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【短編小説】1/29『数えるモノの尊さよ』

 カチカチカチカチカチ……。
 リズミカルに音が鳴る。
 カチカチカチ……。
 規則正しい音が心地よくて、ついウトウト……「あっ、また生まれた!」ハッとしてまたカウントを再開する。カチカチカチカチ。
「せんぱーい」
「なに」
「この仕事、なんかの役に立つんですかねー」
「なんだよ急に」
「だって、地球人毎秒増えてってるんですよ。こんなアナログな方法で数えてたらキリないですよ」
「終わりがないものなんてこの世にはないよ」
「僕らの“この世”と地球人の“この世”って一緒なんスか?」
「わからん。でもこれが俺らの仕事だろ」
「いやー……そうですけどー……」
 特殊なスコープから見える青い星。自分の担当地区を確認して人口の増減数をカウントする。それが僕らの仕事。
「だいたいうちの星の技術なら自動で数えるくらいできるでしょうに……」
「それじゃ意味ないって。その地域の生き物の生態とかも見なきゃなんだから」
「そうは言っても、増減カウントするだけでいっぱいいっぱいですよ」
「お前の担当地域、新人向けなんだけどな」
「これで⁈ マジすか。ちょっと俺、もっといい方法ないかも考えていいすか?」
「おー、もちろん。いい案あったら本部に提案しよう」

 そうして僕は、カウンターを押しつつ考え始めた。
 いっそもう、地球の人に聞いてみたらいいんじゃないのかと。
 地球に潜入して調査できないかと提案してみたら、特別に出張の許可が下りた。
 地球人に擬態して潜入してビックリ。
 地域毎はもちろん地球全体の人口がリアルタイムで手軽に確認できるじゃないか!
 そのことを上司に報告したら、上司も地球にそこまでの技術があることを知らなかったようで、かなり驚かれた。
 地球には定期的に特派員を送ることにして、いまから思えばなんともアナログな【人口数調査】は廃止になった。
 カウンターの僕らには別の仕事があてがわれた。

「せんぱーい」
「なに」
「結局やってること変わんないんですけどー」
「そうだなぁ」
 僕らは人間の代わりに、住居の総数をカウントすることになった。
「結局、上司のお堅い頭は変えづらいってことだよなぁ」
「もー、なんなんすかね、あのおっさんたちの固定概念は」
「なーんも考えてないんだろ」
「もういっそ、転職しようかなー」
「いいな。いいとこあったら俺にも紹介してよ」
「はい」
 笑いながら頷いたその翌日、僕は地球に赴いた。僕の星では考えられないほどの求人数。僕はその中からひとつの職業を選んだ。

「おー、同じ内容でもぜーんぜん違うなぁ!」
「ね。数える対象が違うだけで、かなり楽しさ増しますよね」
 僕と先輩はいま、地球で野鳥の個体数を調査する仕事をしている。
 派遣された地域で野鳥を観測し、住む環境を整え、報告書や企画書なんかを作成する。
 人間よりも少ない個体の観測は容易で、しかし自然保護に協力ができているという充実感を味わえる、最高の仕事だ。
 手に持つ道具は同じでも、仕事の中身が違うだけでこんなにやり甲斐が違うだなんて!
「地球に来てよかったよ。誘ってくれてありがとな」
「とんでもない! 先輩が一緒にいてくれて、とても心強いです」
 僕らはニコニコしながら池の周りを確認しながら、今日もカウンターと双眼鏡を手に野鳥を観測する。
 その僕らのことを、あの星で誰かが見ているのかなぁ、なんとか変えられないかなぁと考えながら。

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