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クリスマスイブの陶芸

 2023年12月24日、世の人の大半の頭の中が、マライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」か、山下達郎の「クリスマス・イブ」に支配されているであろうこの時期。


 私は陶芸教室に来ている。


 クリスマスイブにわざわざ陶芸体験に来るやつなんて、恋人のいない寂しいやつか、よっぽどの暇人だろ、と自分で思いながらも、予約をしてしまった。陶芸体験は私の人生のやりたいことリストの中の1つに入っていたから。

 今日やっておかないと一生できない。そんな気がした。教えてくれる先生には申し訳ないなと思いながらも、教室へ向かった。


居抜きのまま内装をなんかいい感じにした喫茶店がポツポツ並んでいる辺りで、野良猫が毎朝の通り道にしていそうな路地を入ると、そのお店はあった。意識していないとそこにあることがわからないそのお店は、クローゼットの中を進むと現れるナルニア王国みたいだなと思ったりした。

ドアを開けると既に先生らしき人が粘土をこねて準備をしていた。先生は若い女性の方でメガネをかけていて、落ち着いた雰囲気だった。
所定の時間に予約した者であることを伝え、席で待つ。少しして先生が丸めた粘土を持ってきた。作りたいものはあるかと聞かれたけど、ただ陶芸がしたいと思っただけなので、何の案もない。教室に飾ってある作品をざっと見て、こんな感じで、と少し大きめのお茶碗を選んだ。先生は私にお手本を見せながら、指示を出す。いつの間にか、陶芸体験は始まっていた。

 渡された粘土を2つにねじって分ける。粘土はそのままおいておくと乾いてしまうので、濡れた雑巾に包んでおく。2つのうちの1つをさらに2つに分けて、俵状にする。小さい頃の泥団子遊びみたいでなんかもう面白い。そこからさらに細長いひも状に伸ばしていく。もう1つも同じようにする。長さは多分、小学校のときにやった小さい前ならえの時の手の幅くらい。手で回転させることができる台の中心に、丸い粘土をおいて、真ん中をつぶす。少しずつ穴を広げていって、お茶碗の土台の部分を作る。(高台と言うらしい。)ここからもう記憶がちょっと曖昧だけど、粘土を上から見て円周のような部分に細長い粘土をぐるっと置く。指で伸ばして境目をなくす。空気が入ると焼く時に割れてしまうので、綺麗に。

 途中で、先生が「なんで陶芸をやろうと思ったんですか?」と質問をした。私は、先程も言ったように、陶芸が人生のやりたいことリストに入っていたことを話した。先生は
「へぇそうなんですね。」
と少しほほえみながら、粘土を伸ばしている。私はなんだかもっともらしい理由がいるかなと思い、
「小学生の時に読んだ、”あたしンち”っていう漫画で、あたしンちのお母さんが陶芸体験に行くんですけど、電動ろくろで粘土をすっとばしちゃうんです。それの印象が強くて…。」
と急に斜め上の話をした。(と、言った直後に少し後悔した。)先生は、若干困惑した様子で、
「あたしンちがきっかけで来た人は今までいないですね。」
と笑いながら言った。そりゃそうだ。変なムーブをかましてしまった。返答に困る話をして、先生ごめん。ひとまずあたしンちが伝わってよかった…。

 段々と粘土が茶碗の形になってきた。もう1つのひも状にした粘土も同じように上に重ねて、境目を撫でて繋げていく。高さが出てきた。両手の親指、人差し指、中指の三本で寄せながら、薄く伸ばしていく。目を瞑ると同じくらいの薄さか分かりやすくなるかもしれない、と先生に教わって、同じようにやってみたが、あんまりよく分からなかった。普段、理性や認知と脳の使い方ばかりで、感覚的な脳の使い方ができていないのかもしれない、と思ったりした。先生に確認してもらいながら、お茶碗に適した薄さにできた。そのあとは、勾玉みたいな形をした木のへらで、粘土を内側から茶碗の形になるよう広げていく。台を手で回転させて、その回転を利用して、手は下から上に、徐々に外側に向かって押し広げるだけ。力加減が難しい。二、三度やって茶碗らしい広めのVの形になった。

 粘土を台から取り外すために、針金のようなワイヤーを使う。手に巻いて台に押し付けながら、すーっと奥から手前に引く。私がやると、すーって言うより、ズズズッ…て感じだった。そうしたら次は、昔のギャルがやるような裏ピースを両手で作る。傍から見てるといいことがなくて落ち込んだ蟹のようだ。ピースの人差し指と中指の間で、完成した作品の土台の部分を優しく挟む。木の板に移す。これで完成。焼き、塗りの作業は今回は先生が行ってくれる。手びねりで作った初めての作品。思っていたよりも茶碗らしい形になって、いい感じだ。特に作りたいものもなかったが、既に愛着が湧いている気がする。

 



 電動ろくろでの陶芸の体験のお話に続く…。

(お店の写真を取り忘れてしまったので、お借りしました)

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