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CIID Week3: 自然を電気回路で表現せよ - Nature Hacking -

CIIDのWeek3は”Material of Electronics”になります。Interaction Designerとして実際にモノを作って演じてみることが非常に重要なのですが、そのモノづくりに欠かせない要素が電子回路です。実際にHigh Fidelityのモノを作るにあたって、スイッチON/OFFができる、何かに反応してモノが光るといった要素は欠かせないと思います。

そんな”Material of Electronics”のコース内容を時系列順にポイントを交えながら、まとめてみましたので、ぜひご一読ください。

"Material of Electronics"の全体構成

電子回路を作るといっても、誰もが電子回路の知識や関連する物づくりの経験を有しているわけではありません。CIIDの学生の中には、元々電気工学を専攻していた学生もいましたが、9割ほどは未経験でした。それでも最終日には全員が何かしらを形にすることができていたので、学びがいのあるクラスだったのだと思っています。

全体の流れとしては、CIIDの哲学である"Learning by Doing"という"習うより慣れろ"の要素を盛り込んでおり、座学の場面はほとんどありません。最初の3日で簡単なレクチャー→実践を繰り返し、最後の2日間で集大成としてグループでプロジェクトを実施します。具体的には...以下のような構成です。

- Day1: スイッチのある電気回路の作成 (Mini Project)
- Day2: LED回路の作成 (Mini Project)
- Day3: センサー付き回路の作成 (Mini Project)
- Day4: Final Project - Nature Hacking - 
- Day5: Presentation

この記事では、最初の3日間のポイントをかいつまんで紹介しつつ、重要なFinal Projectの内容とそこから得られた学びを記したいと思います。

Day1-3: 電気回路の学習とミニプロジェクト

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最初の3日間は、ミニレクチャーとミニプロジェクトを何度も繰り返すのですが、これをジャングルを散策しながら行うので、とんでもない開放感の中で電気回路を作成するという、なかなかに稀有な体験です。

学習レベルとしては、日本の中学や高校で勉強する電気回路の仕組み程度です。とはいっても日本で学ぶような図を見て、電圧や電流を計算するのではなく、実際に回路を組み立ててモノを作るプロセスになります。

まずは電気回路を構成する部品を学びますが、どれも基本的なことばかりです。IC(Integrated Circuit)、Resistor、Capacitor、Trangisterの形状やその仕組みを学んで実際のモノを創る準備をします。ちなみに日本人学生なら誰でも持ち合わせているような知識を、外人学生は持ち合わせていないようでした。日本の教育レベルもなめたものではありません。

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電気回路の基本を理解した後は、実際に”Breadboard”という電気回路の実験や試作をするための基板を用いて、LEDを点灯させるための回路を作成します。ここでは計算の簡略化のために、下図のような最も基本的な回路を用いています。

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高校の物理を覚えている方であれば、何となく見覚えのある回路と思います。日本の高校では、この回路に流れる電流の大きさやある電流が流れている時の抵抗の大きさを計算する問題を解くだけと思いますが、このクラスでは、計算しながら実際に電気回路を組み立てます。

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基本的なことですが、まずは目的に応じて作成したい電子回路の全体像を描きます。ここで、目的とは「1つのLEDを点灯させる」なので、全体像としては単純な「直列回路」を描いています。描いた回路に応じて、バッテリーの電圧、LEDの順方向電圧などをMultimeter(下図)を用いて実測します。Multimeterも中学や高校で馴染みのある機械と思います。

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(こちらの写真ではバッテリーの電圧の大きさを計算)

最後に実測した値に基づいて必要な抵抗の大きさを計算し、実際に回路を組み立てて終了です。その他同様の作業を積み上げて作成した電気回路が下の写真です。動画を見ると分かりやすいのですが、この電気回路は風速の強弱に応じてLEDの光が切り替わるというものです。

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Day4-5: Final Project - 自然を電気回路で表現せよ

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“Material of Electronics”の最後のプロジェクトとして、「自然界に感じた疑問を電気回路で表現せよ」というものがあります。自分たちが今、ジャングルに滞在していることを最大限に利用したプロジェクトです。例えば、「セミと人間はコミュニケーションできるのか」「どの花が昆虫の中で一番人気なのか」といった問いになります。

自分たちのグループでは、まずインスピレーションを感じようということで、ジャングルの中を1時間程度散策することにしました。自分は今まで自然という環境にそこまで興味を覚えていなかったのですが、いざこうした課題に直面すると、色々な疑問が浮かび上がってくるもので、1時間で大量の疑問が出てきました。ちなみにグループ3人で考えた疑問の量を表した写真がこちらです。

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次にこの最初のブレインストーミングに基づいて、チームとして集中する問いを決定します。やはりここでもメンバーが「どの問いが気になるか・好きか」が重要なので、完全に合意するまで時間をかけて議論しました。

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議論の結果、グループメンバ全員に共通していたのは、「太陽光や風量といった自然環境要素の相互作用の影響」と「植物の成長」という概念で、そこから自分たちのテーマを以下のようにしました。

【グループメンバに共通していた命題】
What is the effect of sunlight and nature of conductivity between the same family plants regarding its growth?

また植物の成長に影響を与える自然環境要素は定量的に測定ができないものも多かったので、実現可能性の側面から、「太陽光の効果」「通電性の影響」を観測対象としました。またこの記事では、複雑性の問題から「太陽光の効果」測定に絞って紹介します。

次に「太陽光の効果」を測定するセンサーを作成し、実際に太陽光の効果を調査します。仕組みは"Photo Sensor"と呼ばれる、入射する光の強度が増加すると電気抵抗が低下する電子部品を利用して、太陽光の入射量に応じて、LEDの光の量が変化するようにしています。下記の上写真が太陽光を多く受けている結果、LEDが明るくなっている場合で、下写真が、センサーが影にある影響で、LEDの発光量が小さくなっている場合です。

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またLEDの発光量という曖昧な指標だけでなく、実際に植物が受けている電圧量という定量的な指標も導入したかったので、LEDの順方向電圧もMultimeterを使って測定しています。

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これらの仕組みを用いて得られた結果が下の表になります。1日という限られた時間だったので、あまり信憑性のあるデータではないのですが、植物の葉の部分が最も太陽光を獲得する部分であることを証明することができました。言われてみれば当たり前なのですが、このクラスで重要なのは、得られる示唆よりも、一から自分で仕組みを構築して実践することと認識していたので、目的には達しているかと考えています。

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学び1: ビジネスとデザインの命題設定の違い

グループワークをしているうちに気づいたのですが、これまでのクラスでも到底自分だけでは、このようなユニークな問いを言語化できなかったであろうということです。メンバの主体性を重じて向かうべき問いを作るデザインでは、当然出てくる命題も(個人の価値観を重んじるので)ユニークになりますし、そこでは多様性やチームワークが非常に重要になります。

実際他のグループでは、以下のようなユニークな命題を解決しようと、徹夜している学生も存在しました。

例1: 電気回路を用いてセミとコミュニケーションをとることができるのか
例2: 植物の中で最も昆虫に人気のある植物は何か
例3: アリの生存を助けるために人間は電気回路を用いて何ができるのか

一方で外部環境や競合環境から命題を作るビジネスの世界では、命題は表層的/他人的(例: 全社でデジタル化を進めるためには?)になりがちで、なかなか人が「あっ」と思うような命題は出てこないのだと思います。最もこのような命題を解決するプロセスでは、論理的思考のような効率性を重視する思考法が重んじられるのが一般的で、そのレベルが一定に達していない人が議論に参加できないのも理解することができます。その結果、多様性は捨てられてしまいます。

例えば、「電気回路を用いてセミとコミュニケーションをとることができるのか」といった命題は、まず実現可能性の観点からも却下される可能性が非常に高く、例えグループメンバが考えていたところで、当然論理的に説明することは困難なので、ビジネスの世界では、あまり重んじられないのではないのでしょうか。

学び2: 日常の動作や概念を物理的に表現する術を知る 

Material of Electronicsにおける一番の学びは、電気回路における知識と経験を積んだことで、日常の動作や概念を表すイメージをつけることができたことです。例えば今回であれば、太陽光の効果⇨Photo Sensorを活用した電気回路の作成とLEDの順方向電圧の測定が重要である、と気付けるようになったことが学びになります。

来週は、Week4: Video Prototypingの授業ですが、コスタリカでもコロナウイルスの感染が拡大しており、授業はオンライン経由になります。CIIDとして初めてのオンライン授業ですので、疑心暗鬼な部分もありますが、ブログは継続していきたいと思います。

町田

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