見出し画像

【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(35)予想を超越する三つ目の条件

「“命を掛ける”とは、依頼人の寿命を頂戴する、ということになります」

「寿命? ……あげる? 」

「はい。寿命を頂戴します。
 正確には、寿命を決めている“命《みょう》”を頂戴します。一種の生命エネルギー、とお考えください。
 闇を吸引するためには同時に、命《みょう》を吸引することになります。
 闇は命に寄生しているのと同じで、エネルギーを転換しながら存在し続けます。闇のみを取り出すという都合の良いものではない、ということです」

 生命エネルギーという表現に否定的ではない。ただ『闇が寄生している』とは不思議な感覚だった。

「頂戴する命《みょう》の量は、闇の深さ、怨度《おんど》によって違います。吸引する闇に適する命《みょう》が減るということ、寿命が短くなるということです。……つまり“命を懸《か》ける”わけです。
 と言っても、生命を奪うことはありませんので、ご安心を」

 闇多き人たちにとって、寿命が短くなることに抵抗がない、はず。私もそうだから。生きてることほど苦痛なものはない。「早く死にたい」と考える人もいるはずだから。
 この時の私は、寿命への執着より、彼が説明する命と闇に対して興味を抱いていたのは事実だ。


「人には寿命があります。が、いつ絶えるか事前に分かることではありません。
 しかし、私たちは命《みょう》の量を感知し寿命の長短を察することが可能です。
 闇を吸引する際、寿命が十分でないと判断した場合、残念ながら闇の吸引を控えさせて頂きます。つまり、復讐もできないということです」

 キョトンとしている自分がいることを疑わず、ファンタジー小説を読んでいる夢物語感は否めない。現実味《リアリティ》のない話しに反応する言葉が、見つからない。

「驚くのも仕方がありません。
 どちらにしても、相当の覚悟がなければ復讐は諦めた方がいいと思われます。この三つの条件を依頼人が同意しなければ、この話しはなかったことになります。そして、ここでの記憶は抹消させて頂くことになります」

 予想を超越する三つ目の条件。戸惑いを隠せなかった。
 単純に金銭で依頼する、とばかり思い込んでいた。仲介男に言われた“命をかける”覚悟とは“勇気”という意味で捉えていた。
 違った。

 戸惑いは条件を受け入れるか受け入れないか、ではなかった。寿命を吸い取る力がある、闇で復讐する、という白髪男の話しを信じ、そして任せていいのか、だった。
 私の希望は、同じ時代、同じ時間に生きている憎き犯人に復讐することであり、抹殺すること。念願というべきその希望を本当に果たしてくれるのか、疑念が残るのは当然だった。

 過去に起きていたであろう『加害者連続死亡事件』の記事、その犯行となる者が捕まっていない理由、仲介屋の話し、そして目前の白髪男が示す三つの条件……頭の中を整理した。そして……

(信じる、信じないは、私次第だ!)

 ここまで来た私の決意は、体中に力を注ぐ。

「大丈夫です。お願いします」

 返事を聞いた白髪男は、後方に立つ連れの中年男へ視線を変えた。
 その男は無言で首を縦に振った。

(何かの合図なのだろうか? )

 視線が還され、さらに詳しく教えてくれる。

「私の能力は、“闇喰《やみく》”と呼ばれています」

「やみく? 」

「そう、やみくです。
 闇となる怨みや苦しみ、哀しみなどを、ヒトの体内から吸引し、私の体内に保管することが出来ます」

「闇を、どうやって渡すのですか? 」

「手を握るだけです」

 無言のまま、右腕を腰の高さまで上げ、手の平を見つめた。痛みはないと補足してくれた。

「その際、寿命を確認します。寿命の少ない人から頂戴することは掟として許されていません。
 もし間違えば、その場で心臓を止めてしまう危険性もあるのです」

 反応する言葉を、失っていた。

「それから、“命を懸ける”ということに、もう一つの意味があります。
 それは、純粋であるかどうかです」

(じゅんすい? )

「“命をかけます”と言っておきながら、そこに心がない場合、私の力は発揮されません。命《みょう》も闇も吸引できないのです。
 私利私欲、エゴが強い依頼人、例えば利権、地位、名誉などが絡んでいる人の命《みょう》と闇は、私たちにはどうすることもできません。
 “闇喰《やみく》”の掟とお考えください」

 少々難しい掟だったが、覚悟は決めていた。その程度の内容なら、覚悟を引っ繰り返すほどではなかったからだ。しかし……

「三浦耶都希さん、もう一つ大切なお話しをしなければなりません。
 実は先程、出雲大社で握手してもらった時、確認させて頂いたのですが……」

 次のコトバには驚き、ショックを隠しきれなかった。いや、怒りの情へと変わっていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?