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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(8)「50万円用意しぃや」

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 不思議な現象や解明できない事象があるのは、世界中どこにでもあるはず。極論すれば、占いやお祓いなども科学的根拠などない。”神”や”仏”などもヒト科の妄想創作物、と信じていた。
 しかし、加害者たちが亡くなっているのは嘘ではない。連続したその出来事が偶然なのか他者によって誘発されたものなのか、事実を確認したかった。もし第三者によるものなら、その方法を真剣に知りたかった。私の願い、でもあった。

 この機会を逃してはいけない、と察した。

「その人たちには会えるんですか? 本当にいるなら、会いたいです」

 男を試した。

「ホンマに?」

 男が私の本心を確認しているようだ。

「本当です!」

(本当にいるなら、会いたい!)

「会ってどうするん? 殺しでもお願いするんかい?」

「そんな力があるならお願いしたい。方法を教えてくれるなら、私の手であいつを殺す」

 言ってはいけないセリフかもしれないが、言うことに抵抗はなかった。世にある殺害方法以外の方法が判ることへの関心が、アドレナリンを増幅させていた。

「お願いするっちゅうのは、どういうこつかわかっちょるんかい、お嬢ちゃん!」

 犯罪を依頼すれば、自身も犯罪者になることは知っていた。それでも(大切な母を殺した犯人《あいつ》を絶対許さない。どんな方法を使ってもこの世から抹殺する)と、やまない叫びだった。
 三年経ったのに憎悪は膨らむばかり。闇は私の心を蝕《むしば》み、復讐欲求が生きるエネルギーになっていた。

(絶対許さない! 殺す! 絶対殺す!)

 涙は出てこない。悲しみはとうに失せ、怒りや憎しみだけが全身を包んでいた。
 そんな私を見つめる男の眼は、憐れんでいるようだった。(まだ子どもなのに、一生このままでいるのは不幸だ)……と。

「よぉ〜わかった、お嬢ちゃん。
 じゃがもう一回よぉーく考えてみぃ。自分の人生、自分の命かけてもえぇ覚悟ができたら、一週間後この時間にまた来なはい。生半可な気持ちなら来んでもえぇから」

「本気です。あいつが死んでくれるなら、命なんていらない」

 瞬間、中老男の笑顔は薄まり数秒で険しい顔つきを、会ってから初めて見せた。

「……お嬢ちゃんが本気なら、わいも本気や。ここからビジネスの話やから、真剣に聞きぃ。もし彼らに頼みたいなら50万円用意しぃや。つまり仲介料やな。
 一週間後は手附金の25万円でええ。そしたら彼らとコンタクトとるよって。さらに一週間後、彼らと会う場所と日取りを教えるよて。そん時残りの25万円と交換やっ」

 この瞬間私は、どんな表情をしていたのだろうか。

(50万? 本気《マジ》? 揶揄《からか》ってるの? )

「言うとくけど、あんた未成年やから50万にまけたんやで。大人やったら300万や」

 普通の人なら容易に準備できる額じゃない。しかし、海外で殺し屋《ヒットマン》への依頼は高額と書いてあった。真実かどうかは分からないが、殺害を依頼するのに(50万や300万なんて安いのかも……)そう思えた。ただ目前の男は殺し屋ではなく仲介屋だ。それもギャンブルが好きそうな、第一印象の悪いオヤジだから、不安は大きかった。

「なんや、わいのこと怪しいとか思っちょる眼ぇしとるなあ。言うておくけど、詐欺ちゃうで。そんなことやっとったら、わいは疾《と》うの昔にこの世から消えとるよ。やつらに始末されちょるだろうしなぁ。
 まぁえぇ。50万円払えんちゅうなら、復讐は諦めな、お嬢ちゃん」

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