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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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2021年5月の記事一覧

5月30日(日) 古今集の五月雨

五月雨に物思ひをればほととぎす夜深く鳴きていづち行くらん
                     (153 紀友則)

 『古今和歌集』の夏歌に載る五月雨の歌は二首だけだ。そのうちの一つが紀友則のこの歌。
 ここでの五月雨は物思いを誘発するものとして機能する。するとほととぎす到来。ほととぎすは新古今時代に「村雨の空」との繋がりを深くするけれど、雨自体とは『古今集』の時代から縁が深かった。 

 

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5月29日(土) 職場詠

5月29日(土) 職場詠

 週末に晴れてくれることが多い。ありがたい。

 去年は中止された文化祭が、かなり規模を縮小しながらも開催できる運びとなった。僕が担任するクラスでは動画を撮影することになり、人を集めてイメージを共有し、道具を揃えて撮影に臨んでいる。全員が参加するわけではないけど、全体の雰囲気が徐々に変わってくる。準備に夢中になり、クラスの仲間と一緒にいることを楽しんでいる。授業に覇気が生まれ、教員へのリアクション

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5月23日(日)

5月23日(日)

 週末、奇跡的に晴れた。
 昨日の土曜日は数日ぶりに星空が姿を現し、購入したままになっていた天体望遠鏡を出して月の観測をした。クレーターまではっきりと見えたことに興奮しつつ他の星にもレンズを向けたが、惑星についての知識が不足していて適切な観測はできなかった。北極星とおぼしき光の玉がぼやけていた。

銀色のファンデーションの向こう側一秒前の痘痕を覗く

 日曜日は朝から晴れ渡った。公園にでかけ、外来

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5月19日 家隆の空

5月19日 家隆の空

雨が降る。雨は物憂いが、ほととぎすを呼んでもくれるらしい。

いかにせん来ぬ夜あまたのほととぎす待たじと思へば村雨の空
               (新古今集・夏歌・藤原家隆)

 良い歌だなあ。

 分かりやすい。
 下の句に向けて緩急のリズムがよい。
 なんか深そう。

 分かりやすいというのも背景知識があればこそ。五句で「村雨の空」というが、その背景にはどうやら

心をぞ尽くし果てつるほ

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5月15日 短歌の日

5月15日 短歌の日

ぶしつけに屋根を殴った雷鳴にそこで帰れと窓を閉めたり

鳴り響く空にいつかは投げてやる怒ってるんだこの雷め

稲妻が不妊に悩む年のことを飢饉という名で僕らは覚える

隠し絵を見つけられない子の頬にぷつりと触れたムーと言わせた

雨の日の今日も息子ははいのぼる棚に机にキャットタワーに

宿題が終わってないと嘘を言う下げからの上げを狙う我が子は

学校をすすけたナマハゲ徘徊す丸まりそうな背筋を伸ばし

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5月13日 良経の雨

5月13日 良経の雨

 雨が止まない。梅雨がきた。
 梅雨は五月雨ともいう。五月雨は本来は旧暦5月、現在の6月前後に降る雨だ。しかし今年はすでに梅雨入りが宣言された。今降っているコレは、ちょっと早いが気象庁公認の五月雨、ということになる。
 長雨は気が滅入る。平安貴族に、五月雨の愛で方を学ぼう。

うちしめりあやめぞかほるほととぎす鳴くや五月の雨の夕暮れ
             (新古今集・夏歌220・藤原良経)

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5月12日 娘と僕

5月12日 娘と僕

 朝、3歳の娘の朝食を担当した。娘はフルーツグラノーラを希望した。
 多くよそりすぎた。娘は先に干しぶどうなどを食べ、眉をへの字にする。
「フルーツなーい」
「娘ちゃんが食べたんでしょ」
「はぁ~い」
 素直でもなく嫌そうでもない、絶妙な甘さの「はぁ~い」。
 グラノーラを一緒に食べる。娘にあ~んをする。スプーンに盛ったグラノーラが多すぎて娘の頬が膨れる。
 膨れた娘の頬をまねして、僕もぷくっとす

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5月8日 深刻化するコロナ禍と俊成の旅

5月8日 深刻化するコロナ禍と俊成の旅

 ゴールデンウィーク中は鹿児島にも観光客が増えた。それ自体は歓迎すべきことだが、当然のように一週間後の昨日からコロナの感染者が急増傾向だ。ステージ3が宣言され、県外の人との面会制限がかけられた。

 雨が降る。どこにも行けない梅雨が来る。心弾まぬ一学期。

数度目の過去最悪を更新し「こそ」が陳腐な今がまた来る

☆ ☆ ☆

 旅を思う。グアムへの旅行を企画し、義母に初めてのパスポートを取得しても

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5月6日 初夏の風

5月6日 初夏の風

 天気予報に雨のマークが並ぶ。多分今月の下旬には梅雨入り認定されて、7月下旬まで雨が降る。
 子どものころの梅雨はこんなに長かったろうか。豪雨も多い。日本はずいぶん雨に愛される国になった。

 荒れる天候が多い中、今日は晴れた。帰宅するころには空がオレンジと深い青に染め分けられている。地上は影を帯びた新緑で、うっすらと浮かぶ雲のあいまいな白さが景色を柔らかくする。春景を望み、夕べは秋となに思ひけむ

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5月5日 いじめ防止ポスター

5月5日 いじめ防止ポスター

 息子の宿題を手伝った。息子はGW中にいじめ防止のポスターを制作せねばならぬ。
 いじめを防止するほどの力あるポスターなど存在しえない。だからこれは制作することで子どもたちを「いじめをしない側」に引き込む戦略だろう。制作にやる気さえあれば、どんな風に仕上がっても文句は出るまい。

 ネットの画像検索でいくつか好みにあうポスターを選ばせ、それらを題材に下書きを作り、手応えのあった1つに絞り込んだ。そ

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5月4日 無限には少し足りない世界と、橘の香り

5月4日 無限には少し足りない世界と、橘の香り

 風呂で長男とおしゃべりをする。小2の長男は数字とお金が大好きだ。「1垓円あったらどうする?」「デリバティブ合わせても地球上にそんな金はねえ」とか。
 時々繰り返される質問に、「無限より1少ない数って何?」がある。息子は「最強」と同じレベルで「無限」が気になっている。その最強に一歩届かない数字を知りたくなったんだと思う。無限に届かない、無限を見据える数字。答えはまだ思いつかない。

神に近い人は無

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5月2日 初めての家族キャンプ

5月2日 初めての家族キャンプ

 キャンプに来た。家族でテントに泊まるのは初めてだ。風がやや強い。眠れるだろうか。

 皆、寝袋に入った。僕はバーベキューの残火で焼酎を温めて飲んでいる。次男がテントから顔だけ出した。娘が怒る。出入り口のジッパーを閉めたいのに、次男が顔を出しているから閉められない、と言って怒る。次男は星が見たいという。星を見ながら寝たいという。お洒落な願いだ。3歳になったばかりの娘は、我意が通らないと怒る。次男は

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5月1日 宿題と子ども

5月1日 宿題と子ども

 春休みの宿題をしない生徒を放課後残し、担任団が代わる代わる監督しながら学習させている。なかなか終わらない。4月が先に終わった。

花を待つ頃の課題は花散らす風が薫りてなほぞ残れる

 仕事を終えて家に帰ると妻が息子と戦っている。宿題をぜんぜんやらない。妻が庭仕事をしていると勉強部屋を抜け出してくる。弟や妹と遊び出す。
 仲がよさそうで何より。後は僕が引き受けた、というほど頼りがいのある夫じゃない

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4月30日 僕の焦りと白河院の卯の花

4月30日 僕の焦りと白河院の卯の花

 時間割が変更され、一時間目に授業をすることになった。授業準備が終わっておらず焦る。予定を繰り上げ20分で予習を完了させ、準備を整えた。

新緑のようなマナコを向けられて脳を絞った僕はウスキイロ

☆ ☆ ☆

 『新古今和歌集』の夏歌では、衣替えの後に卯の花の歌が並ぶ。白く可憐な花だ。現代ではおからの異名にもなっている。

卯の花のむらむら咲ける垣根をば雲間の月の影かとぞ見る(白河院)

 「雲

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