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小説 桜ノ宮

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大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
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2020年6月の記事一覧

小説 桜ノ宮 ⑪

小説 桜ノ宮 ⑪

「でも、俺、市川さんの連絡先知らんねん。秘書の福井さんやったら知ってるかもしれんけど、それだけで連絡しづらいしなあ」
「もしかして、市川さん、まだホテルのあたりにおるかもしれへんで。とりあえず、ホテルまで戻ってみよう」
再び背中を叩くと、スリムはそのまま広季の体に入り込んだ。
「走るで」
広季は胸のなかがじんわりと温められる想いがした。
それをかみしめる間もなく、自分の足は走り始めていた。
「うわ

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小説 桜ノ宮⑩

広季がビジネスホテルから出ると、スリムが待ち構えていた。
「泣きそうな顔して」
スリムは慈愛に満ちた表情で広季に近づいてきた。
ビアホールを出てビジネスホテルへ来るまで、スリムはずっと広季の横に並んで歩いていた。時折、広季に話しかけ、顔を歪めながら反応する姿を笑っていた。
その間、どれだけうっとうしかったことか。
それが嘘のように今は目の前に立つスリムにすがりつきたいほど、広季の心はグラグラと揺れ

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小説 桜ノ宮⑨

小説 桜ノ宮⑨

紗雪はとりあえず、広季への説明を先にすることにした。
「奥さん、エレベーター乗っていきましたよ」
「さっきの男と?」
「も、もちろん」
広季の呆けた顔を見て、思わず紗雪はどもってしまった。
両手で顔を覆い、広季は大きなため息をついた。
よほどショックなのだろう。
「帰ります」
肩を落としたまま、広季はホテルの出入り口へとトボトボと歩いていった。外側にすり減った靴のかかとが哀愁を誘う。
広季がホテル

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小説 桜ノ宮⑧

小説 桜ノ宮⑧

夜の街がくすんで見えるのは、得体のしれないウイルスのせいだろうか。
川の上を走る電車のなかはもちろん道行く人もいつもより少ない。人が少なくなるだけで、違う街のようだ。
目に映るすべてが穏やかではない。広季と夜道を歩きながら紗雪はえもいわれぬ不安に身をこわばらせていた。
広季は息をひそめて歩いている。見開いた目は焦りに満ちていた。時々表情が大きく変わる。
ビールを飲みながら、店内にいる女性との関係を

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小説 桜ノ宮 ⑦

小説 桜ノ宮 ⑦

「緊急事態宣言って出るんですかね」
紗雪はビアホールのバルコニー席でスマホに目を落としたまま、広季に訊いた。
「さあ、出るんじゃないですかね」
周りを見渡しつつ広季は答えた。19時。桜が舞い散るバルコニーに、客は二組しかいなかった。店内の客は隅の席に男女が二人だけだった。
「お母さん、お元気でしたか」
広季が訊くと、紗雪は首を傾げて不機嫌そうに眉をひそめた。
「ばい菌扱いして会ってくれませんでした

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