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ドイツの森 に 潜むもの

ドイツ民族を言い表す言葉の一つに「森」があります。森には神々や精霊が住んでいるというゲルマンの民俗信仰や、長い狩猟の文化に根差す深い愛着を森に対して抱いています。
今でも森や自然の中を散歩するずんずん歩くことが好きな人が多く、時に日本人にとっては散歩気晴らしの域を超えた試練の道に導いてくれる人もいます。

ドイツ人と話をしていて好きな色の話題になった時、結構な割合でグリューンと言ってくると思います。こちらがそれに合わせると、うんうん、そうだろう。緑のものは何でも良い。とか言って勝手に色々納得してくれるでしょう。 多分…

森には様々な顔があり、リラクゼーションや癒し、自然に満ちた素晴らしい世界…ばかりとは限りません。森は常に安全が確保されている場所というわけではなく、アウトローと呼ばれるような人たちが集まるところでもあるのです。

古くから、森の中には盗賊や犯罪者も潜んでいました。ウィリアム・テルのような義賊から、シラーの群盗に出てくるような盗賊団、他にも様々な盗賊の物語が残されています。
森に潜む犯罪は、決して昔話に留まらず、戦時や経済危機の頃には、政治的抵抗運動の拠点や、犯罪組織の隠れ家なども置かれていたそうです。
東西が分断されていた頃、境界線の森は特に危険な場所となっていましたが、90年代という比較的新しい時代においても南ハルツ地方の森で連続殺人事件が起きています。
ヨーロッパでは比較的大きな森林地帯で歴史的な殺人鬼の出現したことのない場所はないくらいだそうです…

一方、童話の世界では、森は人生を変えることのできる特別な場所として描かれています。
貧しい子供(ヘンゼルとグレーテル)や老いた動物(ブレーメンの音楽隊)といった社会的弱者や、不幸に見舞われた王族(白雪姫やカエルの王様)がそれぞれの理由で偶然にも森に入り込み、これまでの不遇を跳ね除け人生を好転させるチャンスを手に入れます。
また、民話には森番、猟師、密猟者といった人物がよく悪役として出てくるそうです。古くから森を管理していた人たちが必ずしも善人とは限らず、森の恵みを取りに来た人々を搾取した歴史があるのでしょう。

森は、晩春か夏の日の出の頃早朝、小鳥のさえずりが聞こえる森が活き活きとしてい最も魅力的な時間と言われています。
日が高くなりお昼になってしまうと、完全な静寂が訪れ、その中では不安を覚えるのだそうです。

森であれ街であれ、人気のない場所は注意したほうが良いですが、昼の静けさに怖れを感じるというのは、人の領域を超えた何かが潜んでいるのかもしれません。

いつどこで読んだか覚えていないのですが、森での時間は子供の時代を表し、大人になったら森から出ていかなくてはならないそうです。
もちろんメタファーとしての意味ですが、人はいつまでも森の中でまどろんでいる訳にはいかないのでしょう。

そう言えば、子供の頃に読んだ大どろぼうホッツェンプロッツも森に潜んでいましたっけ…

大どろぼうホッツェンプロッツ

この本は3部作として知られていますが、作者であるプロイスラーの死後、娘が遺稿を見つけ、4作目が2018年に出版されたそうです。

Der Räuber Hotzenplotz und die Mondrakete
大どろぼうホッツェンプロッツと月ロケット(1作目と2作目の間のお話)

日本語にはなっていないようですが、気になった方は覗いてみてください。

プロイスラーの作品に「クラバート」という素敵な物語があるのですが、ジブリの「ハウルの動く城」で、なぜハウルがクラバートになって飛んでいるんだ…と驚愕。「千と千尋の神隠し」では千尋が両親を見分けるシーンにクラバートの最後のシーンが参考にされたとか… 良質な物語ファンタジーのエッセンスは常に受け継がれていくものなのですね。

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参考文献:
森のフォークロア ドイツ人の自然観と森林文化
アルブレヒト・レーマン著

グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統
森涼子 著

2022年2月19日 雨水

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