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素敵な創作

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私の好きなクリエイター様の、読んで思わず引き込まれる素敵なショート、掌編、短編、短歌、詩、俳句を集めています
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記事一覧

「子どもの日」#シロクマ文芸部

こちらの企画に参加させていだきます⬇️ よろしくお願いします。 『親心』 子どもの日には柏餅を買ってくる。 今年は7つだ。こし餡、粒あん、白あんを2つずつ、味噌あんは1つ。 成人して家を出た我が子と孫たちの息災を祈って、一人で彼らの分までその日のうちに食べ切らねばならない。 今年で15回目、また誰も訪ねては来なかった。便りのないのは良い知らせと言うではないか。ありがたいありがたい。

黒い目玉のこいのぼり #シロクマ文芸部

 子どもの日にこいのぼりを飾る家は、ずいぶんと少なくなった。  そのことに少なからず安堵している。  僕はこいのぼりが怖い。  子どもの頃、僕はこいのぼりに、食べられた。  僕の家には祖父母が買ってくれたこいのぼりがあった。  当時の僕にはわかりもしないけれど、きっと高かっただろう立派なこいのぼり。  5歳の子どもの日。  いつもの子どもの日と同じようにその日を過ごした。変わったことはない。  父母と並んで見上げたこいのぼり。  きれいな青空を、飛ぶように泳ぐ姿がかっ

駆けてゆく少年

少年は 樹木と夕陽と詩が好きだった 少年は樹木を愛し過ぎたので 彼の涙は夜露に似ていた 少年は夕陽を愛し過ぎたので 彼の頬は人に遇うと赫くなった 少年の言葉は少し異様だったので 詩を書くことはいつも少年を傷つけた 機械工場の片隅に 油にまみれた工具と おどけた瞳をもつ仕上工がいて それがかっての少年だったりする 彼の毎日は同じ繰り返しで 一週間が一年に思えたりする あすにはきょうがきのうになり あさってにはあすがきのうになり きのうときょうとあすのあいだから たいせつなも

短編小説 オムライスと誘惑

 十月初週、後期授業が始まった。秋雨つづきで鬱々とする中およそ二ヶ月ぶり270分大声でしゃべり続けたせいか、三限の一年生クラスを終えたころにはクタクタだった。 「先生……」  次の教室へ散ってゆく花々を尻目に座り込んでしまい、教卓を挟んで目前に来ていた一輪にも声をかけられるまで気づけなかった。 「ハイハイどうしました」  とにかく腹が減っていた。早起きも久しぶりで朝はバナナにヨーグルトで間に合わせ、それから七時間あまりお茶と煙しか喫んでいない。それまでも昼はアメ玉で凌

色のある風景|ましろな

水 際 に う ま れ 浮 か ん で あ そ ぶ 水 の 玉 ひ と り で に 溢 れ た り 潜 っ た り す る 水 の 玉 つ ら な り を か さ な り を き ら う あ な た が み つ け た 、 水 の 玉 ひ と り 浮 か ん で あ そ ん で い た の に つ つ い て は じ

ショートショート:ラムネ炭酸寝顔

恋人はお酒が飲めない。 でも飲みに行くのが好きだ。 アルコールがなくても、雰囲気で酔えるんだって。 恋人は陽気だ。 恋人はお酒が飲めない。 でもいろんな人と食事に行く。 アルコールがなくても、腹割って話せる友だちがたくさんいるんだって。 恋人は素直だ。 恋人はお酒が飲めない。 でもおつまみを作るのが上手。 僕のために…、ではなく、美味しいものは何でも好きなんだって。 恋人は器用だ。 恋人はお酒が飲めない。 でも、 でも…。 「ねえ、重いんだけど」 「んー?軽いの間違い

LIFE IS SHORT

ぼくは高校2年生のとき 時間を巻き戻す魔法を手に入れた 国語のテスト58点 答案が返却されてから時間を巻き戻してもう一度同じテストを受けた 1回目でうまくいかなくても2回、3回目になるとどんどん点が上がった 誰もぼくの秘密を知らない ぼくはそうやって自分の失敗をなんとか挽回してここまでやってきた 大学受験のとき 就職面接のとき そしてぼくはまた難題に立ち向かおうとしている ぼくのあこがれだった幼馴染のりかちゃんが明日とうとう結婚する ぼくの知らない人と だからぼ

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【マンガ】ぴょ

春の雨【ショートショート ファンタジー】

春の雨はさらさらと降る。小雨だから20分傘を差さずにいても、そんなに濡れない。それでも、仕事帰りに濡れながらみみを探すのはまいる。 最近私は目が見えづらく、動くものくらいしか見えなかった。帰宅するともうすでに暗かった。しかし玄関のドアをするっとみみが通り抜けるのは、うっすらと見えた。あれは本気で外へ出たかったのだ。おむかえなんかの時は、玄関でちょこんと待っている。 「みみちゃん、ぬれるから帰っておいで」 そう言いながら庭を探し歩く。 近づいたと思ったらすぐに逃げてしまう。私の

文学の森殺人事件 エピローグ

 私たちが『西園寺探偵事務所』に帰宅したのは夜の十一時過ぎだった。西園寺は約六時間で事件を解決した訳だが、その割にはどこか顔色が悪かった。とはいえ、尊敬していた二階堂ゆみが殺害された事実を受け止められないのは誰だって同じだろう。気掛かりなのは大島徹と名和田茜のことだ。彼らは赤羽雄一と三木剛という例えようのないクズのせいで、事件にかかわってしまっていたのではないのか? 特に大島は二階堂ゆみを尊敬していて、彼女のような作家になるために上京してきた苦労人だ。そんな彼が嘘の供述をして

国語の授業で

先生は早足で教室に入ってくると、今日も引き戸を後ろ手に閉めて 「おはようございます」 と言ってさっと教卓の前に立った。 「気をつけ、礼」 クラス委員の福田くんが唱えると、皆ボソボソと挨拶をする。 水曜の4限はH先生の国語の授業だった。H先生はひっつめ髪に黒縁眼鏡、いつも黒い服を着ていたが、冗談が通じる点でその見た目の印象を裏切っていた。ムードメーカーの翔が 「先生〜彼氏はいますか〜?」 とバカっぽく聞いたら 「子供がいます」 と返ってきたときはみんな笑ったが、先生は左手の薬

【 短編小説 】 永遠のフライト。

学校からの帰り道、僕はいつもこの土手を通って帰る。 ここは広い景色を見ることが出来て気持ち良いし、河原にちょいちょい吉沢さんがいるから。 いつもなら吉沢さんはベンチに腰掛けて本を読んでいるはずだった。 今日はそのベンチが机になり、吉沢さんは熱心に紙飛行機を折っている。 僕は土手を降りて行った。 久しぶりに声を掛けてみる、、といっても一週間前にここで会ったけど。 「何してるの?」 3機目の紙飛行機を折りながら、僕を見上げる吉沢さんは肩までの髪を軽く耳に掛けながら「

【ショートストーリー】男友達、その前

放課後、2階の廊下の窓にもたれて 外を見ていた。 あ、あいつが歩いている。 制服の上着をひるがえして、 早足でどこに行くのだろう…。 ふと見ると、彼女があいつの少し後ろから ついて行っている。 あいつは時々振り返ったりしているけど 一緒には歩かない。 ふふ、カッコつけちゃって…。 でも、ちょっと、なんか…いいな。 あいつには1つ後輩のかわいい彼女がいる。 部活のマネージャーで、 彼女から好きになったとか。 本当かどうかは知らないけれど。 私たちは、1年生の時は同じクラ

【詩】未完

不完全なものに惹かれる 不恰好なもの まがってる道 欠けている人 ひねくれた小説 悩んでる顔 嫌な奴 私の中は空っぽで 誰かの何かでできている 色んなことが溢れて楽しい 入ってるものは何? なにも見えない 無い だから簡単 色んな人を好きになる 不完全な私と同じ匂い 雑多な自分 誰かの特別にはなれない あなたとお別れした日に 狂ったように泣いた 危機感 理解者だった あなたと離れたら 私が分からなくなる 依存 欠けている私は いとも簡単にのめり込んだ 理解してくれる者