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Growth チームの構成と存在価値、 PMF 前後の役割について

こんにちは @kossmori です。以前、スタートアップの爆速成長のカギを握る Growth (グロース)の本質という投稿で、Growth は従来のマーケティングでも「ハック」でも無いということを書きました。

15年前の「グロース・ハッキング」は次第に「グロース・マーケティング」に変わり、今では従来のマーケティングツール上での実験と最適化を軸としたマーケティング手法はもはや当たりまえ (広告、ソーシャルメディア、Email など。)

グロース・マーケティングは単なる「良いマーケティング手法」になりました。これはマーケティングという枠組みを超えていない範囲での、事業グロースに対する1つのアプローチです。

では現在進行系の Growth とは、 シリコンバレーのスタートアップでビジネスの要となっている Growth チームとは一体何者なのか。今回はそれを紐解きたいと思います。

Growth Product Manager という職種

Growth チームには必ず、Growth Product Manager という役職が1人以上います。私がその職種についてから早4年、Growth は未だに本当にわかりにくいなと思います。

マーケティング?セールス?プロダクトマネージャー?ユーザーリサーチャー?エンジニア?それとも行動経済学者の卵?

恐らく、誰もが納得する1つの答えはまだ存在しないのだと思います。それくらい歴史の浅い職種だからです。

組織内に Growth チームを持たない人に仕事を説明しても、必ず(´・ω・`)って顔をされます。

LinkedIn でジョブタイトルを検索しても 3400人 しかヒットしない。そのうちの大多数はシリコンバレーにいます。(Director of Growth まで含めると 8000人 くらい。)

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Growth チームの構成は各社で千差万別

Growth チームはプロダクト、エンジニアリング、セールス、マーケティング、データサイエンス、ユーザーリサーチを組み合わせたクロス・ファンクショナルな職種で、事業の成長に関わることならほぼ全てが守備範囲。

面白いのは、Growth チーム及び Growth Product Manager の責任範囲や所属は、各社各事業で全然違うこと。

これは、各社のビジネスモデルや主要 KPIs、事業のボトルネックに対して組織を最適化した結果なのですが (後述)、これのせいで 「Growthチームとは?」という質問に対して誰もが納得する答えが出てきにくい。

それでも必ず共通することがあります。それは、チームが背負う主な KPI がビジネスメトリックス (売上、利益、コスト) や販売目標であり、自社のビジネスの成功に最もフォーカスする存在であること。

Growth チームとは、企業のビジネス課題を解決するソフトウェアチームである

ではマーケティングとは何が違うのか。その答えは、従来のマーケティングと、従来のプロダクトマネジメントをと照らし合わせた以下の位置づけが一番腹落ちしました。

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これは Intercom の Senior director of Growth だった Ben McRedmond と Dropbox の Growth PM だった Willie Tran がカンファレンス等で説明した内容の引用です。詳細は以下をご参照ください。(参照1参照2)

マーケティングやセールスチームの KPI はビジネスメトリックスですが、他社のツールを活用することは多くとも、自社の開発環境に手を加えることは (まだ) 多くありません。

従来のプロダクトチームの KPI は 必ずしも売上や利益に直結しないプロダクトメトリックス で、自社プロダクトのユーザーの (成功) 体験に最もフォーカスするべき存在。

Growth チームは双方の側面をもち、ソフトウェア開発を通じてビジネス課題に立ち向かう組織といえます。(ユーザー課題に立ち向かうプロダクトチームとの対比として。)

基本構成

Growth チームの最小単位はプロダクトマネージャー + ソフトウェアエンジニアです。

創業初期は創業者がプロダクトマネージャーを兼務することがほとんど。事業ステージに応じて組織は必然的に大きくなり、その後各社各事業のボトルネックや成長レバー次第で、データサイエンティスト、UI/UXデザイナー、リサーチャーなどを招き入れ、更にチームが大きくなって行きます。


以下は一つの例ですが、どんなサイズになったとしても、プロダクトマネージャーとエンジニアが主体のチームであることは変わりません。

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初期からマーケティングサイドと密接に働くケースはかなり多いですし、もっと前のステージからデータサイエンティストを取り込んでいるチームもあるかと思います。事業の成長レバーを何に見出すか次第で、リソースのバランスは大きく変わります

数多ある課題と機会の中で、何に賭けるのか

前述したように、Growth は事業の成長に関わることならほぼ全てが守備範囲。

守備範囲が広すぎるために、数多ある課題と機会の事業インパクトの大きさを正確に見積もり、ボトルネックを見つけ出だし、課題のスコーピングし、徹底的な優先順位づけをすることで今時点で取りかかるべき課題を絞り込んでいきます。

その上で、課題に対する仮説と解決策、インパクトをいくつも検討し、またまた優先順位づけをして、検証するための実験を行っていきます。

いろいろな要素を削ぎ落としたシンプルなダイアグラムは以下のようなイメージです。

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使える限りのリソース (時間、労力、コスト) で最大の事業インパクトを実現するには、赤いエリアにリソースを割く余裕は一切ありません。

なぜなら、徹底的にスコーピングして優先順位をつけて実験を行っても、8〜9割は実験結果が赤か黄色に着地してしまうのが現実だからです。

だからこそ PMF が見えていない段階では、全てのリソースを高インパクトを生むであろう取り組みに寄せないと、何も事業の進展なしに資金だけが減っていく状態になってしまいます。

一方で既に Growth サイクル が回り始めたエリアなら、地道な積み上げも事業を前に進ませる重要な材料になります。

(Growth サイクルについては、グロースの本質を参照ください)

この判断を毎日のように行い、新しい学びを得て、事業を前進させる責任を担うのが Growth Product Manager です。

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Growth チームは事業のボトルネックを特定し、事業成長の種を見つけ出すための専門組織ともいえるかもしれません。リサーチからエクセキューションまで一気通貫で全て行うインハウスの戦略コンサルって表現もあながち間違っていなさそうです。

役割: PMF 前

「 PMF 前のグロースは非生産的だ」、「 PMF 前にGrowth チームは必要ない」とよく言われます。でもこの意見は 低インパクト、低リソース施策の高速の積み重ねという、Growth チームの責任範囲のごく一部を切り取って捉えているからだと思います。

私は PMF に到達する上で、Growth チームは非常に重要な役割があると思っています。それは、マーケットを理解し、課題をあぶり出し、徹底的な優先順位づけをすることです。まさに先程書いた内容そのままですね。

PMF 前は、全てのリソースを高インパクトの取り組みに向けなければいけません。圧倒的に足りないリソース下で、PMF とPCF に関連する5つの仮説を全て検証する必要があるからです。(詳しくは以前の投稿: PMF前の最優先事項 を参照) 

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そのためには市場の声に耳を傾け、市場が求めていることを特定し、市場のサイズを見積もり、優先順位付けをし、高インパクトを生み出す解決策を洗い出し、プロダクトに落とし込み実験すること、購買導線で実験すること、マーケティングチャネルで実験すること。そこから常に何かを学び取ること。それぞれの方向性と重みづけの舵取りをするのが、PMF 前の Growth チームの役割だと思っています。

市場の声に真摯に向き合い、数多のシグナルから高インパクトな可能性の高い取り組みを洗い出し、市場の Job-To-Be-Done を見つけ出すことは、Growth チームの専門領域です。低インパクト、低エフォートの積み重ねだけではありません。
(Job-To-Be-Done についてはジョブ理論を参照)

役割: PMF 後

PMF 後の Growth チームは、事業の拡大をするために必要なことは何でもします。事業のボトルネックを取りのぞくこと、2つめ以降の有効なチャネルを見つけ出すこと、出来上がった Growth サイクルをもっと大規模に、もっと早く回せるようにすること。(詳しくはGrowth の本質PCFの記事を読んでください)

ほとんどの場合、このステージでの事業の一番のボトルネックは、ソフトウェアエンジニアが圧倒的に足りないことなんです。新規獲得の規模でもプロダクトのリテンションでもありません。

エンジニアがいなければ、市場に求められているプロダクトを作ることができません。しかしながら、あなたの会社の名前なんてまだ誰も聞いたこともないに等しいし、外野から見たら到底魅力的なスタートアップには見えないし、採用チームだって無いに等しい状態。

そんななかで Growth チームは優秀なエンジニアを採用するために動き、優秀な採用チームを作るために動き、優秀なプロダクトマネージャー、マーケティングマネージャーを採用するために動き、まだ存在していない組織の役割を補完していくことになります。もちろん、上記の優先順位づけのプロセスをもとに、取り掛かるべき課題を絞り込んだうえで。

本来の責任であるビジネスの成長に関しては、見いだした成長レバーを軸にチームを編成、増強し(Pod)、担当のGrowth PMがさらに最適化を図っていきます。同時に次の成長の芽を見つけ出すための別の Pod を作ることも欠かせません。

このようにして、とある分野に特化した Pod が Growth  チームの中に生まれていきます。

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そして前よりも少し大きくなったチームの Pods それぞれが優先順位づけのプロセスにのっとり、事業に大きなインパクトをもたらす成長機会を積み上げていくのです。あとはこのチームで Chasm を超えられるかにかかっています。

役割: スケール期

このステージになると、Google や Amazon, Netflix のような完成された Growth チームの風貌を帯びてきます。

しかしながら、組織構成やGrowth の役割は企業によって千差万別です。それは各社がここにたどり着くまでに見いだした事業の成長レバーとチャネル、それぞれのGrowth サイクルが全く異なるからです。

Growth チームの構成は、これまでどんな取り組みが事業に大きなインパクトをもたらしたのかという、成長過程で決まっていくものだからです。

会社にはもう盤石な採用チーム、プロダクトチーム、エンジニア、データサイエンティスト、セールスが、存在しています。Growth チームもGrowth PM 30人、エンジニア 100人もしくはそれ以上のプロダクトチームと並ぶ一大エンジニア組織になっています。

Growth チームはボトルネックを取り除く何でも屋から、大小の成長レバーをそれぞれ数人の Growth PM が受けもって Growth サイクルをひたすら回し、拡大と最適化を続ける組織の色が強くなっていきます。

例えばアマゾンだったら商品ページの金額表示の仕方だけに特化したチームが、Netflix なら解約ページだけに特化したチームがいるはずです。

どれだけ多くのレバーを見つけられるか、どれだけ早く実験が回せるか。どれだけ複利の成長を見出すことができるか、それが Escape velocity を維持し続けるための Growth チームの役割となります。

終わりに

私は幸いにも今の会社で上記のステージをそれぞれ経験できましたが、どのステージにおいても KPI 設計、ゴール設定、マイルストーン設定、優先順位付けの大事さを肌で感じています。

それぞれがしっかりできるようにならないと、次の一手を決める取捨選択ができないんです。なので目標と「やらないこと」を定めましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございます。本当にお疲れさまでした!!良い記事だと思ったら、Twitterでシェアいただけたら嬉しいです。正しい Growth の概念が広まっていきますように。Twitter でも内容の濃くクオリティ高めのものを投稿しますので フォローしてみてください。(Twitter: @kossmori )

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