マガジンのカバー画像

短編小説

18
自作の短編小説
運営しているクリエイター

#お酒

母が魔女だった時

母が魔女だった時

 4歳ぐらいのある日、眠れずに部屋を出るとぼんやりとした灯りのみがぼうっと影を作る暗い部屋に母が一人佇んでいた。灯りをよくよく見ると、とても小さな炎だった。
「……」
母は無言だった。薬草のような香りが匂いが立ち込めていた。やがて炎が消えると、その炎を支えていた器を口に運んだ。
「魔女の嗜みってやつよ」
保育園で読んだ絵本の中の魔女を鮮明に思い出した。全身を覆う黒い服を着て、派手な装飾品を身につけ

もっとみる
法事の後

法事の後

 長年、仕事終わりに冷えたビールを飲むのが生き甲斐のようなものだった。
 グラスを掴もうとした手が空を切る。客は皆帰り、目の前に今や誰のものでもないビールや寿司が並んでいるのに、俺はただただそれを眺めることしかできない。仏前の小さな茶碗には少量の米が盛られ、そしてこれまた小さな湯呑みには水が入っている。俺が口をつけることができるのはこれだけだ。酒と寿司を供える文化だったら良かったのにとため息をつく

もっとみる
深酒は控えようと思った

深酒は控えようと思った

 空きっ腹にウィスキーを流し込むと、まず脳が痺れていくのを感じる。そして顔、身体とその範囲は広がっていき、まるで他人のように身体の制御が出来なくなる。この感覚が好きで酒を飲んでいると言っても過言ではない。やがて酔いが回り始めると、今度は睡魔が襲ってくる。それはまるでそよ風のように瞼を撫でて、私を心地よい眠りへと誘っていく。そしていつものように、そのまま意識を失うように眠りについた。……はずだったの

もっとみる