その中で目を引いたのが、「初詣」という文化が確立されたのは、明治時代以降であること

初詣以前は何だったのか

初詣には、その起源となる「年籠り」、「初縁日」、「恵方詣り」といった「初詣に似た伝統」が江戸時代以前からあった。

「年籠り」は、大晦日から寺社に籠って元日を迎えること。「二年参り」とも言う。が、どう考えても手間がかかる。やがてこの後半部分が独立して「初詣」の原型になるのだろう。 「初縁日」は、年が明けてはじめての縁日に参詣すること。縁日は寺社によって日付が違い、それぞれに由来がある。初天神、初不動、初大師などと呼ばれるのがそれだ。日付にも干支を振っているので、「卯」の日を縁日とする「初卯詣」もある。発音的にはかなり惜しい!……のだが「初詣」ではない。
「恵方詣り」は、自分が住んでいる場所から、その年の恵方にある寺社に参詣すること。恵方はその年の縁起のいい方角で、近年「恵方巻」で急に有名になった(「恵方巻のもやもや感」で触れます)。

「日本の伝統」の正体/藤井青銅

鉄道の開通とその宣伝・集客広告

明治時代になって鉄道が整備されるようになった。それに伴い、鉄道の沿線にある寺社には、これまで以上に多くの参拝客が来るようになった。

しかし、これまでの風習だと、寺社ごとに違う縁日の日付や、年ごとに違う恵方の寺社への参詣といったしきたりがある。鉄道会社としては、そういった事情に左右されず、年間を通して安定した集客が欲しい。そこで各鉄道会社と新聞社は、宣伝・集客策として、こうした条件を取っ払った広告を行った。そうして次第に、「年籠り」と「初縁日」と「恵方詣り」が合わさった、今日の誰でも参加できる「初詣」となっていった。


「初詣」を創られた伝統として記録する

初詣の正体について、かなりかいつまみながらも紹介した。本記事は、ここからが本題である。

私は本書を読みながらも、一方で初詣が完全に廃れることは今後もないだろうと感じた。あったとしても、それは果てしなく先のことだろう。2024年も多くの人が、初詣に足を運んでいる様子がテレビやSNS等で見られた(私もその一人)。それぐらい日本の文化として定着している。

しかし、初詣が創り上げられた伝統という「奇妙さ」があるのもまた事実である。その二面性に興味をもった私は、両方の要素を内包した初詣の「今日」を記録することを試みた。

記録方法・方針

記録方法としては、視覚的かつ訴求力の高い写真を選択した。これまで世に初詣の写真がないわけではない。むしろ画像検索をすれば沢山出てくる。だが、それらの多くは寺社の紹介や、初詣が持つ特別感をクローズアップした写真であった。そのため、今回の観点からの写真は新しいかと考えた。

次に記録方針としては、参拝客にフォーカスを置きつつ、寺社や周辺にある要素も含めて、ニュートラルに撮影した。理由として、今回は初詣が伝統文化として定着した「今日」に焦点を当てている。その、ありのままを捉えるためには、一部を切り取るのではなく、全体を捉えたほうが良いと考えた。加えて私は、初詣に初めて触れる第三者(または旅人)のような立ち位置で撮影を行った。

撮影場所について

今回の撮影場所は、私が幼少の頃から初詣に行っていた「住吉大社」にて、2024年1月1日に撮影を行った(最初の一枚は2023年12月31日)。
補足情報として、住吉大社は最寄り駅に「南海本線」と「阪堺線」の2つの鉄道があり(そしてかなりの駅近)、なおかつ正月の参拝者数が日本でもトップクラスに多い寺社のひとつである。

撮影写真

南海電気鉄道南海本線/住吉大社駅

神社は駅から徒歩2~3分程度のところにあり、アクセスはかなり良好。また、普段はそれほど混み合わない。それもあり、正月はいつも以上に非日常感が増す(コロナ以前はより混み合っていた)。

2023年12月31日は人通りも少ない

以降2024年1月1日撮影

阪堺電気軌道阪堺線/住吉鳥居前停留場

住吉大社に近い、もうひとつの鉄道である路面電車、阪堺線。通称ちん電。停留所が神社前という、南海以上に良好なアクセス。

停留所前から見える住吉大社

参拝者と境内

2つの駅と神社へ向かう参拝者を見たうえで、次は境内を見つめてみる。

本宮に向かう参拝者が通る「反橋」

終わりに

本記事は、上述の記録方針にもある通り、「初詣」を人が創り出した伝統という視座で「今日」を見つめてみる試みである。そこに初詣と参拝者を、「鉄道会社のキャンペーンに今も踊らされ続ける人たち」と腐す意図はない。

一方で、初詣の背景を知った以上、ただ文化を享受するのではなく冷静な目線では見つめていきたい。


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