【短編小説】1/24『一度は見る夢』
園芸が趣味の母の横で、スコップ片手に必死に集めていたものがある。
金(きん)だ。
小瓶に入れて集め、眺めてはニヤニヤしていたそれが、ただの肥料だと知ったのは二十歳を超えてから。
もっと早く教えてよって母に言ったら、だって可愛かったんだもん、って笑ってスルーされた。“可愛い”で済ませられるのは本人以外だけで、本人である私はかなり恥ずかしかった。その辺、もうちょっと考えて子育てしてほしかった。
って思ってたんだけど、いざ我が子が出来てみると、なんだかその意見もわかる気がする。
園芸が趣味になった私の横で、我が子が土を漁っている。見覚えのある光景。言おうか言うまいか。
大人になってから言うより、いまのうちのがダメージ少ないか。周りに吹聴する前に教えてあげようか。でもあと少しだけ、微笑ましく見ていたいな……。なんて思ってズルズル言えないままでいる。
もしかしてお母さんもそういう気持ちだった? って聞いたら、母が笑って頷いた。
「それにね」
母は恥ずかしそうに切り出した。
「私もあなたと同じことしてたから、親子って似るんだなって思って」
母が笑う。
私は少し驚いて、そして笑った。
「孫にも受け継がれてるよ」
「もしかしたらおばあちゃんもだったかもね」
我が子は私の実家の庭でも土を漁っている。
「でもそろそろ教えてあげるべきかもね」
「お母さんはなんで知ったの?」
「ホームセンターで自分で買うようになってから」
「それってけっこう大人では」
「そぉよぉ。でも引っ越ししたときどこかに失くしちゃったから、損したわけじゃなかったんだーってホッとしたの」
「……そういえば私が集めてたのもどっか行った」
「あれは私が土に還したわよ」
「そうなの? お母さんはいっつもそうやって勝手にさぁ」
「おっと、退散退散」
母は言って立ち上がり、庭で土を掘る孫のそばへ行った。
イラつくけど仕方ない、それがうちの母だ。
さて、いつお知らせしてあげようかなー、と思いつつ、私も我が子の近くへ行った。
母はいつか見たような笑顔で孫を見つめている。私もいつかああいう風に孫を見つめる日が来るのかなぁって思いながら伸びをした。
平和ってサイコーだ。
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