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【確実に小説の力をつけるために】重要なのは短編を書く量と挑戦する粘り強さ(2013年2月号特集)


※本記事は2013年2月号に掲載された乃南アサ先生のインタビュー記事です。

読者が楽しんでくれたらいい

――乃南先生は初めて応募した作品で受賞されています。いきなり小説を書くことはハードルが高くなかったですか。

 以前から小説家になりたくて、始めるきっかけを探していましたし、怖いもの知らずでしたね。

――傾向と対策を分析されたりは?

 まったくしませんでした。日本推理サスペンス大賞に応募しようと思ったときは、ミステリーの意味もサスペンスの意味もわからず、友だちに聞いて、それから急いで松本清張さんの作品を読んで、小説とはこういうものかと思いながら書きあげたくらいですから。

――初応募で受賞され、プロデビューを果たします。順風満帆ですね。

 その頃は1年以内に受賞後第1作を出版するのが通例でした。でも、私の場合はそれまでの蓄積がゼロですから、書くのにものすごく苦労しましたね。担当編集の人にも、当時は「下手だ」と言われました。

――受賞後に作家修業をするという感じでしょうか。

 当時は景気がよく、雑誌の数も多かったので、新人作家はまず短編小説を書くのが一般的でした。短編のお仕事をいただきながら、一作一作勉強していくという感じでしたね。

――ミステリーやサスペンスの手法も、デビュー後に確立されたのでしょうか。

 ミステリーやサスペンスの定義がよくわからないままデビューし、いまだにわからないままです。でも、それでいいと思っています。

――乃南先生の作品は謎解きより人間ドラマに主眼がありますよね。

 デビューしたときから変わらないのは、その時代と時代を生きる人間を書きたいということです。私にとって一番の謎は人間で、人が思わずとってしまう行動に興味があるんです。

――構成はきっちり立てるほうですか。

 立てないですね。決めるのはテーマぐらいで、ストーリーも何も決めません。
 デビュー当時はハコ書きや梗概を作りなさいと言われたこともありましたが、私には向いていませんでした。旅に出るとき、行く前からきっちりスケジュールを決めると、旅そのものが計画の確認作業みたいになりますよね。私は旅行でも乗り物と宿以外は何も決めないたちなんです。きちんと決めると息苦しくなるんですね。それと同じで、連載小説の場合も先に決めるのはタイトルだけです。

――キャラクターはどのように造形していきますか。

 それも特別組み立てないんですよ。テーマと時代が決まってくると、登場人物はなんとなく見えてくるんです。

――こんな人物がこんなことをして、とあらかじめ決めておくのではなく?

 私が書いた人物ではあっても、私とは別の人間だと思っています。だから、私の思うようには動かないんです。私は客観的に人物を見て、その生活や人生を写しとっている感じですね。

――では、書いている時間と考えている時間とではどちらが多いですか。

圧倒的に考えている時間です。

短編を書くと力は確実につく

――プロの小説家を目指す方へおすすめの勉強法はありますか。

 短編を書かないと、小説は絶対上手にならないと思います。短編は一枚の写真のようなもので、長編は長尺で撮っているビデオのようなもの。長ければダレたところがあっても目立たないかもしれませんが、短いときっちりピントを合わせないとダメなんです。
 30~40枚の作品を10~20本書くと、構成力をはじめ、小説を書くすべての技術が確実に上がります。

――推敲のコツはありますか。

 覚えておいたほうがいいのは、気に入っているところほど、人が読むと不愉快に感じるということ。そういうところは自分に酔いしれて書いていることが多く、はたから見るとクサかったり、邪魔になったりするんですね。気に入っているところほど冷静に見て、時には思いきって捨てることも必要です。私もデビュー当時は半べそをかくくらい編集者に原稿を削られましたね。

――今年度からオール讀物新人賞の選考委員をされますね。受賞のポイントなどはあるのでしょうか。

 上手下手よりも、最終的には執念や熱のこもった作品が選ばれると思います。
 お行儀よくまとまったものより、ちょっと破綻があっても非常にエネルギーがある方に惹かれるし、そういう人のほうがあとあと伸びるんです。それはテーマではなく、どれだけ作品に真剣に取り組んでいるかなんです。完成度を上げようと変にいじくるよりは、勢いをぶつけたほうが有利だと思います。

――オール讀物新人賞に応募するには、応募券が必要になるとか?

 新人賞に応募するのに、文芸誌を見たことがない方が多いようですね。目次を見るだけでも、それぞれのカラーや違いがわかります。賞の母体となっている文芸誌ですから、一度は読んでおくべきですね。

何度も挑戦する粘り強さが必要

――最近の応募者に傾向はありますか。

 最近はみんな打たれ弱いですね。一度の落選でもすぐにしゅんとなってしまう。
 もう少し頑張れば大丈夫だとアドバイスしても、諦めてしまう人が多いですね。最終選考まで残りながら何回も落ちて、途中息切れしたときもあるけれど、また頑張って、結果デビューした人もいるんです。そういう打たれ強さ、しつこさも大切だと思います。

――乃南先生にとって小説家とはどんな職業ですか。

 終わりがない職業ですね。長編1本書いて、やったーと思ってもゲラが来て、すぐに直さないといけない。今度こそ終わるかと思うと、また再考すべきところが出てくる。達成感からすぐ逆戻りしなきゃならない。連載だと長いスパンでこの状態が何年も続くわけです。やっときれいな表紙で書店に並ぶ頃には、気持ちは次の作品に行っていないといけない。
 しかも一人でやる作業です。非常に盛り上がりのない孤独な職業です。

――好きでなければできない職業ですね。現在連載中の作品やこれからのご予定はありますか。

 小さなお子さんでもお年を召された方でも読んでいただける作品を書きたい、そういう思いから、『オール讀物』で日本の昔話をリメイクした小説を年4本ずつ書かせていただいています。みんなが知っているお話だけど、改めて読むとまた違った感じ方ができるんじゃないかと思います。また、今年から長編の連載に入るのでその下準備をしています。

――最後に作家志望者にメッセージをお願いします。

 作家になりたいから小説を書くのか、それとも小説を書きたいから作家になろうとするのか。このどちらを選ぶかでその後の人生は大きく変わると思います。
 どちらがいいかは……作家志望者自身が自分で考えるべきことですね。

乃南アサ(のなみ・あさ) 
1988 年『幸福な朝食』で日本推理サスペンス大賞優秀作を受賞。96 年に『凍える牙』で第115 回直木賞受賞。11 年に『地のはてから』で第6 回中央公論文芸賞受賞。『ウツボカズラの夢』(双葉社)、『ニサッタ、ニサッタ』(講談社)、『すれ違う背中を』( 新潮社)、『地球の穴場』(文藝春秋)など著書多数。

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※本記事は「公募ガイド2013年2月号」の記事を再掲載したものです。

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