デザイン理論家 小山太郎

イタリアのデザイン思考とデザインマネジメントの研究者。著作『イタリアのデザイン思考とデ…

デザイン理論家 小山太郎

イタリアのデザイン思考とデザインマネジメントの研究者。著作『イタリアのデザイン思考とデザインマネジメント』・『イタリアのデザイン経営』(三恵社)論文:https://researchmap.jp/taro_koyama/published_papers京都大学博士(経済学)

最近の記事

イタリアンファッションの未来-ファストファッションへの対抗-

(本noteは、感性工学特集号Vol.20(2)pp.71-75[2022/06/30]の拙稿に基づくものです)。  1980年代に世界を制したイタリアンファッションですが、1990年代になると各種のラグジュアリーブランド及びファストファッションの台頭によってヘゲモニーを失いました。こういった事態に対処するために2000年代以降の新進デザイナーが採っている対抗策を示したものが冒頭の図です。伝統的にミラノのスタイリスト(ファッションデザイナー)は、自らはデザイン業務に特化する一

    • デザインが美容整形(美顔術)ではないことの意味ーイタリアのデザイン理論から

       本noteでは、デザインが美容整形(美顔術)ではないことを説明しましょう(本noteは、拙著「イタリアのデザイン思考とデザインマネジメント」p.77,90に基づくものです)。冒頭の図は、G.ポンティが、女性の裸体に見立たボトルに服を着せる様子です。また以下の図1は、デザイナーのニッツォーリがミシンの模型に様々な衣装を着せる様子です。  G.ポンティであれニッツォーリであれ、女性の裸体に見立てた模型に衣装を着せるのは、別に彼らが変態だといわけではなく、官能的なデザインの発想

      • ローマの高級仕立て服(Alta moda):   ロベルト・カプッチのデザイン思考

        1 はじめにイタリアのファッション研究は、マリセルダ・テッサローロ(Mariselda Tessarolo)によると、大きく分けて、(a)衣服を購入ないし身に付ける人々に関する社会学的な研究と、(b)芸術的側面から、デザイナーをモードの創造者として捉える研究に分かれます。前者(a)は、ファッションの社会心理学的な側面に注意を向け、流行に関する社会学や、都市ないしディスコなど特定の場所に集う若者たちが身に付ける衣服の利用に関する研究であり―これにコデルッピ(V. Codelup

        • 未来の生活様式を直観する手法ーブルースカイ/ビジョナリーリサーチ(イタリアのデザインマネジメント理論から)

           本noteは、未来の生活様式を直観する手法であるブルースカイ/ビジョナリーリサーチと呼ばれる未来の生活様式を直観する手法について記したもので、内容は、商品開発・管理学会編『商品開発・管理の新展開』中央経済社,2022年3月の第8章に基づいています。ブルースカイリサーチとは、ムードボード(コンセプトボード)を作成するための材料を集め、集めた材料(画像イメージやキーワード)をボード上にマッピングすることであり、アウトプットは様々な画像イメージやキーワードが貼られたムードボード(

        イタリアンファッションの未来-ファストファッションへの対抗-

          イタリアのインテリアデザイン理論(下)

           後半では、キッチン等のデザインプロジェクトを見ていきましょう。冒頭の図は、キッチンのフェラーリとも言えるエラム社のキッチンですが、完成品から、途中のデザインプロセスを推測するのは困難です。かくして、企業秘密とも言えるデザインプロセスを開示するような書籍を発売したValcucina社には大いに感謝します(滅多にそういう本はありません)。本noteも、『商品開発・管理研究』Vol.18(2),pp.44-66の拙稿「イタリアのインテリアデザイン理論ーキッチン(cucina)およ

          イタリアのインテリアデザイン理論(下)

          イタリアのインテリアデザイン理論(上)

           本noteでは、研究の結果、解明できたイタリアのインテリアデザイン理論を紹介しましょう。(記述内容は、『商品開発・管理研究』Vol.18(2),pp.44-66の拙稿「イタリアのインテリアデザイン理論ーキッチン(cucina)および浴室(bagno)との関連で―」に基づいています)。 1.はじめに インテリア部門が牽引したイタリアの戦後の経済成長の背景には、友人等を自宅に招いて自分テイストのインテリアを客人に披露するという暮らし方があり、屋内で人々が着用したアルマーニのジ

          イタリアのインテリアデザイン理論(上)

          イタリア:デザイン起業家列伝(15/15)ー照明器具編(下)

          本noteで連載は終わりです(本noteも拙著の第6章に基づいています)。本連載を通じて、世界No.1デザイン先進国であるイタリアにおいて、デザイン起業家らがデザイン経営を実践してきた様々な手法を紹介できたと思います。さらに、IDEOとは異なる、詩情に溢れたイタリアのデザイン思考の魅力も体感できたと思います。デザイン思考の前提として、世界が劇場(舞台)として捉えられ、その中にいる人は、消費者でもなく、市民でもなく、俳優・女優としてドラマチックに演じることで自らの生を解放します

          イタリア:デザイン起業家列伝(15/15)ー照明器具編(下)

          イタリア:デザイン起業家列伝(14/15)ー照明器具編(上)

          本noteでは、照明器具編(上)として、フォンターナ・アルテ社(C.グリエルミィ)、アルテミデ社(E.ジスモンディ)、カスタルディ社(E.カスタルディ)そしてチーニ&ニルス社(F.ベットニカ)を取り上げましょう。一般に最終製品だけを眺めていても、その当初の設計思想やデザインプロセスは分かりませんので、デザインプロジェクトの詳細を明らかにしてくれた起業家の証言は大変貴重です。これで14回目ですので、イタリアのデザイン思考とデザイン経営学に慣れてきたと思います(本noteも拙著の

          イタリア:デザイン起業家列伝(14/15)ー照明器具編(上)

          イタリア:デザイン起業家列伝(13/15)

          本noteでは、愉快かつ詩情溢れる家庭用品で有名なアレッシィを取り上げましょう。イタリアのデザイン理論では、アレッシィ製品の詩情は、擬人観(antropomorfismo)、擬動物観(zoo-morfismo)に基づくもので、機能一辺倒のドイツ的な合理主義デザインを乗り越えることに成功した企業として同社は位置づけられます。人間に似ている、あるいは動物に似ているとは、いったい何を意味しているのか、以下で見ていきましょう。本noteも、現役のデザイナーやデザイン経営を自社に導入し

          イタリア:デザイン起業家列伝(13/15)

          イタリア:デザイン起業家列伝(12/15)

          本noteでは、デザインに賭けて、詩情溢れるプラスチックのラミネート板を作って生き残ったアベット・ラミナーティ社の事例を取り上げましょう。デザインに投資することで、自社の企業アイデンティティを確立することができます(本noteも拙著の第5章に基づきます)。 1 概要Abet Laminati社は、原料の皮から不要なたんぱく質を除去するタンニンの製造を独占していたFNET社の軛から逃れる目的をもって、オペルティ(Operti)兄弟らが1946年に設立した企業です。当初の呼び名

          イタリア:デザイン起業家列伝(12/15)

          イタリア:デザイン起業家列伝(11/15)ーキッチン・浴室編ー

          本noteでは、キッチン・浴室編としてボッフィとエラム社を取り上げましょう。キッチン大国イタリアには、アークリネアやヴァルクッチーネ社などの高級キッチンメーカーが多数ありますが、以下で述べるように、「キッチンや浴室は住宅設備ではなく、インテリア」だという指摘は極めて重要です。まねすべきはイタリアのデザインではなく、デザイン経営の仕方であり、その設計思想を理解することです。彼らに倣って、日本企業もデザインに大きな投資を行いし、中国市場に打って出たいところですーそのためには、まず

          イタリア:デザイン起業家列伝(11/15)ーキッチン・浴室編ー

          イタリア:デザイン起業家列伝(10/15)                 ーオフィス家具3社ー

          本noteでは、オフィス家具3社をまとめて取り上げます(ユニフォー、テクノ、アノニマ・カスッテッリィ社)。本noteも拙著第5章に基づいています。通常のオフィスに加えて、空港・劇場・大学・図書館等もオフィス家具市場ですので、連結(増設)可能でかっこ良いすっきりとしたオフィス家具も、メード・イン・ジャパン製品として輸出したいところです。 1 ユニフォー(Unifor) モルテーニ・グループの一員として1974年に設立されたユニフォー社は、主にオフィス用家具を扱う家具メーカーで

          イタリア:デザイン起業家列伝(10/15)                 ーオフィス家具3社ー

          イタリア:デザイン起業家列伝(9/15)

          本noteでは、家庭用家具編の最後としてポルトローナ・フラウ社を取り上げましょう(本noteも拙著第5章に基づいています)。本noteでは、とりわけラグジュアリーを巡る対話が特色です。メード・イン・イタリーは、ラグジュアリーなものではなく、グッドテイストなものです。そもそも、ラグジュアリーとは、自分の社会的地位を下層階級に誇示するためのものであり、その起源はフランスの宮廷社会にあるのであって、さりげなさ(sprezzatura)が尊ばれてきたイタリアの宮廷社会とは関係ありませ

          イタリア:デザイン起業家列伝(9/15)

          イタリア:デザイン起業家列伝(8/15)

          本noteでは、デザイン経営の実践事例としてモルテーニ&Cと、ベッドなどの寝具を扱うフルー社を取り上げましょう。人生の1/3は寝ていますので、ベッドのクオリティは重要ですが、人間工学を考慮した機能や性能だけでなく、ベッドの袖机や寝室のタンスとともにベッドをインテリアの一部として捉えることで、QOLを上昇させることができるでしょう。つまり、心地よい背もたれがついたベッドで本を読んでいるとき、寝室のインテリアの景観として目に入ってくるものは、美しいものしか入ってこないという室内環

          イタリア:デザイン起業家列伝(8/15)

          イタリア:デザイン起業家列伝(7/15)

          本noteでは、ザノッタ社とカッペリーニ社を取り上げましょう。デザイン敗戦から日本企業が立ち直る指針が今回も得られるでしょう。なお、本noteも拙著『イタリアのデザイン思考とデザイン経営』の第5章に基づいています。 1 ザノッタアウレリオ・ザノッタ(Aurerio Zanotta)が1954年に創業したザノッタ社は、これまで128名のデザイナーと550以上のプロジェクトを実施し、そのうち298のプロジェクトが世界中の48の博物館で展示され、内51が各種のデザイン賞を受賞する

          イタリア:デザイン起業家列伝(7/15)

          イタリア:デザイン起業家列伝(6/15)

          本noteでは、アリアス社とマジス社を取り上げます。なお、本noteも拙著『イタリアのデザイン思考とデザイン経営』の第5章に基づいています。本場のデザイン経営についてどんどん見ていきましょう。 1 アリアスアリアスは、バレーリ(Baleri)夫妻とフォルコリーニ(Forcolini)兄弟4名によって1979年に創業されました。創業者の中心メンバーであるカルロ・フォルコリーニ(Carlo Forcolini)は、ブレラの美術大学を卒業した後、反議会主義的な左翼グループ(Ava

          イタリア:デザイン起業家列伝(6/15)