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【短編小説】1/22『【つらい】と【からい】は同じ文字』

「いっただっきまーす」
 手を合わせるとカシャッと音がした。鼻には好ましいスパイスの香り。
 現地の人に倣って左手を使ってみる。うーん、美味しい。
 ホントは素手がいいんだろうけど、ちょっと抵抗があって食品対応のビニール手袋をはめてカレーを食べる。ストレスたまったときにやるとキモチいいやつ。前世、インドあたりで暮らしてたのかな。それとも野生時代の名残かな。
 なんにせよストレスたまってるってことだな。
 一人暮らしだからできる技。いや、こういうの一緒にやってくれる人を探すべきか?
 そう考えたら涙がこぼれてきた。でもカレーライスは美味しくて、そう感じてるなら大丈夫。

 傍らに置かれた携帯電話。その中にある消せない連絡先。
 フォローしたままのSNSで知った、あの人の結婚。

 紙一枚の契約。いつか別れるかもしれないけど、二人があの頃みたいに戻れる日はきっと来ない。
 わかっているのに涙は止まらない。

 カレーライスは少ししょっぱくなって、でもこの味もじきに忘れて、また誰かが隣にいる日がきっと来る。
 今日は未来への通過点。
 いまつらくてもこの先に大きな幸せが待っているかもしれない。だからちゃんとご飯を食べる。
 明日も、そのまた明日も生きるために。
 いつもと違う食べ方すると、少し味が違って感じて面白いね、って笑い合える人に出会えるかなって期待しながら。

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