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今更だが、まさかジョルノまでゲイなのだろうかと、向かいに座るロニーの顔を見てしまう。ロニーはゲイだったというべきなのだろうか? 基本的に女は嫌いだというが、男が好きだというわけでもないらしい。女よりマシ、という印象だ。今現在例外としてセシリアは運命の女だと公言しているが、セシリア以外の女性はまったく興味は湧かないし、触れば蕁麻疹が出ると言い続けていた。 はっきり言って迷惑だし、迷惑だと告げたところでロニーの行動は何も変わらない。大きな犬がご主人様に飛びかかって、尻尾を千
「あぁ、ごめんごめん。間違って聞こえるように言ったわ。あたし猫は好きよ。触りたいの。でも猫が触らせてくれないのよね。触る前に逃げられちゃうの」 おかしそうに笑って言うセシルを見て、チャドとロニーはそろって納得するように頷いた。 「あー、いるいる、そういう奴」 ロニーはそう言うと匙ですくったアンニンドゥーフーを食べた。チャドも納得するように頷く。 「たまにいますよね。どんな人懐こい猫にでも逃げられる人って」 チャドとロニーは地下都市生まれの地下都市育ちで、猫はあちこちにい
この物語は「Four Cities」シリーズの続編です。 1.「運命の女」 2.「剣鬼」 3.「タナバタ」 4.「セシリアと猫」NEW! セシリアは注文していたデザートを運んできた少年、チャドのエプロンの変化に目ざとく気付いた。小さなものが光ったのだ。黒いエプロンにきらりと光るそれは、とても小さい。爪くらいの大きさだった。 「お待たせしました」 愛想笑いをしても元が人懐こい性格だからか、途端に嬉しそうに見えてしまう。まだ十代半ば程のそばかすだらけの顔立ちだが、その笑顔の
「タナバタ?」 セシリアは聞いたことのない言葉に首を傾げた。肩で切りそろえた金色の髪が揺れる。少しずれたサングラスを指で押し上げながら、セシリアは奇妙な質問をしてきた少年を見上げた。セシリアに謎の質問を投げかけたチャドは、にこりと微笑んで頷いた。 「さっき来た姉さんたちが言っていたんです。今日は「タナバタ」っていう昔話で、年に一度しか会えない恋人たちが唯一会うのが許された日なんだそうで。セシリア姉さんは知っていましたか?」 すっかりこの店の仕事も板についたチャドは、笑顔を
「おいおい、ヴィズルの連中はいつからこう生ぬるくなったんだ? なぁ、俺と遊んでくれよ。それともこれはかくれんぼか? 鬼ごっこか? ずいぶん子供っぽい遊びが好きなんだなぁ、おまえらは」 駆け出し寝室のドアへと向かって銃を撃ちこむと、反撃が返ってきた。さすがに弾数が多いので一度ロニーも身を引いた。廊下の壁に背を預け、火力攻撃が途切れるのを待つ。不意の急襲だ。弾数には限りがある。連中がふと冷静になってそれに気付けば、無駄撃ちを抑えるために撃ってこなくなるだろうし、興奮状態が続けば
第一区画も第二区画もほとんどが商業施設だ。住宅が多いのは第三区画から第四区画に多い。しかし第三区画寄りの第二区画一部には住宅も紛れ込んでいる。連中もそうしたフラットを選んで借りたのだろう。目印にした鍛冶屋より少し離れた位置に、水色の外壁のフラットがあった。 「ここだな……」 セシリアの借りているフラットから近い。こんな近場に害虫がいたのでは、ますますセシリアが戻ってこないに違いないとロニーは思った。 「さてと、ゴキブリ退治と行くか……」 そう呟いてロニーは階段を上ってい
「おまえ、勘違いしているだろ。俺はおまえが学校通って友達と遊んでいる時から、人を殺しているんだぜ? 仲間の居所を言わないと殺すとでも言うと思ったか? 俺がそんなに優しい事を言うような奴に見えたか? 言っても殺すし、言わなくても殺す」 髪の毛を掴んだ手で、地面に叩きつける。その後わざとらしく微笑んだまま顔を覗き込む。優しく頭を撫でてから、ぽんぽんと軽く叩いた。 「なに、手間がかかるかかからないかの差であって、おまえのお友達もみんなぶっ殺してやる。あぁ、そうだ。俺、おまえらのせ
第二区画までやってきていたロニー・フェリックスは、ふと先日自分を助けた女のことを思い出していた。 セシリアと名乗ったあの女は、当分エイキンには潜らないと言っていた言葉通りに、エイキンへは来ていない。あの口ぶりもそうだが、殺風景な部屋から想像するに、本当にあの部屋は寝るためだけに借りているのだろう。先ほど行ってみたが、留守のままだった。 相変わらず第二区画まで来ると一般人も多く、人通りも激しい。一年を通して変わらぬ常夜の都市は、朝も昼も夜も関係なく欲望に満ち溢れ、そんな欲
スペンサーはロニーの部屋の前まで来ると、カードキーで開けた。ここ最近ロニーが寝たきりになっているので、預かっているのだ。 「ん?」 しかし開けたと思ったのだが、ドアノブはしっかり施錠してあった。もう一度カードキーを差し込むと、今度こそ扉は開いた。 「ピザ買ってきたぞー」 そう言いながらそのまま屋内へと入った。 壁際のスイッチを押して照明を灯す。男一人所帯だが、案外ロニーは綺麗好きなのでそう散らかってはいない。その割に、ごみ箱だけはいつも山もりになっている。この辺りは男
※この物語は前作「運命の女」のスピンオフです。 スペンサー・カラックはテイクアウト用のピザとビールが入った袋を抱え、三階分の階段を上りきったところだった。 「はぁ……」 慣れているとはいえ、空腹でもあるスペンサーは軽く息があがっていた。運動不足ということはないはずだと言い聞かせながら、目に入りそうになった濃い茶色の前髪を掻き上げた。 地下都市エイキンでは、地上と比べると建物の高さがない。何せネズミの巣穴のように、あちこちに張り巡らされた魔窟だ。そう深く掘り下げ過ぎると
ロニーは目を見開いた。間違いない、あれはセシリアだ。まだこちらに気付いた様子はない。入って来るなり、メニューが表示された電光掲示板を見上げている。 「セシル!」 「おわっ!」 テーブルを軽く蹴り上げてしまい、慌ててスペンサーがテーブルを押さえつけた。謝る暇もなくロニーは立ち上がり、入り口付近にいたセシリアに向かって走り出した。一方セシリアは名前を呼ばれたことに気付いて、周囲を見回していた。目立つロニーの染めた赤い髪と、猛烈な勢いで駈けてくるのに気付いたらしく視線を向けた。
「あー……だるい……」 そう呟いてロニーはテーブルに伏せるようにして頬を付けた。しかし窮屈な姿勢と脇腹と肩に響く痛みに耐えかねてむくりと顔を上げると、向かいに座っていたスペンサーが呆れた顔をして溜め息をついた。 「だから帰って寝ろって言ったじゃねぇか。それに傷だって無茶して、またぱっくり開いちまってるし。ボスからもしばらくは大人しくしてろって言われているのに、なんでそう出歩きたがるんだ? 飯なら買ってきてやるって言ってるだろ」 「んー……」 テーブルに肘をつき、頬杖をつい
セシリア・アネーキスは地上都市ヒミンビョルグ市にある、グラフヴェルズ製薬会社にいた。グラフヴェルズ製薬会社は四都市の病院や研究所などに、精製された薬剤を提供している大手企業でもある。新薬の開発にも積極的であり、研究所施設も数多く所有している。最近では空中都市にも進出して、新たな支局を増設するらしいという噂が、末端の社員の耳にも届くようになってきていた。 このヒミンビョルグ市にある本社にも一部、研究開発棟が存在している。セシリアが出てきた部屋も、その研究室の一つだった。
ガウトは他にもナンバースリー、ナサニエル・スレーターが襲撃され、一緒にいた運転手が死亡し、ナサニエルは被弾したものの命は助かったらしい。スペンサーが携帯端末機の向こうで悔しそうに言った。 組織が動揺している。ナサニエルとロニーが同日襲撃され、それぞれが負傷している。それは組織の安定力に影響を与える。今は戻った方がいいとロニーは思う。 しかし連中はいつ・どこから襲撃してくるかわからない。自分がヴィズルの側の人間なら、どちらかを確実に仕留めたい。ナンバー付きを殺害することで