【短編小説】1/25『おててはつながないけれど』
ホントは一個全部食べ切れるんだけどね。太るとか恥ずかしいとか色々あるんだけどね。二人で半分こなのがなんか嬉しくて、一緒にいるときは胸がいっぱいで気にならないのに、一人になると少し足りなかったかも? って思うの。
そしたら彼が、たまには違う味も食べたいから、二種類買って半分ずつ食べない? って。
その気遣いが嬉しくて、また一緒の時間を過ごせるのも嬉しくて、照れながらうなずいた。
コンビニのレジの横、透明のボックスに並ぶふわふわの中華まん。その中から私と彼が食べたいものを指さすことにした。せーの。
そしたら二人の指は同じ味を指して、驚いて顔を見合わせて、そして笑った。
レジに立つ店員さんは呆れたような感じだったけど、私にはその時間が宝物のように思えた。
結局やっぱり一個を半分こして、コンビニ前の駐車場で食べる。
「……足らない?」
「んー、ちょっと? でもまぁ……」
私の質問に彼は少し考えて、
「腹がふくれるかどうかが問題じゃないから」
少し照れたように言った。
夕暮れの空気に溶けたその言葉は、私の心に刺さって抜けない。
「……わかる」
もっとたくさん、頭の中には言葉が回ってたのに、その三文字を言うので精一杯だった。
もうずっと、冬だったらいいのにって思いながら、薄暗い空に流れる5時のチャイムを二人並んで聞いた。
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