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【独りよがりではつまらない】「面白い」と「面白くない」の境界を探る(2012年11月号特集)

※本記事は2012年11月号の柏田道夫先生インタビュー記事を掲載しています。


説明が多いとつまらない

――まず、おもしろくない書き方の特徴についてお伺いしたいと思います。

 説明が多いとつまらないですよね。人物をうまく動かして、物語を追うほどに何をしているのかが観客、読者に伝わるのが理想的なんです。物語の背景だったり、情報的なことだったりというのは説明しなくてはいけませんが、いかに説明を説明と感じさせずに展開できるかっていうのがポイントの一つです。

――小説の場合も同じですか。

 小説の場合は、ある程度は地の文に書けてしまえるんですが、それが長く続くと読んでいてつまらなくなる。もちろんこれは小説の種類、たとえば純文学だったらありだと思うんですが、エンターテインメント系だと、場面が動かないとつまらなくなるんです。

――場面が動かないと、なぜつまらないのでしょうか。

 知識として得られるおもしろさというのもなくはないんですが、エンターテインメント小説は、読者に場面をイメージさせる、映像が目に浮かぶように書くことです。説明文ばかりだと、まるで論文を読んでいるようで退屈してしまいますが、描写で書くことによって、主人公が見たもの、やったことを読者に追体験させる。そうすればおもしろくなります。

――セリフで説明しない方がいいですか。

 セリフに頼らず、出来事を通じて分からせるほうがいいですが、ただセリフって説明するのには非常に便利なんですよね。小説でも、地の文でずっと説明していると退屈だったりしますが、主人公に語らせたりすると読みやすくなったりするので、それもテクニックではあるんですよね。会話文をうまく使ったりとか、専門用語だったらそれについてセリフで説明するというのもありだと思います。

――物語をおもしろく展開するためには、どんなことが必要ですか。

 三つの「事」っていうのがあって、それは「事件」「事情」「事実」です。なんらかの事件が起こることで物語が動き始め、それに対して主人公がどうリアクションしていくかっていうのが「事件」です。「事情」というのは、その人物が抱えている問題。たとえば主人公が働いている会社が倒産しそうだというのも事情です。「事実」は、いろいろな使い方があるんですけれども、リアリティーを与えるためのディテールっていう意味の事実ってありますよね。
 シナリオや小説で「こんなことありえないよ」って思われたらもう話が成立しなくなっちゃうわけじゃないですか。そうならないよう作家は調べて書くわけですよね。もちろんジャンルなり、作風なりで変わりますが、物語を展開させながら、事実をうまく織り込んでいくといいわけです。

ミステリー、伏線、ハプニング

――おもしろい小説を作るポイントを教えてください。

 読者を引っ張る要素として、これも三つありますが、まずはミステリー要素、秘密ですね。秘密はどの物語にも必要で、その配分の仕方っていうのが、物語をおもしろくするひとつの要素になるわけです。たとえば作中人物は何か隠しごとをしていて、どこかに行こうとしている。
その作中人物は自分が隠している内容を当然知っていて、その秘密は、作中人物の行動を追うにつれだんだん分かってくる。そういう見せ方も一つあります。

 もう一つは、作中人物に対しての秘密っていう場合もあるわけです。作中人物は知らないんだけれど、読者は知っている。それは多視点にする場合もそうなんだけれども、主人公の行く先で実はこういう企みが待ち構えているっていう秘密を最初に明らかにしておく。そうすると、そのことを知らない作中人物の言動に読者はハラハラするわけです。読者に対する秘密、作中人物に対する秘密、どっちで展開していくとおもしろいかで決めていくといいと思います。

――秘密の配分の仕方っていうのはどういう意味ですか。

 ミステリーっていうのは、大きい秘密で展開していくんですよね。犯人は誰なのか、なぜこんなことしたのかっていうのは大きい秘密ですが、ミステリーの場合はそれを提示して、探偵なんかが探っていくことで物語になっていくわけです。

 たとえば主人公は家族に隠しごとをしている。いつもの朝のようなんだけど、何か隠している。主人公は何を隠しているのかな? っていうのをうまく提示していく。たとえば愛人と旅行に行こうとしているっていうのも秘密だし、実は家族といるんだけれども、もう一つ別の家族がいたっていう秘密があったとすると、それをどの段階で分からせていくかっていう、その配分が物語を引っ張る要素になるわけなんですね。

――伏線について教えてください。

 伏線もあらゆる物語に必要です。伏線とはあとのシーンに繋がるようにあらかじめ書いておいたもののことですが、バレてしまうとつまらないので、シーンの中にさりげなく含ませていく。ミステリーには絶対必要なものですが、ミステリーに限らず、あのエピソードがここに繋がってというようにいくつもの伏線が張ってあるとおもしろくなりますよね。

――最後のポイントはなんですか?

 それはハプニング、意外性ですね。読者は物語の展開や結末を予測しながら読んでいくわけですが、予想の想定内だとつまらないんですよ。予想通りハッピーエンドで良かったねっていうのもありですが、予想を裏切る展開をさせたほうがおもしろいですよね。そこは伏線との絡みになるんですが、伏線が裏返って、読者の期待や想像を超える意外な展開になるとおもしろくなるんですよね。

リアリティーを出すポイント

――本当の話なんじゃないかって引き込まれることがありますが、そのためには取材は大事ですか。

 三浦しをんさんの『舟を編む』なんかは文章も素晴らしいんだけれども、辞書を作る過程をきちんと取材して書かれているからおもしろいんですよね。広辞苑の編集者がモデルだって書かれていましたけれども、取材した実在の人の性格がキャラクターに生きていて、おもしろい。

 取材したことをそのまま全部書くとドキュメンタリーになっちゃうけれども、適度にちりばめられていると良い小説になるんだと思います。先の展開が読めなくておもしろいという小説もありますが、『舟を編む』は、主人公は予想通り辞書を完成させると分かっていても、読者が知らない世界を物語として落とし込んでいるのでおもしろいんですよね。

――取材は可能な限りたくさんしたほうがいいですか。

 自分の知っている世界を書くというのも手ではあるんですよね。この場合は取材はあまり必要ないので、あとはどうおもしろく物語に生かせるかってところがポイントになると思います。ただ、それがあまりにマニアックだと読者がついてこられない。たとえば時代ものだと調べることがたくさんありますが、調べたことを全部書いたら物語でなくなってしまいますから、調べたことをいかに捨てていくかっていうのがポイントになるわけですよね。

――物語に引き込まれるのは、先が知りたいからでしょうか。

それもあります。この話、最後はどうなるんだろう、って読者に思わせることができれば、半分は成功ですね。

――最後に、おもしろくするために先生が特に気をつけていることは?

繰り返しになりますが、説明的になっていないか、読者が理解できるかどうか、引っ張っていけるかどうかってところは特に意識しています。

特集「「おもしろい」の条件」
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※本記事は「公募ガイド2012年11月号」の記事を再掲載したものです。

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