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8月1日の新聞1面のコラムたち

 涌井慎です。趣味は新聞1面のコラムを読むことです。谷崎潤一郎です。安易な造語が嫌いです。はい。谷崎潤一郎ちゃんは著書『文章読本』で「勝手に新奇な言葉を拵えることは慎むべきだ」と述べていると読売新聞『編集手帳』で知りました。たぶん谷崎潤一郎ちゃんの『文章読本』は我が家の本棚のどこかにあるはずなんですが、ストレス発散のために古本を買うものですから読んでいない本がどんどん本棚の奥へ埋もれていってしまうのです。こういう機会を逃さずにしっかり捕らえてちゃんと読まねば。という決心がたぶん、これを書き終えた頃には無くなっているんです。ところで、読本の初版では妙な新語の例として「待望」を挙げているそうですから、面白いものですね。初版が出たのが1934年ですから、「待望」が生まれてからまだ百年経っていないかもしれません。「期待」と「希望」が一つになった言葉が定着したのは、私たちがなんでもかんでも欲しがりすぎるからでしょうか。コロナ禍だとか黙食だとか、最近は定着してほしくない言葉ばかりです。

 「空振り」と「見逃し」といえば、野球を思い出しますが、京都新聞『凡語』に書かれていたのは「線状降水帯」の予報の「空振り」と「見逃し」です。野球なら当たり前の用語でも、業界を異にすると新語のように聞こえる不思議。そういえば「線状降水帯」も比較的歴史の浅い新語ですね。積乱雲が重なり、同じ地域に数時間にわたり猛烈な雨を降らすのが線状降水帯。台風4号の影響で先月5日、今年最初の線状降水帯が高知県で発生しましたが、予報は出せず「見逃し」。15日には山口県と九州全域を対象に初の予報が出されましたが、こちらは一部を除いて初めて「的中」。的中するに越したことはありませんが、命の危険を伴う災害に繋がりかねない線状降水帯ですから、私たちも「空振り」を許容する覚悟を持っておいたほうがよさそうです。

 仮に世の中ではよく知られた言葉でも、自分が知らなかった言葉を知れば、それは私的新語といえましょう。朝日新聞『天声人語』に載っていた「クロスモーダル現象」が私的新語の一つです。温度感覚や視覚、聴覚など異なる感覚が影響しあうことを指す心理学の用語らしいです。セミの鳴き声が暑さを増すように思うのもその一つか、とは『天声人語』。夏といえば、かき氷。噂によると、かき氷のシロップは全部同じ味なんですってね。噂ですから真実は知りませんが、その噂が真実であることを前提に書きますと、全部同じ味なのに、赤色がいちご味、緑色がメロン味、黄色がレモン味に思えるのは、これも一つのクロスモーダル現象ではないでしょうか。それなら青色は何味なのでしょうか。不思議なもので、もはや、何なのかよくわからないのに青色のシロップを私は「ブルーハワイ味」だと認識しています。かき氷の青色以外でブルーハワイ味の何かを食べたことがありません。ブルーハワイ味のピザとか、ブルーハワイ味のフラペチーノとか、あるんでしょうか。

 もはや新語と呼べないくらい定着したのが「フェアトレード」。こちらは毎日新聞『余録』に出てきました。「フェアトレード」とは乃ち「公正な貿易」。貧困のない公正な社会をつくるために、途上国の経済的社会的に弱い立場にある生産者と経済的社会的に強い立場にある先進国の消費者が対等な立場で行う貿易のこと。適正な賃金の支払いや労働環境の整備などを通して生産者の生活向上を図ることが第一の目的です。私たちが衣服を安く購入できているのは、発展途上国で労働力が搾取されているからかもしれません。6月頃に見た『メイドインバングラデシュ』という映画がまさに、縫製工場で働く女性たちの劣悪な労働環境について描いていました。そうかといって、私だって、どちらかといえば労働力を搾取されている側であり、志としては、なんでも適正価格で購入したいと思っていますが、現実的に、それが難しいのも事実です。卵一つとってみても、「うちは鶏を放し飼いにして健康な状態で卵を産ませますさかいに本当に美味しい、ホンモノの卵ができるんですけど、その分、お値段はしますねん」という話には納得できるし、「さすがやなー!これからもそのやり方、応援してまっせ!」と心から思ったとしても、そこの卵が一個200円とか300円とかっていわれると、なかなか普段使いするのは難しいわけでして。なかなか一筋縄ではいかないのが現実であり、そういうところに注目してくれる政治家こそ「一般感覚を持つ政治家」なんだと思うんですよね。

 一般感覚として、やはり8月というのは、特別な月です。「八月や六日九日十五日」という一句を紹介していたのは日経新聞『春秋』です。広島と長崎の原爆投下、それに終戦の日を並べたものです。広島県内の医師が平成の初めに暦を眺めて詠んだとされていますが、いっぽうで昭和50年代から多くの俳人が同様の句を発表しているとの考証もあるそうです。この際、誰が最初に詠んだのかという議論は不毛であり、同じような句をたくさんの人が詠んでいることにこそ意味があるのだと思います。8月になると中島京子『小さいおうち』や大岡昇平『野火』を読みたくなります。

 多くの国民が同じ感覚を抱く8月とは、勝手が違うのが世論を二分する元首相の国葬問題で。産経新聞『産経抄』は元首相が凶弾に倒れたことについて書いています。私は知らなかったんですが、大阪は痰壺発言でも知られる森喜朗ちゃんは、あの日の二日後に風呂場で倒れて集中治療室に担ぎ込まれたのだそうです。何はともあれ無事でよかった。そうそう、この日の『産経抄』は名物の朝日新聞バッシングが見られました。海軍士官らが犬養毅首相を暗殺した「五・一五事件」を裁いた法廷で、被告の弁明を朝日新聞は、「被告らの純真さと愛国の情」などと極めて好意的に報道したと批判しています。産経新聞が朝日新聞を批判するたび、私はなんだか微笑ましい気持ちになります。私は朝日新聞も産経新聞も読売新聞も毎日新聞も日経新聞も京都新聞も大好きです。

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