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なかにし(nia)
2016年7月22日 00:51
自分一人では歩けないと思っていた道を、手を引いて歩いてくれる影があった。それはいくつもいくつも重なって、ゆるやかにえいえんにわたしの手を握ってくれた。けれど、それじゃあだめなんだって。一人で歩けなくちゃ意味が無いんだって、わたしは言った。影は離れなかった。わたしには、手を離す勇気がなかった。手を離すくらいなら、繋いだまま腕を切り落とす方がましだと思った。そのまま死んでし
2016年7月20日 16:23
ベランダからぼんやりと、薄い曇天の空を見上げて煙草に火を点けた。流れていく銀色の空、鉛色の雲はぐんぐんと進んでいく。ゆっくりと煙を肺まで吸い込むと、なんだか子宮にまで流れてきそうな気分になる。無意識に腹式呼吸をしてしまうのは、うら若き青春時代の呪いだ。雲が渦を巻くようにして流れていく。形を変えて、細い線を編んだだけのか弱い形をひらひらとたなびかせているようにも見える。丸いのに強い風が、激しいの
2016年7月20日 16:15
透明な蜻蛉を抱いて、笑う少女がいた。夏の青い空に照らされて、地面から雨のにおいはすっかりと消えてしまったらしい。青い鳥を肩に乗せた少年は、仄暗いトンネルの向こうへどんどんと進んでいく。 ぎざぎざに割れた空き瓶の欠片で、僕たちは緑色の血液を作った。流し込む先には、もう既にきらきらした音が待っていると知っていた。透明な蜻蛉は日向に揺れて、もう誰も笑ったりはしなくなるけれど。 あ
2016年7月20日 16:05
眩い朝だった。或は、それは夜だったのかもしれない。薄っすらと目を開けた僕の視界に、大きな影が揺れた。頬を撫でる風は確かに自然な不安定さを保ち、ここが外であるということを僕に知らせる。淡い桃色の、綿菓子のような空が見えた。確か、僕は一人で学校からの帰り道を歩いていたんだ。いつも通りの見慣れた景色。すれ違う友人は、僕が住むアパートの4ヶ月分くらいの値段もするロードバイクにまたがって
2016年7月20日 16:02
何者でもない人の声を聴きたいとおもった。何者でもない誰か。だけど確かに息をしている人。やさしくて、臆病で、月の匂いがするあの子は今どこで、誰の隣で眠っているんだろう。天の川を溶かしたら、夏の終わりにきみに会えるかな。
2016年7月16日 01:35
毎年、夏になるとサークルの仲間五人と一緒に海沿いのコテージへ行ってバーベキューをする。夜には花火を楽しんで、お酒片手に星空を見上げるのが毎年の楽しみ。今年でついに四回目、サークルのみんなと過ごせる最後の夏だ。来年にはきっと、みんながそれぞれの環境で新しいコミュニティに身を置いている。「うっそ、雨?」 バーベキューの終盤、加奈子の声がして、空を仰いだ。曇天。朝の天気予報では晴れのち曇り、だ