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ゲストと地域を、新しい価値観でつなぐホテル。(京都編)


今年もたくさん旅をした。
本当に幸せなことだなとつくづく思う。

年の初めにかかげた目標「国内のホテル・旅館にトータルで10泊以上する」は、現時点で13泊。年末旅行の2泊を残し、すでに当初目標は達成。今年訪れた宿については、振り返りも兼ねて、後日レポートしたい。

今回、紹介するのは京都に誕生した新しいホテル。嬉しいことに、そのオープニング・レセプションにご招待いただいた。

それにしても、京都を訪れたのは何年振りだろう。京都も久しぶり、新しいホテルのお祝いの席にも立ち会えるとあって、心躍らせながら新幹線に飛び乗った。


施設が点在する分散型ホテル

訪れたのは、ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)さん。京の町にしっとりと溶け込むその外観は、シンプルで、それでいてとても潔い。

▲5つの施設のうち、今回私が宿泊した麩屋町通Ⅱ(FUYA Ⅱ)の外観。


じつはこちらのホテル、分散型の宿泊施設になっている。趣きや特色の異なる5つの宿泊棟が徒歩圏内に点在しているのだ。
設えの違いだけではなく、それぞれに異なる機能を持たせ、それらをあえて点在させることで、滞在客を町に回遊させる、という意図がある。

ジムのある棟、レストランやバー、キッチンスタジオがある棟、茶室や畳のメディテーションルームがある棟。
どの棟に宿泊しても、宿泊客はこれらすべての施設を利用することができる。

▲ホテルの周辺マップ。

この分散型スタイル。東京では谷中にあるゲストハウス「hanare」が先駆け的存在。レセプション棟を起点に、地元の商店街、飲食店、レンタサイクル、銭湯、カルチャー教室などを周遊させる仕組みになっていて、町中をひとつの宿泊施設にみたてている。ゲストハウスには滞在拠点として、併設するカフェには地域の人と旅人とが自然に混じり合うコミュニティとしての機能を持たせながら、宿ですべてを完結させず、外(周辺地域)へとうながす。

従来、観光地の大型旅館やホテルでは、施設内にレストラン、土産物屋、リラクゼーションなどあらゆる町の機能を内包し、滞在客を囲い込むようなところが多かった。
近年、温泉街やその地域の商店街などと共存共栄するように、宿泊客を外へ外へと回遊させる宿が増えてきている。

ENSO ANGOの近隣には、寺社やカフェ、すこし歩けば四条通りや鴨川、南座そして祇園。京都の人たちの暮らしのにおいが、すぐ近くに感じられる。 「暮らすようにステイする」そんな宿なのだ。


写真は、朝の散歩で撮った何気ない京都の日常の風景。私は旅先での朝の散歩が好きだ。
その地域の飾らない素顔を見ることができるから。



京の町とつながるアクティビティ

また、このような仕組みのほかに、より深く京都の日常に触れられるアクティビティ・プログラムもある。

例えば、京の夜の町を走るナイトラン、Tatami Salonでリラックスしながら行うナイトヨガ、日本初・建仁寺内両足院副住職による英語で指導いただく坐禅(メディテーション)、創業150年・京の畳職人による「畳」の物語り、そして「だし」作りから学べるおばんざい教室。
どれも「京都」を意識したプログラム。

最近では、地域ごとにこういった文化体験プログラムを開発する動きが進んでいるが、検索、事前予約の手間などを考えると、宿の滞在プログラムに組み込まれることで、利用しやすく、これらのハードルがグッと下がる気がする。
地域の宿の役割は、何も「寝る場所と食事の提供」にとどまらないのだ。

私はナイトヨガ、坐禅、畳トークに参加。
後日トラベルボイスの記事にちらりと自分が写っているのを見つけた。

▲写真は下記トラベルボイスの記事より




異なる魅力を放つ、5つの宿泊棟

私は今回、FUYA ⅡとTOMI Ⅱの2つの棟を利用。
そのシンプルな外観はすべての棟において統一感を保ちながらも、施設内は国内外の建築家やアーティストによって、異なる魅力を放っている。建築やデザインが好きな方は、それを目的に訪れるのもきっと愉しいはず。
ホテルが目的地になる旅があってもいい。

私が宿泊したFUYA Ⅱは、世界的インテリアデザイナーである、故・内田繁氏の理想を継承する「内田デザイン研究所」によって手がけられている。ホテルの快適性と日本文化の精神性が調和した空間。

▲ラウンジ横にある茶室(FUYA Ⅱ)。


▲トレーニングジム(FUYA Ⅱ)

▲ラウンジ(FUYA Ⅱ)

▲Tatami Salon(FUYA Ⅱ)ナイトヨガや坐禅の体験はこちらで。

▲ジェームス・タレルのような開放的な吹き抜け。(FUYA Ⅱ)

▲各棟のエントランスにはクリエイターが手がけた手水鉢が。美しくて一目惚れ。


以下は、今回レセプションパーティーが開催されたTOMI Ⅱの施設内。
この日は、たくさんの方々が各地からかけつけ、華やかなレセプションパーティーが催された。

▲朝食の様子。ピンチョススタイルで色々なものを少しずついただける。素材は地元の京野菜などを使用。素材を大切にするスペイン料理の技法を取り入れ、京都と日本の食を表現。


TOMI Ⅱは5棟の中で唯一、レストランを持つ施設。朝食や夕食はこちらで。多くの方々が交差しコミュニケーションする「交流」の役割を担う。
こちらは、スイスのデザイングループ「アトリエ・オイ」が日本で初めて関わった空間デザインとインスタレーション。

空間テーマは「陰影」
和傘の技を応用した影をも美しい照明器具、清水焼きをアレンジした棚など、京都の匠の技と彼らが表現する「日本」を、空間を通じて感じられる施設。
昼と夜ではまた趣きも違う。
過ごす時間によっても愉しみ方が変わる。


ムダのないミニマムな美しさ。

部屋は、良い意味でとても簡素でシンプル。
無駄なものがなく、心地好い。
ENSO ANGOの名前は、禅に由来している。ENSO は「円相」、ANGOは「安居」
そういった言葉も体現された空間。

感覚的に、広い部屋、高価な調度品が置かれた部屋、露天風呂など設備が充実した部屋=高単価な部屋という宿が多い。いわゆる「プラス」が多いと価格も高くなるという考え方。

スモールラグジュアリー、逆にあえて「マイナス」することで高単価なものがあってもいいと私は思う。
必要最低限の中から生まれる価値。
それは少し高度な、宿との価値観の共有、コミュニケーションのようにも感じる。
大きい、広い、たくさん、だけが価値観ではないはずだ。


また、ENSO ANGOでは、サステナビリティにつながる社会的取り組みにも積極的。
例えば、全館で使い捨てプラスチックを削減し環境へ配慮した取り組みなど。歯ブラシや髭剃り、シャワーキャップといったアメニティグッズはあえて客室に設置されていない。

▲動物実験をせず、環境に配慮した成分で作られたシャンプー、コンディショナー、ソープを採用。

▲社会的取り組みとして、アジアの最貧困地域における女性の雇用支援や子供の生活支援を行うNGOとも連携。備品であるドライヤー用のポーチはカンボジアの貧困女性たちが製作したもの。


▲私は旅先で果物やおやつを買って部屋で食べるのが好きなので、ちょっとしたキッチンとカトラリーは嬉しい。このほかにも小さな鍋やフライパンも備え付けられていた。


▲ノベルティでいただいたテラダモケイ「ENSO ANGO」京都編 春夏秋冬。 1/100建築模型用添景として知られるテラダモケイのENSO ANGO特別版。5棟のひとつYAMATO Ⅰ は、これらテラダモケイがロビーや客室に設置されている。ファンの方にはたまらないかも。


▲モニターにはゲストの名前とメッセージ。例えば、企業などのインセンティブツアーでいらしたMICEのお客様などへの個別の連絡対応もできそう。



完成形のない、生きたホテル。

先日、代表の十枝さんから、このホテルを通じて、地域や社会に対してどんなことを実現したいのか、という思いを直接お聞きする機会があった。

「自分はホテルのことしか知らないから」と
控えめにおっしゃったけれど、だからこそ、その可能性を信じていて、真摯につねに探究されているんだなと思った。

また、十枝さんは「ゲストと地域を価値観でつなぎたい」とおっしゃっていた。
その気持ちは、施設のあり方やスタッフの何気ないサービス、アクティビティ・プログラムの目的、ホテル経営を通じた社会的活動への貢献など…、そこかしこから感じるとることができる。

時代の変化とともに、自らの役割・使命も変化していくホテル。訪れる度に、旅の愉しみにとどまらない、新しい価値観に出会えるホテル。

ENSO ANGOはこれからも変革し続ける。      「完成形のない生きたホテル」のこれからが、  とても愉しみだ。


\ 今回、泊まったお宿 /

ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)
〒600-8062
京都府京都市下京区富小路通高辻下る恵美須屋町187

Phone 075-585-5790(予約直通)
Phone 075-746-3697(ホテル代表番号)Phone 075-746-3693(レストラン直通番号)