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2023年1月の記事一覧
【短編小説】1/31『並んで咲いた赤白黄色』
「どしたの? これ」
「ん? キレイだったから」
「えー、わー、ありがとー」
花瓶どこだっけー、と彼女が納戸を探る。帰宅してすぐに渡した花束を飾るため。
花貰っても嬉しくないって人がいるっての聞いたことあるけど、彼女は素直に喜んでくれるから贈り甲斐があるというか。
「あったあった」
テーブルに花束を置いて見つけた花瓶に水を注ぎ、花束のラッピングを解いて花瓶に……活けようとして、入らなくて苦戦
【短編小説】1/30『合理的求婚』
彼はいわゆる“ケチ”だ。
遠く離れて付き合う私たちの交流は、毎日無料でできる3分間の通話だけ。
彼曰く、アプリを使った無制限の無料通話は「なんか違う」のだそう。
彼の出向初日から始まった時間制限付きの電話は、彼が仕事の都合でこちらに戻ってくるまでの3年間、毎日続いた。
彼がこちらに戻ってきた日、久しぶりに会って一緒に食事をすることになった。彼にしては奮発してくれた、高級レストラン。私
【短編小説】1/29『数えるモノの尊さよ』
カチカチカチカチカチ……。
リズミカルに音が鳴る。
カチカチカチ……。
規則正しい音が心地よくて、ついウトウト……「あっ、また生まれた!」ハッとしてまたカウントを再開する。カチカチカチカチ。
「せんぱーい」
「なに」
「この仕事、なんかの役に立つんですかねー」
「なんだよ急に」
「だって、地球人毎秒増えてってるんですよ。こんなアナログな方法で数えてたらキリないですよ」
「終わりがないものな
【短編小説】1/28『life is a game』
『ちょっと聞いたんだけどさ』
宇宙軍の代表が翻訳機を通して話しかけてきた。
「はい」
『キミたち、地球上では正義と悪として対立してたの?』
「あー、まぁ、そうですね、前までは」
『いまは?』
「えー……」
僕たち地球軍の関係性に当てはまる上手い言葉が見つけられなくて口ごもっていたら、代表が笑った。
『いいよ、俺らアクなんでしょ? 地球の人たちから見たら』
「いや、悪ってわけではないですよ。僕ら
【短編小説】1/27『人生転舞』
そうだ! プロポーズをしよう!
そう思い立ってから僕はダンス教室に通い始めた。一時(いっとき)ブームになったフラッシュモブで彼女に気持ちを伝えるために。
習い始めてから三か月後、僕は彼女にプロポーズをした。踊りはしなかった。フラッシュモブは彼女の好みではなかったから。
しかし僕はいま、世界中の人の前で踊るために練習を続けている。たまたま教室に訪れたダンサーが、僕の才能を見出してスカウトして
【短編小説】1/26『画面から推しが出てきた日』
ん? なんだこのアイコン。なんか落としたっけ?
ありがちな導入。創作だったらここからファンタジーな世界とかに転移しちゃったりするんだろうなーってニヤニヤしながらタップしたら、タブレットの表示が渦を巻いて中心に集まり、ビュオッと風を起こして画面から出てきた。
『はぁーい! こんにちはー!』
「ちっ、チユぴょん……⁈」
『そうだよー☆ あなたのアイドル、チユぴょんでーす♪』
いまかなり課金してる
【短編小説】1/25『おててはつながないけれど』
ホントは一個全部食べ切れるんだけどね。太るとか恥ずかしいとか色々あるんだけどね。二人で半分こなのがなんか嬉しくて、一緒にいるときは胸がいっぱいで気にならないのに、一人になると少し足りなかったかも? って思うの。
そしたら彼が、たまには違う味も食べたいから、二種類買って半分ずつ食べない? って。
その気遣いが嬉しくて、また一緒の時間を過ごせるのも嬉しくて、照れながらうなずいた。
コンビニの
【短編小説】1/24『一度は見る夢』
園芸が趣味の母の横で、スコップ片手に必死に集めていたものがある。
金(きん)だ。
小瓶に入れて集め、眺めてはニヤニヤしていたそれが、ただの肥料だと知ったのは二十歳を超えてから。
もっと早く教えてよって母に言ったら、だって可愛かったんだもん、って笑ってスルーされた。“可愛い”で済ませられるのは本人以外だけで、本人である私はかなり恥ずかしかった。その辺、もうちょっと考えて子育てしてほしかった。
【短編小説】1/23『帽子の奥のその世界』
掛け声とともにステッキでシルクハットを叩く。
「ワン、ツー、スリー!」
コン。
ここで鳩が出てくる……はずだった。
えっ、なにこれ。
出てきたのは小さい翼が生えた……ドラゴン?
よくゲームなんかで見かける、お腹がぷっくりで身体がうろこに覆われている。でもサイズは小さくて、それこそチワワより小さい。
客は驚きのあまり声も出せずにそのドラゴン(?)を見ている。
それはオレも一緒。
静
【短編小説】1/22『【つらい】と【からい】は同じ文字』
「いっただっきまーす」
手を合わせるとカシャッと音がした。鼻には好ましいスパイスの香り。
現地の人に倣って左手を使ってみる。うーん、美味しい。
ホントは素手がいいんだろうけど、ちょっと抵抗があって食品対応のビニール手袋をはめてカレーを食べる。ストレスたまったときにやるとキモチいいやつ。前世、インドあたりで暮らしてたのかな。それとも野生時代の名残かな。
なんにせよストレスたまってるってことだ
【短編小説】1/21『正義と悪の協奏曲』
宇宙人が来た。別に戦争をしに来たわけじゃなくて、ただ勝負がしたいと言う。近隣の星々には連戦連勝し、残すは地球だけなのだとか。
突然の訪問に驚いたのは国民だけじゃない。各国の首脳や政治家は対応に大わらわだ。
とにかく事を荒立てたくない首相、いっそ国を挙げて戦おうという首相、友好条約を交わして地球に有利な知識や資源を賜ろうという首相――各国の様々な思惑を余所に、宇宙人が指名したのは僕が住んでいる
【短編小説】1/20『リムジンより愛をこめて』
突然目の前に停まった一台の、やけに長い車体。確かリムジンとかいうやつだ。
広い道を走ってる分には見栄えるけど、こんな狭い道だと邪魔だな。
少し眉間にしわを寄せ、壁と車体の隙間をすり抜けて歩く。
こんな狭い道、ドアだって開かないじゃんね。って横目に見てたら、車体の途中にあるドアが開いた。
おいおい、そこ開けたら私通れねぇじゃん。
はぁ。息を吐いて、吸う。苦手なんだけど、言わないと帰れない
【短編小説】1/19『コア・ステージの歌姫』
ワタシが歌えば世界は動く。でもそれを知っているヒトはいない。
ワタシはこの星の中心で歌う歌うたい。
星が怒ればなだめるように、星が落ち込めば励ますように。
いつからそうしていたかは覚えていない。気づいたらここにいて、気づいたら歌っていた。
星の感情は周囲の温度でわかる。ヒトの体温のようなもの、だろうか。
知識として知っているけど、実際にどんなものかはわからない。
ワタシいつまでここで
【短編小説】1/18『踊る座敷童子』
内見の日、不動産屋さんと一緒に部屋にあがった。
「こちら、“幸運の部屋"と言われる物件でして、住まわれた方がそれはもう大成功なされて、更に上ランクな物件に転居なされると不動産業界では有名なんですよ〜」
でしょうねぇ、と思うけど、言わない。
だってきっと、不動産屋さんには見えてない。部屋の真ん中で楽しげに踊る、座敷童子の姿が。
「いかがでしょうか」
「ここにします」
「ありがとうございます!