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イタリア:デザイン起業家列伝(14/15)ー照明器具編(上)

本noteでは、照明器具編(上)として、フォンターナ・アルテ社(C.グリエルミィ)、アルテミデ社(E.ジスモンディ)、カスタルディ社(E.カスタルディ)そしてチーニ&ニルス社(F.ベットニカ)を取り上げましょう。一般に最終製品だけを眺めていても、その当初の設計思想やデザインプロセスは分かりませんので、デザインプロジェクトの詳細を明らかにしてくれた起業家の証言は大変貴重です。これで14回目ですので、イタリアのデザイン思考デザイン経営学に慣れてきたと思います(本noteも拙著の第6章に基づきます)。彼らは、Bello(美しくて立派な)住環境や職場環境あるいは図書館での勉学環境のためにデザインしているのであって、ビジネス上の問題解決のためにデザインしているのではありません。また、デザインやアートを経営に取り入れるのは、マーケティングを行うよりもその方が儲かるからであって、慈善活動を行っているわけではないのです。彫刻家であったピニン・ファリーナが創り出したフェラーリの流線形のラインが、これまで莫大な富をフェラーリ社にもたらしたのか、ちょっと考えればわかりますーそういったラインは、ユーザーに対する市場調査の結果として生まれたものではなく、アーティストとしての彫刻家が美的に成熟することによって生み出されたのです。

1 フォンターナ・アルテ

ガラス製品を扱うフォンターナ・アルテ社は、彫刻家であったルイジ・フォンターナ(Luigi Fontana)とアートディレクターの役割を務める建築家のジオ・ポンティによって1932年に創設され、その後、アートディレクターの役割はピエトロ・キエーザ(Pietro Chiesa)[1933年~48年]やマックス・イングランド(Max Ingrand)[1948~69年]が務め、1979年からはカルロ・グリエルミィ(Carlo Guglielmi)が経営を率い、ガエ・アウレンティがアートディレクター役を2012年まで務めました―アートディレクター制度を採っているのが同社の特徴です。カルテル社のG.カステッリと同様に、グリエルミィもまた、デザイン起業家ではなくマーケティングの役割を重視するファンドの論理に異議を唱えます。まず、レナートプレティ率いる投資ファンドのオペラがB&Bに対して付与しようとしている組織形態をピエロ・ブスネッリィから聞いてグリエルミィは青ざめました。その組織形態は、新製品開発・企業戦略とマーケティング・総務・財務をそれぞれ担当する4名のCEOから構成されるもので、デザイン起業家がトップダウンで意思決定を行う形態とはかけ離れていたのです。首尾一貫した仕方で、戦略上の観点からデザイナーに対して直接回答を与えるのは、もっぱら起業家であり、その能力は、製造・マーケティング・財務上の諸々の局面に関する知識や、そういった局面において適切な判断を下し得るような、引き継がれた経営資産に由来するということです。
同社は2010年にNice社に買収され、その後2016年には、ドリアデ・ヴァルクッチーネなどを擁するItalianCreationGroupの一員となりました。

照明器具図1

1.1. デザインマネジメント


グリエルミィは、各ユーザーの室内に設置可能な調度品―インテリアの一部となるような調度品―を提供するという考えを支持していますが、ここ10年はそういった考えが廃れ、“予めコーディネートされたインテリア”というコンセプトが肯定されていると指摘します。彼によれば、そういった予めコーディネートされたインテリアは、軽蔑的な仕方で述べると“叔母さんのダイニングルーム”であり、言い換えれば、各人の趣向を反映していないインテリアであるがゆえに野蛮(abbrutimento)であるが、簡易化されているため、情報を与えられているけれども教養を欠いている大衆を安心させるものであるということです―予めコーディネートされた住居を提供する企業は、肯定的な反応を市場から得るけれども。
こうしたグリエルミィの見解に対して、インタビューアーのカステッリィは、「多くの企業が家具付きの住宅を提供しているが、平均的な人の文化レベルは、自ら住居をデザインすることができないようなレベルであることを理解しなければならない。ただ、デザイナーである自分の妻のフェッリエーリィは、インテリアデザインを拒否しているが、それは、室内環境の構築は各人の趣向に属すること、言い換えれば、そこに住む人の趣向に属することであるからだ。」と述べています。
このカステッリィの発言に対して、グリエルミィは次のように述べています―「家具付き住宅の考えは正道を踏み外している(aberrante)」。
つまり、デザイン起業家達は、ドムス・カーザ・オッターゴノといった雑誌を発行して、一般の人が自らインテリアをデザインできるように教養を授けてきたわけであって、自分の室内環境をインテリアデザイナーに全てお膳立てしてもらっては、品の良い室内環境を自ら創る能力が一向に育まれないということになるのです。室内環境を自らイメージする能力は、デザイナーのみならず、デザイン起業家そして一般人に至るまで求められる国民的教養と言ってよいでしょう。最初は上手くできなくても、自分の住環境である以上、品の良い(good taste)調和の取れた生活環境を自らイメージできるようになった方が良いということです。
続いてグリエルミィは、グローバル化の負の側面について指摘します。グローバル化のために思考が似たり寄ったりになってきており、研究と技術革新を欠いていることもあって、最近の製品は同質化してきているということです。彼は、「私は、デザイナーが競合他社のカタログの中から最良のものを選ぶよりも、“この洋服ダンスは新しいんだけど、それを考案した(構想した)のは私なのよ”と彼らが述べるのを好ましく思う。」と述べ、デザイナーがフィレンツェのノル社(Knoll)のカタログから、もっぱら着想を得る状況に苦言を呈している―というのも、彼が製品に求めるものは、ファンタジー・詩情・合理性・機能・問題を解決する能力であるので。また、9.11のツインタワーへの攻撃、戦争、テロリズムの拡大と暴力の蔓延、ユーロ、SARS(重症急性呼吸器症候群)などがグローバリズムの負の側面であり、そういった負の側面を癒して落ち着かせてくれるような雰囲気を創る照明のことを彼は考えています。
また、照明器具の売り上げを伸ばすためには、エンドユーザーとして想定される「インテリア用品を扱う業者」がフォンターナ・アルテ社の製品を求めるようにするため、インテリアデザイナーと建築家に対して自社製品を紹介する技術営業マンが必要であると、グリエルミィは述べています。

グリエルミィによると、ガラスの面白さは、吹いて作られるけれども工業生産が可能で、なおかつ化学的でもあり、また、上塗り可能で溶解もするといった感じで、あたかも5~6種の素材であるかように変化するところにあるということです。ガラスに限らず、ルネッサンスに端を発する靴および宝飾職人・染物屋・皮なめし職人などが試行錯誤を通じて身に付けた匠の技が代々伝えられてきたのがイタリアの特長であり、イタリアの企業は、こういった職人文化に由来する各種素材を活用する点で際立っているとも指摘しています。
最後にグリエルミィは、製造を外部委託する代わりにデザインに特化した以上、実験的なワークショップが大切であることを指摘しつつ、ジュリオ・カッペリーニを除いて情熱を持ったデザイン起業家がイタリアからいなくなった状況を託っています。

2 アルテミデ

アルテミデ(Artemide)社は、ロケット工学を専攻したエンジニアであるエルネスト・ジスモンディ(Erunesto Gismondi)と建築家のセルジョ・マッツァ(Sergio Mazza)によって1959年に設立されました。ジスモンディは、エンジニア兼デザイナーでありながら、日本の経団連に当たるイタリア産業総連盟やイタリア・デザイン協会(ADI)の副会長を務め、また、フィレンツェのISIAで教鞭を執るなど多彩な活動を行ったデザイン起業家です。アルテミデ社の名称は、歴史的に著名なデザイン企業であるアズチェーナ(Azucena)にちなんだもので、同社の方針は、かたち・機能・革新性・性能の完璧な統合であるような照明ライトを制作することでした。同社の製品は、モントリオール装飾芸術美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館やMoMA、ローマの近代美術館などの常設コレクションに収蔵されています。

2.1 デザインマネジメント


ジスモンディは、「マーケティング・マネージャーが、ファッションの会社を率いることは可能だが、家具や照明といったデザイン企業を率いることはできないだろう。というのも、マネージャーは、現状維持を旨とするのでリスクを取らず、フォロワーのポジションを取るから。」と述べます。その代わり、1年に二回から四回のコレクションを発表するファッション企業は、十年で売り上げを5~6倍にすることができる一方で、買い替え需要が20年に1度のデザイン企業では、2~3倍にするのがやっとだということです。彼によれば、企業が成長する四つの方法があり、(1)買収策―買収対象は、カタログ、ブランド、企業全体、工場単体といった具合に分かれる、(2)流通網の拡大―流通に頼りすぎると企業の活力は低下するけれども。(3)垂直統合(4)(製品・テクノロジー・アイディアの)刷新、がそれらに該当します。
当時、似たような製品をどの企業も作っていたため、ソットサス率いるメンフィスでの実験は成功したが、その理由として、何を作るかをデザイナーが決定し、企業の方は、その製造を保証・約束する体制を採ったからだということです。通常、どのような製品を作るか、そしてその生産方法を決定するのは企業ですが、メンフィスではこの関係が逆で、企業は、控えめかつ副次的な仕方で議論に加わるだけでした。「メンフィスでの実験を通じて、製作対象の製品および製作方法が変化し、企業活動の軌道も従来とは違ったものになり得ることが理解された」ということです。なお、ソットサスから、メンフィスの活動を踏まえて量産品を作りたいという打診がありましたが、職人技を前提としたメンフィスの製品を量産するわけにはゆかずに断ったところ、ソットサスは出て行ったと証言しています(イタリアには、大企業が少なく、職人が活躍する個々の中小企業の売上額は小さいのですが、総体(合算)としてみるとその額は大きいことが特徴です。ここではまた、量産品と特別仕様品(fuori serie)であるメンフィス製品の製造を二者択一的に考えてしまったジスモンディの判断が悔やまれます。両者は互いに影響を与えながら双方とも成長軌道に乗せられるのです。)
なお、最近のイタリア人デザイナーについて次のように評価しています。
「アルテミデのランプは技術的に洗練されてきたので、我々の製造ノウハウを熟知し、製造拠点から遠いところに住んでいない評価の定まったデザイナー(イタロ・ロータ(Italo Rota)やミケーレ・デルッキなど)との協業を重視している。言い換えれば、技術的知識を何ら持たずにスケッチを提示するので、若いデザイナーを登用するのは難しい。」(この証言からは、若手デザイナーであっても工学の素養が求められるということです)。

メタモルフォージのプロジェクトが始まる前、すでに同社ではリチャード・サッパーによるティツィオ(Tizio;図2)や、ミケーレ・デルッキとジャンカルロ・ファッシーナ(Giancarlo Fassina)の手によるトロメオ(Tolomeo;図3)といったヒット商品が生まれていました。

図2-6


メタモルフォージについては次のように紹介されています。
「“我々の光で元気になってね”は、メタモルフォージという人為的に作られた光とともに暮らし、またこの光を享受する新たな生活様式を唱える標語である。メタモルフォージは、四つのハロゲンライト(色が変化する三つのライトと一つの白色ライト)から成る新たな照明システムで、その組み合わせによって、太陽のような自然光に似ている光を再現することができる。自然光同様、機能上そして人間の情緒上の必要性に応答する仕方でメタモルフォージも時間とともに変化し得る―というのも、ユーザー自身がリモートコントロールによって色調の強度と混交度合を変化させることができるので。その人(に固有)の心理―生理学上の幸福で元気溌剌とした状態(il benessere)を増進するための光と色という当初のアイディアとの結びつきを維持しつつ、メタモルフォージは今日でもアルテミデ社の特別な製品ラインとなっている。」
メタモルフォージ開発のきっかけとなったトレンドは、照明ライトが持つ生理学上の価値と、心が乱れることに対して色彩による癒し(カラーセラピー)をもたらすことでした。照明器具市場は、商品のコモディティ化と標準化が進行しており、照明ライトが持つ生理学と心理学上の効果を考えることから新製品を設計する必要があったのです。メタモルフォージの開発プロジェクトを始めた時、アルテミデ社の既存の製品ラインには、素材であれかたちであれ、ブランドとして特徴的な要素は存在しなかったため、既存の製品ラインとの兼ね合いを考える必要はありませんでした。光環境のクオリティを検討しながら、ブランジィ等の著名なデザイナーらと心理学を専門とする医者であるパオロ・インギレッリ(Paolo Inghilleri)からプロジェクト・チームが作られた結果、光に色を付けるというアイディアは陳腐かつ凡庸と判断され、むしろ光によって作られる雰囲気(光環境)がクローズアップされることになりました。こうして、照明ライトではなく、光環境を販売するという方針が定まったのです。

メタモルフォージのシステムは、当初、100Wの青・緑・赤のライトと150Wの白のライトの四つから構成されていましたが(図4)、費用削減のため、白のライトを省くことでライトの数は三つになりました(図6)。また、リモコン(図5)の機能も、当初は、99種類の光環境(雰囲気)を作ることができ、またその中で自分の気に入った特定の雰囲気を記憶できるものでしたが、バッテリー容量および電力の節約のために、量産の際にはこうした機能は省かれました(量産する前のこういった改良は、1996年のミラノのサローネに出展して問題点を把握することを通じて行われました)。メタモルフォージの核心は、光環境を作るための電子工学であり、雰囲気が問題となるので、照明ライトそれ自体の美観はさほど問題になりませんでした。
メタモルフォージは、色彩心理学上の効果を考慮して、その時の気分に合致するような仕方で光環境(雰囲気)を作るものですが、一般にそういった光環境は、一太陽のような自然光と、刻一刻と変化するようなカラー照明によって作られます。なお、自然光を模倣するといっても、そこで再現されているのは輝度の高い原色の自然光の変容であり、薄暗い障子越しの明かりという意味での日本人にとっての自然光ではありません。着物の艶やかな色使いは、伝統的な日本の室内照明が薄暗かったためであり、喜多(2009)[*]は、この日本独自の薄暗いぼんやりとした自然光を実現する照明が海外で受け入れられたケースを述べていますー模倣されるべき自然光の日欧の違いによって実現される照明も異なると言えるでしょう。

3 カスタルディ(Castaldi)

照明器具7


カスタルディ社は、ミラノ工科大で電気学を専攻したエンジニアのエンリコ・カスタルディ(Enrico Castaldi)によって1938年に創業され、同社の製品のかたちは、光学の法則から導き出されたわけではなく、具体的な使用場面を考慮して決められたものでした。1960年には、やはりミラノ工科大で電気工学を専攻した息子のジョルジョ・カスタルディが加わりました。そして1970年代に建築家のベルトーニ(Bertoni)も加わったのです。同社において新たなアイディを展開させていくキーマンは、エンジニアであるカスタルディと建築家のベルトーニでした。

3.1 デザインマネジメント


1996年に誕生した同社のミニソジアは、小さなソジア(sosia;瓜二つ)という意味で、お椀を天井から吊り下げたような照明器具です。互いによく似たお椀のような照明器具が、図書館などの公共空間で多数使用されることを想定して開発されました。ミニソジアのプロジェクトでは、建築家のベルトーニが社内にいるので外部のデザイナーを活用しませんでした。外部のデザイナーを活用する場合でも、エンジニアリングフェーズの前で、その協力関係は終了しました。同社の照明ライトの製造方法は、最終製品の仕上がり具合を確認するために社内にパイロットラインを作る一方で、本格的な製造は外注するものでした。かくして、フィリップス、オスラムあるいはジェネラル・エレクトロニックス社といった同社に部品を供給するサードパーティが重要でした。
同社のソジアからミニソジアへと至る製品ラインの始祖がスピード(speedo)であり、ソジアやミニソジアはスピードに改良を加えたものです。言い換えれば、ミニの製品ラインは、業務用倉庫の照明といった産業向けのスピードに始まり、ソジアを経て自然に拡張されたものです(以下、具体的な商品名については図7を参照)。

図8


1979年に生まれたスピードは、天井から吊下げるタイプの産業用に特化した反射光式の照明(特に倉庫内部を照らすためのもの)です。それは、楕円型のかたちを持ち、絶えまなく光が降り注ぐもので、スポットライトとしても(淡く光る)拡散光式の照明[図9(c)]としても用いることができました。
次に生まれたソジアとソジアボックスは、スピードのように産業用に特化したものではなく、商業施設や展示空間といった公共的な環境にも適用可能な照明ですが、その照明の仕方はもっぱら一区画(狭域)を照らすものです。ソジアは、家屋内の照明に適した蛍光性のコンパクトなライトで、ランプの下側から空気が入って上から抜けていくような換気の仕組みを通じて、熱を上から逃がすことができるようにスピードを改良したものでした。スピードが三つのライトを必要としていたのに対し、ソジアはライトの性能が上昇したため一つのライトで事足りました。
他方、ソジアが誕生した1983年の6年後に生まれたソジアボックスの方は、内部に高圧ガスがあって光が絶え間なく降り注ぐタイプの照明で、そのアルミニウム製のボディは、ガラスで保護され、電気も遮断されるものでした。ソジアボックスの場合、アルミダイキャスト(金型鋳造)を施す際に、三つの押し型(ダイス)を活用し、ダイキャストの後に塗装や希薄酸水での洗浄といったプロセスがあるため、製造コストが高くついたのですが、ミニソジアボックスでは、極めて純度の高いアルミニウムを用いて、一気に最終製品を押し出し成型(estrusione)するため、安価になりました(結果として製品に色を付けることも可能となりました)。内部に給電部分を持ち、最高の色彩性能を保証するような配慮から、封印ガスを使って絶え間なく光が降り注ぐようなライトを活用しています。

ミニソジアの外観(かたち)は、それまでの製品を踏襲するものであって新規性はありませんが、利用のされ方に新規性がありました。ミニ(Mini)の開発プロジェクトでは、幾多もの種類があるライトの内からどのライトを製品に組み込むのか、という選択の問題が生じました。ライトの部品が小型化されていくにつれて、ライトそれ自体も一層小さくそして高性能になっていくのですが、ミニのコンセプトが考案された日時を同定するのは難しいということです。
ソジアシリーズと比べて、ミニソジアの方は一層コンパクトで、デスクワークするような作業場(仕事場)に向いています。繻子のような光沢があるアルミニウムの反射光と、粒状化されたガラスによる拡散光(これはライト上方をも少し照らす)を組み合わせることにより、その光は、柔らかくて一様なものです。また、アルミダイキャスト(金型鋳造)で作られた穴の開いた半球は、熱を逃がして一定に保つような換気冷却を可能にしています。ミニソジアに組み込むライトは、100~150Wのハロゲンランプ(Minisosia opal)か、消費電力の少ないコンパクトな蛍光ランプ(Minisosia Box)ですが、ソジアと比べて組み込めるライトの種類が限られました。当初のミニソジアは、拡散光の割合が過剰に多く、下方への光の割合が少なかったため、照明内部に小さな空間を確保することで全光量の70%を下方へ導くことが可能となりました[図11]ー光量の上方と下方への配分割合が重要です。なお、拡散光に色がつくように、色のついたフィルターを組み込むこともできます。

ミニソジアオパール(Minisosia opal)は、ミニソジアシリーズの最後に生まれたもので、目をくらませるような効果を生まない内部からの“反射直接光”と、熱可塑性プラスチックの一種であるポリカードネート製の半透明ガラス(乳白ガラス)の半球を通じてもたらされる拡散光”の両方からなる混合型の照明ライトです[図9(e)]。この半球は、色のある光を放つことができ、室内であれ公共空間やオフィスであれ、任意の場所で用いることができます。

照明器具図9-11

照明器具1213

5 終わりに

日本では、照明プロジェクトに特化した照明デザイナーが職業として成立していないと言われますが、照明をめぐる日本とイタリアの様々な違いについて確認しておきましょう。
まず、日本と比べてイタリアの建築物の天井は高く、室内空間の容積が大きいため、室内で様々な光の当て方が可能です(図10)。日本では、障子を通じて横方向から差し込む淡い自然光が畳をぼんやりと明るくするのが美しいとされるので、床からスポットライトで彫刻作品を照らすといったことは文化的伝統として一般的ではありません。イタリアでは、光源からの光がガラスやプラスチックでできた照明器具を通過して拡散していく拡散光と、拡散せずに鏡のような金属面で反射する反射光といった細かい区分があり(図9)、光の当て方(照明の種類)と照明器具の設置場所を合わせて考えると、照明パターンは120種類にも及びます(図11)。
照明器具に関して新製品を開発する場合、この120種類ある照明パターンの内、利用シーンに合致するパターンを選び出したり、自社製品の製品ラインを設置場所(天井嵌め込み型ライト・天井吊り下げ型ライト・壁掛けライト・卓上ライト・床置きライト)で分類し、この分類において欠けているタイプの製品を新たに開発するといったことが行われます。その際、図9で示しているように拡散光あるいは反射光タイプの照明かを決定するのみならず、図12で示すように上方向と下方向への光量の配分割合も調整して決めなければなりません。また、天井嵌め込み型ライトの場合、図13で示すように天井を頂点として形成される光の円錐領域も決めなければなりません。

このように利用シーンや部分空間に相応しい照明パターンを細かく考えていくのがイタリアの伝統と言えますが、イタリア人にとって理想的な照明のイメージは、ドラマチックで人々をうっとりさせるような劇場における照明(illuminazione al palcoscenico)です。デザインのミッションの一つに、舞台装飾の技法(シェノグラフィア)を駆使して、スペクタクルな舞台ショーを創り出すということがあります。かくしてショーの空間を官能的に演出するような照明ライトが、理想的な照明のイメージだと言えるでしょう(次のnoteのルーチェ・プラン社の事例)。

[*]喜多俊之(2009)『地場産業+デザイン』学芸出版社

画像出典:起業家の写真:E.Gismondi:https://bit.ly/3x4iVPv,C.Guglielmi:https://bit.ly/3nCalUI,E.Castaldi:https://www.massimonava.it/wp-content/uploads/2020/05/MAG-04.05.2020-Intervista-Enrico-Castaldi.pdf、図1:https://bit.ly/3nD92Fm,https://bit.ly/3kZbxjz、図2:https://bit.ly/2Z6ZNnc、図3:https://bit.ly/2ZcDyMS、図4:https://bit.ly/3nDs12l、図5:https://bit.ly/3FxLnfy、図6:https://bit.ly/3HHFXQP、図7:https://bit.ly/3cxex1Q、図8:Zurolo,F.,R.Cagliano,G.Simonello and R.Verganti(2002),Innovare con il design,Il Sole 24 ore,p.72、図9および図10:Stocchetti,A.(1985),Spazi per la vita degli uomini,Alinea,pp.127-128、図11:多木陽介(2007)『アキッレ・カスティリオーニ』アクシスおよびStocchetti(1985)より筆者作成、図12および図13:Ravizza,D.(2001),Progettare con la luce,FrancoAngeli,p.55,p.64




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