マガジンのカバー画像

小説 桜ノ宮

33
大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
運営しているクリエイター

#帝塚山

小説 桜ノ宮 ⑰

小説 桜ノ宮 ⑰

可南からの電話を切った後、広季は唸った。
「ああ。腹立つわー」
タンクトップとトランクス姿で地団駄を踏むごとに腹と胸が揺れている。
「どないしたんや」
ソファ越しにスリムが訊いた。
「あのなあ、あ、せや、あの人に連絡しよう」

広季は紗雪に電話した。

「あ、市川さん。芦田ですー。どうもお世話になります」
「ああ、お世話になりますー」

「市川さん、早速探偵の仕事やってほしいんですわ」
さっきまで

もっとみる

小説 桜ノ宮 ⑲

可南の誘導により、紗雪は美里の実家へと向かった。
広季は公園で待機している。
いきなり会ったばかりの子どもとふたりきりになって不安だったが、可南が明るい子だったので紗雪はほっとしていた。
「探偵さんは、友達おる?」
「あー、いるっちゃあいるけど、最近会ってないなあ」
「じゃあ、彼氏は?」
「うーん」
修とよりを戻したわけではなかったので、紗雪は考え込んでしまった。
「おるんや!」
可南は黒目を輝か

もっとみる
小説 桜ノ宮 ⑱

小説 桜ノ宮 ⑱

瀟洒な邸宅が立ち並ぶ静かな通りを行くと、公園に差し掛かった。
「可南~!」
甘い声を出しながら、広季が走り出した。
ブランコに乗ったその女の子は人差し指を口元のマスクに持ってきた。
その様子を見て、広季は走るのをやめてゆっくりと歩き出した。
紗雪はトレンチコートのポケットに手を突っ込み、二人の様子をうかがっていた。
「元気にしとったかー、可南」
「だから、静かにしてよ」
両手を広げて抱きしめる気満

もっとみる