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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(38)意味なき想像

 日没まで時間はあったが、曇っているおかげで徐々に減光していく神社境内。
 無言が続く三人だったが、源翠《げんすい》氏から提案してくれた。

「耶都希さん、あなた自身の道は自分でよくお考えなさい。急ぐことではありません。
 今回のお母さんの仇の件は、こちらに任せて頂けますか?
 犯人は四人いますが、主犯の一人に絞りましょう。主犯は刑務所内にいますので二日以内には処理できます。それまでは冷静になってお待ちください。そして……」

 間を置かれた。


「……もし、耶都希さんが持っている力を活かす生き方を選択するのであれば、いつでも孝博に電話ください」

 タイミングよく手渡された、電話番号が記されたメモ。

「かける時は、必ず公衆電話からかけてください」

 それを受け取ると、孝博氏より忠告。

「もしこの道を選ぶなら、覚悟しておいてください。
 とてつもなく嫌な思い、苦しい経験をしなければなりません。人の死に大きく関わります。
 それに、依頼人の闇を扱うことになります。闇は人を病気にし、自分を痛めつけます。時には他人の生命をも侵す、大きなエネルギーを持っています。耶都希はそれを実感してるから、分かっているはずです。
 その闇を一旦、自分の中に閉じ込めなければならない。強靭な精神が必要になります。鍛錬しなければなりません。
 だからお母さんは『耶都希を普通の女の子にしたい』と願ったのです」

 祖父と名乗った源翠氏と、父かもしれない孝博氏のコトバを完全ではないが理解し、それに従うことにした。

 二人と別れた私は、予約してある出雲のホテルへと向かった。
 夕食、入浴などを全て済ませ、ベッドに横たわり。今日の出来事と二人の言葉を自分の中で整理したかった。

 先ず想定もしてないこの展開。
 今後二度と、今日のような驚愕する出逢い、出来事はないだろう……そのように考えても可笑しくない心地だった。

 希望する主犯の処理とやらを待つことになるが、次の一歩を踏み出す機会が訪れたこと、それは事実だ。それも日常では有り得ない、想像すら意味なく先の見えない人生。

 これから何をすべきなのか、考えることとなったが、容易に答えがでないことも、分かっていた。


*******

平成27年6月17日――

 今回の依頼人は同時三人。多可町前町長の息子、不動産社長の妻、建設会社専務の母の三人だ。
 ターゲットは、マスメディアで騒がれている兵庫県議会議員の回道《かいとう》正志《せいし》。4月12日の選挙で再選したベテラン議員だが、黒い噂が立ち始めていた。
 私もこのニュースは知っている。SNSでも騒々しいから、事件内容も確認出来ていた。

 前町長は交通事故死だったが、事故加害者が『回道議員の秘書に頼まれた』と警察に告白している。自殺したとされる不動産社長は、回道議員が裏で手を回した可能性を匂わせる、自殺幇助ありと断定。建設会社専務の変死は他殺と断定、回道議員が関与している疑いで警察も捜査していた。本人は否定しているものの、徐々に捜査網は狭まっているようだ。

 そんな渦中、犠牲になった三人の家族が依頼してきた。
 物的証拠がない現状では逮捕される可能性が低い。他の犠牲が出る前に処理して欲しい、との強い願いだった。
 そしてこの依頼は、NS《ネス》の指示により単独《シングル》で遂行することに。直毘師《なおびし》が出てくるほどではなかった。
 相手は県議会議員であり、私は兵庫県民だ。接触することは容易。
 定期的に街頭演説もあるし、後援会活動もある。その予定はWebサイトに記載されているのだから。

 依頼人の話しを聞き、闇喰《やみく》の説明と明日遂行することを伝えた。三人とも承諾し、ともに闇喰を行なう。
 そのまま愛車を疾駆させ、出雲から神戸への帰路についた。

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