見出し画像

“美”の再定義によって変化を求められる美容マーケット(販促プラス2023年11月号)


本日は弊社で発行している「販促プラス」の原稿をお届けします。

国内外の大手企業は「美白」という宣伝文句を手放した

2015年9月に行われた国連サミットにおいて、全会一致で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。「誰一人取り残さない」ことを誓い、17のゴールや169のターゲットが定められたこのSDGsの方針は、2015年以降社会へ急速に浸透しました。ビジネスシーンにおいても、SDGsを前提とした経営が求められるようになっています。

 たとえばSDGsには「人や国の不平等をなくそう」というゴールがありますが、これは美容業界のマーケティングに大きな影響を与えています。これまで国内外の美容ブランドは、「白い肌」「ストレートヘア」「手足が長く細い体形」という具合に、ある一定の“美”のイメージを広告戦略によって消費者へ刷り込んできました。そしてこの美意識の刷り込みによって、美白になれるクリームやくせ毛でもストレートになれるヘアケアグッズなどの販売促進に成功しています。

 しかしながら画一的な美を前提とした広告戦略は、世界的な人種差別への問題意識の高まりとともに、疑問視されるようになってきました。2014年、インド広告基準協議会が暗い色の肌をもつ人々を“劣っている”と描写する広告を禁止するガイドラインを発表したことも、その例のひとつです。2020年には、イギリスのユニリーバやアメリカのジョンソン&ジョンソンなど数多くの美容ブランドをもつ欧米の大手企業が「美白」を売りにした製品の販売停止や製品パッケージにおける表記の変更を発表。翌年には花王もすべての製品で美白表現を取りやめることを表明しています。美白のほか「肌色」なども人種差別にあたる言葉とみなされ、化粧品においては「ベージュ」などの言葉に置き換えられています。

「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」と呼ばれる、差別を助長する恐れのある表現は是正すべきという考え方は、いまや企業が活動をするうえで無視することはできない概念なのです。

本物の美とその実現を叶える企業の在り方とは

マーケティングをとおして社会をよりよい方向へ促すことが求められているのです。

 過去の価値観に基づいた美が人種という観点で平等ではないとしたら、美容に携わる企業はどのような“美”を消費者へ提案し、製品を通してその美の実現に寄り添っていくべきなのか。これからの美の再定義が、化粧品を取り扱うすべての企業に求められています。

 2013年、イギリスのユニリーバが取り扱うヘアケア・ボディケアブランド「Dove」は、YouTubeチャンネルにおいて「Dove Real Beauty Sketches」という実験動画を公開しました。動画には、証言に基づき似顔絵を描くFBI捜査員と、自身の容姿にコンプレックスを抱く女性たちが出てきます。捜査員が女性自身の説明をもとに描いた似顔絵と、他人の説明をもとに描いた似顔絵を並べてみると……。被験者であるすべての女性が、自分の目に映る自分の顔よりも、他人に映る自分の顔のほうが美しいことを認めるという、驚きの結果となりました。

 Doveが過去に“美しい白い肌”を宣伝文句とし、それを叶えるためのスキンケア商品を数多く販売してきたことは揺るがない事実です。だからこそ、平等な社会における本物の美を追究し、これまでの画一的な美の基準から消費者を解放することは、ブランドが率先して取り組むべき責任であると捉えているのかもしれません。この動画を通して、Doveは体型、サイズ、年齢、民族性など多様な個性を持つ女性を肯定し、視聴者に多くの気づきを与えました。

 企業は、その規模が大きいほど影響力をもち、偏った固定観念を消費者へ容易に与えることができます。しかし「誰一人取り残さない」社会を目指すことが世界の共通認識となった今日においては、ブランドや企業の根幹を成す価値観を問い直し、自社製品のマーケティングをとおして社会をよりよい方向へ促すことが求められているのです。


この記事が参加している募集

企業のnote

with note pro

マーケティングの仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?