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今夜はインドカレー(レシピ付き)

月天流インドカレー 紅ショウガ付き

 大きなサングラスをかけた月天がキッチンで玉ねぎを切っている。今からカレーを作るのだ。
(サングラスじゃやっぱだめ。ママがゴーグルって言ってたっけ。)
 目尻に溜まった涙を首にかけた手ぬぐいで拭った。あとからあとから溢れて来る涙で玉ねぎも包丁も白くかすんで見えないが、月天は切り続けた。

 クロウサオフィス(現「桃うさオフィス」)から独立して半年が過ぎた。モデルとしてお仕事が出来なくなるかもしれないと心配したけど、社長のクロウサさん(現「桃うさ」)の「うちにこだわるよりいろんな人と仕事した方が活躍できるよ」という言葉どおり、表紙の仕事がいくつか舞い込んだ。でもやっぱりと言うか、すぐに表紙の仕事は星うさsanにとられちゃって。

 星うさsanはクロウサさん(現「桃うさ」)の昔からの知り合いで、クロウサさんが事務所を設立した時から看板モデルとして活躍している大先輩のモデルさんだ。クロウサさんは口癖のように「星うさchanのおかげでやってこれた」と言う。二人三脚で頑張って来られたのだけど、今年の初めにメイク雑誌が好調なことから幸運にも新人の私がメイクモデルに抜擢された。いつか表紙もと夢見て頑張っていたのだけど、「表紙は譲らない」と言う星うさsanの強い意志に阻まれて夢は叶わないまま事務所を去ることになった。

 フリーになってぽつりぽつりと来る表紙のお仕事をしながらくすぶっていたら、ラッキーなことにヨガマガジンのメインモデルに抜擢されたのだ。それはクロウサさんの始めた幸年吉日サークルの雑誌で、「脱いでほしい」と言われて面食らった。返事は保留させてもらって実家に電話をかけたら、こんな時にかぎってパパが出た。ママの携帯にかければよかったと後悔するほど「なんだ、どうした。なにかあったのか?」としつこく訊いて来た。事務所を辞めたことをまだ心配しているようだったから「今度新しいお仕事をすることになったの。メインモデルよ。」とつい言ってしまった。そしたら「そうかよかったな。頑張りなさい。」と安堵と喜びの交じったパパの優しい声を聞いたら「でも三角ワンピースを脱がなきゃいけないの」と弱音を吐いちゃって。「ヨガなんだろ。お仕事をもらえることに感謝して頑張りなさい。」と叱咤激励されてしまった。ママには「本当にポーズをとるだけなの?変なことをされそうになったら逃げるのよ。仕事がなくなったって構わないじゃない。別のことをすればいいんだから。」と言われて「クロウサさんが変なことさせるわけないじゃない。やめてよママ。」と強気を取り繕って笑い飛ばした。
 撮影当日まで不安はあったけど、心配した自分を笑っちゃうほど最高の結果が出た。(その模様はこちらの記事です↓)

 やっと私にも「かわいい」という読者からのコメントをいただけるようになったのだ。「かわいい」は星うさsanの代名詞なのにヨガマガジンでなら私も「かわいい」になれる。もっともっと頑張ろうと自信が出て来ていたところに「筋肉祭り」のお仕事が来た。

 「筋肉祭り」は幸年吉日サークル主催のお祭りだ。ヨガのお仕事をもらえたのは前回開催されたお祭り「更年期宣言杯」の開幕式で自分をアピールしたからだと思っている。古株の星うさsanはもちろん同期入所のハートキャットもいる開幕式でなんとか目立たなきゃと頑張った。(その模様はこちらの記事です↓)

 その頑張りを認めてくれたからクロウサさんは私にヨガモデルとして声をかけてくれたはず。今回のお祭りでもテーマソングのMusic Videoはもちろん短歌も詠ませていただけることになっていたから気合いを入れて臨んだのだけど、厳しい現実に目をむいた。
 なんと開幕式の表紙がサークルのメインモデルであるhaloさんではなかったのだ。白いウサギのうさまろさんだったのだ。
「またウサギ…」
 その可愛さに自分の普通さにガッカリしてしまった。
 (その模様はこちらの記事です↓)

 幸年吉日サークルでは星うさsanはお仕事をされていない。サークルのヨガマガジンで活躍する私はサークルでは星うさsanよりも格上。短歌も星うさsanのあとに詠ませていただけた。だから星うさsanにへらへらしないようにしていたら、いつも私には無表情だった星うさsanがハートの口で笑いかけて来たのだ。事務所を辞める時に「がんばりなよ」とウサギ柄の手ぬぐいをくれた時みたいにびくっとしてしまったが、あれは余裕の笑顔。今準備中の大きなプロジェクトに星うさsanが大抜擢されているんだそうだ。

 まだまだの自分を思い知らされてしまった開幕式だったけど、もっと頑張らなきゃと逆に奮起できた。夜自分でヨガを練習するようになったのだ。そして料理も始めた。
 クロウサさんから痩せすぎないようにと注意を受けたのだ。更年期らしいくびれのない体型が理想だと言われたから、毎日お腹いっぱい食べるように心掛けている。そんなんだから食費がかさむようになって自炊するようになった。

 そして昨日また新たな情報を耳にした。クロウサさんの別の新しい企画にまたしても星うさsanが採用されたと言うのだ。クロウサさんと星うさsanの仲や、星うさsanの実績を考えれば当然のことなのだけど、やっぱり凹んだ。ママに電話したら、

「クロウサさんは『これは星うさchanにはムリなの。月天chanにしかできないのよ』ってメイクとヨガに起用してくれたんでしょ。またあんたにしかできないことに使ってくれるわよ。今あるお仕事を頑張んなさい。」

と鼓舞されたけど、私にしかできないことって何なのかがわからない。

 メイク雑誌は休刊中だし、新しいことはぜんぶ星うさsanだし、新しいウサギも出て来たし。

 ため息ばかりが出て頭が痛くなる。

 どうにか気分をあげようと思って、今夜はインドカレーを作ることにした。スパイシーなカレーを食べて刺激をいっぱい感じれば、今の状況を楽しめるようになるかもしれない。

 レシピは簡単。

【材料】
玉ねぎ 1個
人参 1本
じゃが芋 2個
辛口インドカレーのルウ(創健社) 1箱
水 650ml

【作り方】
①玉ねぎを縦に薄く切って30分放置する。(←クロウサさんの小説「結婚したい女たち」から知った玉ねぎの下ごしらえの仕方)
②人参とじゃが芋は一口大の乱切りにする。
③切った玉ねぎ、人参、じゃが芋、水を鍋に入れて蓋をして15分茹でる。
④人参とじゃが芋が柔らかくなっているのを確認したら、砕いたルーと付属の香辛料を入れて弱火で10分煮て完成。

月天流インドカレー

 ぐつぐつと沸き立つカレーを焦げないようにかき回す月天の涙は止まった。36種類のスパイスの香りが月天の憂鬱な心に「がんばれ!がんばれ!」と発破をかけるように充満している。

(今はヨガに集中して力を尽くせばいいや。筋肉祭りのヨガレッスンに申し込もう!)

 月天を悩ます余計な思いは消えた。星うさからもらって大切に使っている手ぬぐいをきゅっと縛り直すと、口角が上がってハートの口になった。これは星うさのようにかわいく笑えるようになりたいと真似して身に付けた笑い方だ。 

「今日もいっぱい食べよ。」

月天流インドカレー 紅ショウガ付き



 幸年吉日サークルでは料理マガジンもしています。筋肉祭りのイチオシ記事、体を作るダイエットレシピ「筋肉めし」はこちら。↓

 


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