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ティール社会とは? ティール組織と進化型社会

※注意:当記事は『ティール組織』ではなく、『ティール段階に達した時代の社会のあり方』に関する考察です。


はじめに

『ティール組織 -マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(著 フレデリック・ラルー、訳 鈴木立哉、解説 嘉村賢州)が日本で出版されてから、5年ほどが経つ。「ティール」という言葉は、多くのビジネスパーソンに広まった。本書で提唱されたティールとは「変化の時代に適応し、自律的に進化していく組織モデル」のこと。

実は、この本の考え方の基礎になっているのが米国の現代思想家ケン・ウィルバーが提唱する発達心理の学説。そのウィルバーは、世界共通の価値観がまもなく次の段階へと変化すると予測している。

思考以外の自分の感覚を取り戻す。現代人の多くは、思考がノンストップで頭の中を駆けめぐっているので、思考以外の「自分」と言われてもピンとこないかもしれない。しかしヨガや瞑想を習慣にしている人は、雑念がなくなっても自分は存在する感覚を日々感じている。サウナや銭湯が好きな人は、「ととのった」という感覚のときには、思考が駆けめぐっていないことを知っている。山登りが趣味の人は、頂上の景色に息を飲む瞬間に、思考が止まることを経験している。アーティストはもちろん、思考以外の自分を表現している。
思考以外の自分の割合が多くなればなるほど。思考はかえって研ぎ澄まされて、クリエイティブになる。合理的な判断は人工知能の方が得意になっていく中で、人間は思考を研ぎ澄まし、クリエイティブになっていくしかない。シリコンバレーの経営者たちは、そう考え始めたのだろう。瞑想を実践する経営者がこのところ増えているようだ。

思考以外の自分を受け入れるようになると、科学で証明されていない感覚にも理解が深まるようになる。宗教を信じる途上国とも、共通の価値観を持つようになる。それが統合された意識、ティールだとウィルバーは言う。
ウィルバーによると、先進国の5%ほどの人口が既に「統合」「ティール」の価値観に入っていると言う。まだまだマイノリティなので、自分の価値観を口にしない人も多い。しかしその数が10%になれば、社会変化が始まるという。また25%になれば、身の回りのすべてのものが、統合やティールの価値観をベースに作られるようになるという。

次の価値観変化は「ティール」=ケン・ウィルバーの時代認識
『インテグラル理論』提唱者 ケン・ウィルバー氏

【思考以外の自分の感覚とは?】
直感やインスピレーションのことを指す


ティール社会とは?

フレデリック・ラルー氏の下記の発言内容は、日経クロステック記者の日野なおみ氏とガイアックスの木村智浩氏による2019年9月14日に開催されたイベント「ティール・ジャーニー・キャンパス」講演イベント・レポート記事を筆者なりに加筆及び編集したものである。

はじめに

今回、最初に頂いた依頼は、『ティール組織』に書いてあることよりもっと幅の広いことを話してください、ということでした。新しい組織の出現よりさらに大きなことを話せ、と。最初は戸惑いましたが、少しでも皆さんの将来に光を差すことができればと思っています。
もともと私はベルギー生まれで、この3年くらいは米国に住んでいます。欧米では今、多くの混乱が起こっています。社会がこの先、どうなるのか。そしてどんな価値観がこの先、大切にされるのか。誰も未来を見通せなくなっているからです。
米国ではあんな大統領が選ばれてしまいました。そして「米国をもう一度偉大な国に戻そう!」と歴史を逆行させようとしています。


英国でも、欧州連合(EU)からの離脱に向けた準備が進んでいます。「我々は大英帝国である」と、やはりノスタルジーに浸っているように見えます。そして日本でも、憲法改正を巡る議論があると聞いています。
どうやら世界は混乱を深め、そしてかつての古き良き時代に戻りたいと考える人が増えているようです。まずはここからスタートしましょう。
哲学者や社会学者、文化人類学者、心理学者など、さまざまな研究者が、人間の進化の過程を分析し、人間は少しずつ進化をするものではない、ということを発見しています。
つまり人類はあるとき、飛躍的な進化を遂げる。つまり大きなジャンプをして、進化を遂げてきました。歴史を振り返ると、20人の集団で暮らす時代が長く続きました。けれどあるとき、この小集団が一気に大集団へと変わった。大きな跳躍を遂げたわけです。ここから、人類にとって最も大きな跳躍である農耕社会が始まりました。
2回目の跳躍は産業革命や情報革命です。科学と産業が近代を築いてきました。そして今、3回目の大きな跳躍が進みつつあります。これを「脱近代」と呼ぶ人もいます。まさに今、世界中の多くの人が、人類の新しい跳躍を始めるかどうかの瀬戸際にいるわけです。

多くの人が、これまで社会がどのように変わってきたのかという流れを理解しています。大きな跳躍があるたびに、社会構造やテクノロジー、政治や社会統治のあり方が変わってきたという事実も分かっている。
ただ人間は、その跳躍の最中に、変化を理解しているわけではないんです。それぞれの進化の途上で、私たちの世界に対する見方は変わっています。けれど、その事実に自覚的かというと、決してそういうわけではありません。
ちょうど、水の中にいる魚が、「自分たちは水中で生きている」と気づかないのと同じなんです。それが今回の話のテーマです。つまり人間はその時々、自分の属する時代に合った視点からしか、物事を理解しようとしないんです。
それぞれの時代で、私たちが世界をどのように理解し、行動してきたのか。今回は論点を分かりやすくするために、人間の進化を3つのステージに分けて解説しましょう。

  1. 農耕

  2. 機械

  3. 生命体

農耕

1つ目のステージは農耕社会です。農業の発明によって、人間は狩猟社会の部族的な社会から大きく変容しました。農耕文明の時代から私たちが引き継いでいる世界観と言えば、ヒエラルキーでしょう。農耕社会になり、権力の集中が進みました。そしてすべてのことに階層があると見るようになったのです。
農耕文明は世界各地で発生しましたが、共通するのは必ず身分制があることです。当時の社会では、それが当たり前でした。社会はヒエラルキー化されていて、人間は誰しも生まれたときから身分がある。この時代に生まれた人は、誰もそれを疑わず、当たり前のルールとしてヒエラルキーを受け入れていました。

機械

2つ目のステージが産業革命後の工業社会。科学や産業の進化が、農耕社会を根底から覆しました。農耕社会では、神によって作られたヒエラルキーがありました。
けれど工業社会では神もヒエラルキーもありません。そこにあるのは非常に複雑な仕組みだけです。工業社会では、世界がどんなメカニズムで動いているのかが分かれば、それを自分の利益になるように働かせることができます。イノベーションや最適化が、「もっと、もっと」とひたすら続く世界です。工業社会では、すべてが階層ではなく、機械化されていきます。

生命体

3つ目のステージが、今出現しつつある新しい社会です。ここでは、すべての物事を複雑な生態として見ています。

アジェンダ

これから皆さんに、これから取り上げるさまざまな分野が、農耕社会と、工業社会、そして生態系社会ではどう見えるのかを紹介します。

  • 経済

  • 金融

  • 経営

  • 教育

  • 農業

  • 医学

  • 政治

経済

【生命体】
資源が限られている惑星で、無限の成長は持続できない現実です。原油や天然ガスをいくら採掘し続けても、いずれ枯渇する運命にあるでしょう。銀はわずか12年後、亜鉛は15年後、ニッケルは30年後には枯渇すると予測されています。利益だけを追求し、地球の土壌と清水を汚染し続けるのは持続不可能です。良い代替案がない限り、私たちは廃棄物も毒性もない100%再生可能な循環型経済への移行を選択せざるを得ないでしょう。
この変革を実現するには、大量消費に対する見方を変える必要があります。経済成長率が0であることは、全く進歩しないことを意味するのではありません。物質的な豊かさを示すGDP成長率が0またはマイナスになるかもしれませんが、同時に精神的な満足や感情的な充実が増大するでしょう。
未来のティール価値観では、人々が現代の大量消費を「下品で節操がない」と評価することでしょう。個別の顧客との人間的なつながりに焦点を当てたサービスが成長するでしょう。

有限のシステムの中で無限の成長を遂げられるなどと考えるのは、頭がイカれてるか、さもなければ経済学者か、どちらかだ。

経済学者 ケネス・ボールディング氏

金融

【生命体】
現代の貨幣経済は、利子に依存しており、価値を持続させるために増加し続ける必要があります。先見の明を持つ経済学者たちは、経済成長率が0の社会では、新しいタイプの貨幣であるマイナス利子を生む必要性を提唱しています。実際、一部の実験では既にその効果が示されています。
もし利子がマイナスになり、資産を保有すること自体が価値を持たなくなるとしたら、何が起こるでしょうか?ティール社会では、不安が豊かさへの信頼に変わります。将来に備えて個々が貯蓄する必要性が減少するかもしれません。人々は、自身の蓄えではなく、共有関係と互いに助け合う信念に頼る社会で安心して生活できるでしょう。これがまさに「共有経済」の本質ではないでしょうか?

本当の豊かさとは、食料や金を大量に溜め込んだ状態ではなく、他の人が必要としているときにそれを分け与え、自分が何か必要とするときには他の人々から分けてもらえるようなコミュニティの一員となることだ。

作家・哲学者 パーカー・パーマー氏

経営

【農耕】
ヒエラルキーの観点から理解している人にとっての経営とは、非常に明確です。それは上にいる人が下にいる人に、どのように仕事をさせるのか。経営とは、いくつもの明確なプロセスをつくり、それを実行させることです。そして欧州では、今でもなお、多くの政府機関がこのような方針で運営されています。大学だって同じです。学長がいて、ベテラン教授がいて、その下に10年級の教授がいて、講師がいて、修士学生がいて……。

【機械】
機械の観点から経営を見ると、全く別の世界が広がります。ここでは農耕社会のように物事は固定化されてはいません。どんどんイノベーションが起こって、競争環境が刻々と変わっていく。その中でいかに生産性を高めて、環境に最適化していくのか。すべての物事がインプットとアウトプットの観点で動く機械的な世界です。この世界では人間だって資源の1つでしかありません。だから働く人のことを「人的資源」と言うんです。
機械の世界もロジックは非常に単純です。あるレバーを引けば、それに関連したモノが動く。人間だって、より魅力的なボーナス制度・評価制度を作れば、シンプルにやる気を出して働けると思われてきました。
この機械の世界になって初めて、専門家やコンサルタントも登場しました。彼らに相談すれば、最も少ないインプットで最大限のアウトプットを出せる最適化、合理化が分かる。効率的なイノベーションの起こし方も教えてくれます。そしてまさにこれこそが、私たちの知っている経営なのです。

【生命体】
けれど、私が本に書いた、今出現しつつある新しい社会では、組織はそれ自体が命を持った生命体と考えられます。そしてこの世界では、Aというスイッチを押せば、A’が動く、という単純なロジックは通用しません。
人間がより良い仕事をするには、ひらめきが生まれるような条件や環境を整えなければなりません。この詳細については、『ティール組織』でまとめています。ぜひ、読んでください(笑)。
私が伝えたいのは、このような経営方針で運営される組織が少しずつ増えている、ということです。固定化した階級組織ではなく、エンジニアが機械をいじるように経営する組織でもなく、人間が自由に、自分で自分のことを管理できる組織。自分がより自分らしい人間でいられる組織、とも言えます。
こういう組織では、誰一人として「業績だ、業績だ」と言っている人はいません。それなのに、機械的な組織よりもはるかに業績がいいんです。
生命体の世界の組織が極めて生産性が高いということは『ティール組織』の中でも書きました。けれど、機械の価値観で働く人が、生命体の世界にあるような経営をしようとしても、不可能です。なぜなら、生命体の世界のモノの見方ができていないからです。

教育

【農耕】
ヒエラルキーのある農耕社会に、学校はなく、子供は大人よりも劣っている存在だと捉えられていました。子供は自由に遊んでいたいと思うけれど、社会は子供に対しても、大人のように振る舞うべきだと考えている。親の仕事は子供が社会に適応するよう、そして大人のように振る舞えるように育てること。そのためには暴力を振るってもいいとされてきました。学校制度はなく、特権階級の子供たちだけが、邸宅に教師を招いて教育を受けていました。

【機械】
公共教育が始まり、すべての子供が教育を受けられるようになったのは、19世紀に入ってからです。ただこのときも、学校は、まるで工場のように考えられていました。
つまり学校は、子供に対する工場のようなもので、機械を製造するように、6歳になった子供を学校に入れ、教育を与えれば、みんなが同じレベルの知性を得るようになる。小学6年生はこのレベル、中学2年ならここまで、と。この学校という工場を通ると、最後には18歳の美しい成人が誕生します。そして、社会に出る準備を整えるのです。

【生命体】
これまでの教育に対して、「そんな仕組みでいいの?」という疑問を持つ学校が世界各地で現れています。彼らは子供も社会も、1つの生命体として見ている。そしてこの生命体が成長するには何が必要なのかと考えだしているのです。私は幸いなことに、2人の子供たちを、モンテッソーリ教育を実践する学校に入れることができました。
この学校では、子供たちを1つの生命体として見てくれます。6歳から12歳までの学生が同じクラスで過ごし、先生は画一的な教え方をすることがありません。
教室の中には、いろいろな教科の学習教材があり、子供たちは学校に行くと、「今日は、私はこの気分」と学びたい教科を選びます。子供は1つの生命体で、何かを学び、何に興味を持ち、質問するのかを自分で選ぶことができるわけです。
私の息子は現在9歳ですが、数学が得意で学校では11歳で学ぶレベルの内容を勉強しています。一方で、国語は苦手で、まだ6歳の教材を使っています。それでも問題ないんです。モンテッソーリでは、自分の準備が整ったときに、学ぶことが許される。
学校で教える軸は2つしかありません。物事の決め方と、対立や葛藤の解消の仕方。それ以外の学びはすべて子供が自分のやりたいようにやっていく。
機械のように子供を育ててきた価値観の人にとって、この教育方針は理解できないはずです。きちんと教育プランを作成し、カリキュラムを実践させ、テストで理解の度合いを図るべきだと考えているはずです。子供の自発性に委ねていたら先が見えないことも、不安に感じるでしょう。
けれど、仮に私たちが子供の自発性に任せ、彼らが自分で発見し、学んでいく情熱を大切にすることができれば、きっと18歳になったときには、画一的な教育を受けた子供よりも、より多くのことを学んでいるはずです。

農業

【農耕】
人間は農業を発明してから、世界のすべてを階層化していきました。神が世界を作り、私たち人間は、神の次に偉い存在となりました。そんな人間が、動物や大地に対して、自分たちの意思を押しつけるのは当然のことで、好きにやっていい。そう判断し、人間は森林を大量に伐採し、耕し、そして自分たちの作りたいものを育ててきました。

【機械】
産業革命後のステージでは、農作物を育む土壌でさえ機械的な存在になっていきます。生産性を上げるには、土壌に化学肥料を与え、害虫を避けるために殺虫剤を散布する。牛や豚、鶏といった家畜でさえ、私たちの目的に合うように最適化し、1頭からたくさんの肉が取れるように太らせていきました。もはや食用の鶏などは太らせ過ぎた結果、2本足で歩けないものもあると聞きます。それくらい、生産性を追求していったのです。
確かに短期的な観点では、産業革命後のテクノロジーを駆使することで、今までよりも少ないインプットで、より多くの畜産物や農産物を得られるようになったと思うかもしれません。生産性は飛躍的に向上したように見えます。
けれど実際には今、世界各地で農耕に使える土地の質が、年々低下しているそうです。土壌が弱り、生産性が落ちてきている。それを避けるためにもっと肥料を入れ、収穫量をキープするために品種改良や遺伝子改良を続けている。工場で機械を製造するように、食べ物を作っているわけです。

【生命体】
けれど今、ここにも新しいモノの見方が生まれています。それが「パーマカルチャー」です。
パーマカルチャーでは土壌を非常に複雑な生態系として見ます。虫や微生物、植物の根っこなどのあらゆるものがつながり、循環して生きている。そして人間に友達がいるように、植物にも友達がいて、仲のいい植物を一緒に植えると互いに助け合ってよく育つという相互システムが出来上がるんです。土もより豊かになって、二酸化炭素をより吸収し、農薬を使わなくても昆虫が寄りつかなくなる。まさにメリットばかりです。
ただ機械的なモノの見方をしている中で、パーマカルチャーのような話を聞くと、「どうやってトラクターを使うんですか」「効率的に収穫できないじゃないですか」などと思ってしまいます。極めて生産性が悪いと感じるんですね。
私も最初にパーマカルチャーの様子を見たとき、「これはここではいいかもしれないけれど、世界のすべての農業がこれに置き換わるのは難しいだろうな」と思いました。私の中にも機械的なモノの見方がまだ根強くあるんですね。

【パーマカルチャーとは?】
「パーマネント(永続性)」と「アグリカルチャー(農業)」「文化(カルチャー)」を組み合わせた言葉。恒久的に持続可能な環境を生み出すデザイン体系のこと

医学

【機械】
産業革命後の世界では、人体でさえ、機械のように考えられてきました。私たちは自分の健康状態を知るために、いろいろな数値を測定します。そして健康ではない部分に対しては、欠けている化学物質を薬などで補います。あるインプットをすれば、人体という機械で何かが作動して、正しい出力がされていく。

【生命体】
けれど今、出現しているのは、人間の体は機械ではなく、より複雑な生命体であるという考え方です。また人間は独立した存在ではなく、人間関係などの環境や幸・不幸といった感情など、さまざまなものに影響を受けるものだとも考えられるようになりました。
これまでの世界であれば、「最も人間を殺しているものは肥満と心臓病、心臓血管病である」と考えられてきました。けれど新しい世界では、人間を最も殺すのは孤独や寂しさだとされています。同じ人間についての言葉でも、ここまで違っているのです。
人間を「人体」として見るか、より複雑なシステムとして見るか。病室で、外に自然の景色が見える窓際のベッドと、自然が見えない廊下側のベッドと、どちらが回復が早いかというと、前者であることは、科学的にも証明されています。けれどこれだって、人間を機械として見るような世界では、説明がつかないはずです。人間を1つの生態系、相互に影響しあう1つの生命あるシステムとして見ることが医学の世界でも新たに生み出されています。

【備考】
〜出産について〜
(講義後のトークセッションで、ラルーさんが医療に関して再度熱く話されたので、ここに追記する)

女性の人権が大きく侵害されている状況が存在します。本来、女性は出産を自然で安全な環境で経験するべきですが、実際の現場は明るいライトで照らされ、多くの看護師が出入りし、出産には不利な姿勢が要求されています。医療の仕組みも主に医師中心のものですが、これが本当に適切なのでしょうか?
幸運なことに、私の妻は静かで医師の介入が最小限で行える場所で出産することができました。そこは安全で自由な空間でした。しかし、一方で、助産婦たちは冷たい機械的なシステムに対抗しなければならず、そのために仕事を辞める人もいるのが現実です。

政治

【農耕】
最初のステージは階級制度の世の中ですから、明確に皇帝や王が国を統治します。この統治を助けるためにさまざまな貴族会議がありました。王や皇帝を批判することは許されず、仮に体制を批判すれば、すぐに監獄に入れられました。

【機械】
産業革命後のステージでは、誰が世界を統治しているのかというと、最も良い政策を出せる政治家を、選挙で決めています。ただ、この仕組みにも欠点があります。経済合理性が何よりも重視されるこのステージの世界では、選挙にもその価値観が影響を与えます。
例えば選挙前にはたくさんの世論調査が実施され、メディアはこぞって誰が優勢か、選ばれるのは誰かという結果を予想し、報じます。あらゆる世代で今、最も選挙に積極的なのは50代で、彼らは自分にとって重要性の低い選挙では、優勢な人に投票しようとします。投票という、それぞれの人に自由な意思決定が委ねられた行動でさえ、人間はより合理性の高い候補者に投じようとするわけです。

【生命体】
けれど、世界はさらに複雑化しています。教育や農業、人間の健康と同じように、世界そのものもさまざまな文化の存在する生命体と捉えるなら、それを一部の賢い人に決めてもらうのではなく、それを構成するいろいろな人の声を吸い上げてルールを決めていくこと。「最も良い政策を出す人を選ぶ」という方法の限界に直面し、世界のあらゆるところで、実験が試みられています。

【事例:1200人の村で起こったこと🇫🇷】
例えば、私がよく知るフランスの小さな村では、選挙で政治家を選ぶのではなく、住民たちがそれぞれの興味のある分野や得意分野について、直接話し合い、方針を固めるような運営をスタートしています。選挙で選ばれた人は、住民たちが議論を重ねて導き出したルールを、後押しする存在です。議論がより活発になるようなサポートをするのも役割の1つですが、政治家が自分たちだけで物事を決める仕組みではありません。ほかにもいろんな方法が考えられるはずです。

【事例:ひまわり革命🇹🇼】
台湾で数年前に、学生が国会議事堂を占拠した出来事がありました。当時、政治家たちは国民に隠れて、中国との自由貿易について協議していたのでした。自由貿易の問題は単純ではなく、解決策を模索しようとしています。そのため、多くの国民や若者が怒りを感じ、その結果、選挙での参加を決意しました。この学生たちは、ひまわりをシンボルに掲げ、「ひまわり革命」として知られました。国会議事堂では、ただ訴えるだけでなく、ユーストリームを通じてライブ配信しながら議論を行いました。
最初、メディアは国会議事堂が不穏な人々によって占拠されていると見なしていましたが、実際に見てみると、学生たちはきちんと対話し、問題を解決しようとしていることが明らかになりました。そして、その占拠行動は成功裏に終了しました。政治家たちは学生たちが適切な方法で行動していたことを認めざるを得ませんでした。そのため、学生たちに更なる参加を呼びかけ、技術に優れた人々にも協力を仰ぎました。
ひまわり革命の直後に難しい議題が浮上しました。

【事例:学生が参画した「Uber対タクシー」問題🇹🇼】
現在、Uberが世界中で広がり、タクシー業界との摩擦が生じています。この対立の解決方法について、政治家たちは適切な方法が分からなかったため、若いハッカーに協力を依頼しました。ハッカーには、この問題に関連する関係者を巻き込むプロセスを構築してもらい、そのプロセスに参加することを約束しました。結果として、ハッカーは誰もが参加できるプラットフォームを開発し、関係者同士の対話を促進しました。
このプラットフォームにおいて、異なる意見を持つ人々が出てきて、Uber対タクシーの対立ではなく、より大きな問題が浮かび上がりました。一部の人々はUberのドライバーへの扱いに不満を抱き、同時にタクシー業界も安全性に関して疑念を抱いていました。さらに、Uberが税金を支払っていないという問題や、タクシーの運行状況が透明でないことも指摘されました。こうした多岐にわたる議題が浮かび上がり、問題が明確になりました。
「お前が悪い」「どっちが悪い」といった論争はやめ、対話を通じて解決策を見つけようという姿勢が広まりました。結果として、わずか3時間で合意に達し、台湾でUberの運行が許可され、Uberは税金を納めることに同意し、ルールが設けられました。この合意に至るプロセスには、権威を下げて機関の合意を得る姿勢が含まれており、複雑な問題を解決するプロセスが変化していることを示しています。このような事例は世界中で増加しており、問題解決がますます複雑化していることを示しています。

まとめ

教育、農業、医学、そして政治……。あらゆる分野で、これまでとは異なる新しい世界が出現しています。新しい世界を見つけるには、私たちが何に照準を定めるべきかを知っておく必要があります。
私たちは今やすべての構造に疑問を抱き始めています。みんなが何かしら、「今までの管理方法や経営方法ではうまくいかない」と思っている。教育システムも政治の仕組みもどんどんと壊れ、金融システムも限界に直面していると感じている人は多いはずです。
従来のシステムがいろいろなところでがたつき始めているのを見ると、私たちはつい、「前は良かった」と過去を懐かしみ、昔に戻ろうと考えたりもします。「もう一度、米国を偉大な国に」「EUなんか出てしまえ」「昔の憲法に戻してしまおう」と思ってしまうわけです。
けれど、過去に戻るのは全く意味を成しません。世界はじわじわと進化を遂げ、前進しています。そして新しい世界を生み出すために、たくさんの人が活動を始めている。今、私たちがまさに立っている床はがたついています。けれど、その下で、一生懸命、別の床を作ろうとしている人がいる。
きっと今、私の話を聞いている皆さんの中にも、そういった人がいらっしゃるはずです。新しい世界を作り出そうとしている人です。
物事は、どこに焦点を当てるかによって様変わりします。壊滅的に思うのか、希望があるように見えるのか。この先も、世界は進化すると皆さんが信じているなら、自分に問いかけてみましょう。

私が一番役立つのはどんな仕事なのだろう、と。私は、この世界の新しい役割として、次の3つを提案しています。
1つ目は私のような「ストーリーテラー」です。今、世界中で何が起こっているのかを語る人を指します。2つ目は、まさに今、新しい世界を生み出そうとしている人。言ってみればそれは「助産師」のような存在と言えます。そして3つ目が、死にゆく古いシステムが安らかに命を全うできるような「ホスピス」の役割です。
この3つの役割はどれも非常に重要です。例えば、皆さんが教師だったとします。ある教師は、変わりつつある世界を理解し、私と同じようにストーリーテラーのような役割を果たすかもしれません。「今、教育の世界ではこういうことが起きているんですよ」と伝える仕事もあるでしょう。
もしくは助産師のように、新しいタイプの学校を作り出す挑戦だってできるはずです。
そしてホスピスの役割を担う教師だっているはずです。新しいシステムはまだ完全には出来上がっていません。古いシステムの中で学ぶ大学生だってまだ、たくさんいる。現職にとどまって学生をしっかり面倒を見ること。ただ学生たちが新しい世界に視点を向けられるよう、導いてあげること。それだって、重要な仕事でしょう。
もし、新しい世界の出現が、私たちにとってワクワクするものだとすると、その中であなたが担う役割は何でしょう。ストーリーを語る人なのか、そんな世界が実際に生まれることを手伝う人なのか。はたまた、今ある世界を安らかに死なせられるホスピスなのか。
もしかしたら、まだその役割は分からないかもしれません。けれど、それでいいんです。私は今回、現代の混乱に少しでも光を差し込みたいと思いました。素晴らしい機会を頂きました、ありがとうございました。


おわりに

地球環境と価値観

ティール時代には、あらゆる事象を生命体として尊重するようになるだろう。自然や地球環境すらも巨大な植物のような一つの生命体として捉えて大切にする…そんな価値観にシフトする。


だが、それだけでは不十分で、地球環境を回復するために、人類はローカルとグローバル問わずに助け合う必要がある。そうなるためには、国家の仕組みを抜本的に変える必要がある。DAO(分散型自律組織)のようなテクノロジーが普及して政治で活用できれば、各地域の市民が積極的に政治参加できるようになり、中央政府の権力は弱まり、結果的に各地域の市民のパワーが増すだろう。

国家のあり方

  • 各地域都市(通常):分権化されて独立都市国家状態

  • 中央政府(通常):夜警国家として安全保障や治安維持のみを担う

  • 有事の際:合体して連邦国家に変形可能

【夜警国家とは】
国家の機能を安全保障や治安維持など最小限にとどめた自由主義国家。国防や国内の治安維持など、国家の存立に必要最小限の任務だけを遂行する。

…という役割分担とフォーメーションになるのだろう。

いかがだっただろうか?
ぼくはティール時代の社会と人類の未来に希望を抱けたが、あなたはどう感じただろうか?もし希望を抱けたのなら、我々は何をすべきだろうか?

新しい世界観で生まれている事実を知ることと、それを発信することが重要なのです。

『ティール組織』著者 フレデリック・ラルー氏

ドナルド・トランプは、アメリカの孤立主義への呼びかけを「アメリカを再び偉大にする」という過去の局地的な黄金時代にまつわるノスタルジックな夢想と組み合わせた。20世紀の主要な革命や解放運動は、人間という種全体を視野に入れたビジョンを持っていたのに対して、ドナルド・トランプにはそのようなビジョンは全くなかった。生命の将来について賢明な選択をするためには、ナショナリズムの見地をはるかに越え、グローバルな視点から、いや、宇宙の視点からさえ物事を眺める必要がある。将来への有意義なビジョンを考え出せずに、絶えず過去について語っていたら、そういう政治家には投票してはならない。21世紀には同国人の安全と繁栄を守るためには、外国人と協力しなければならない。だから、よきナショナリストは今や、よきグローバリストであるべきなのだ。

『21Lessons -21世紀の人類のための21の思考』著者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏

僕は1975年にポーランドで生まれました。当時のポーランドは共産主義でソビエト連邦に支配されていました。1981年に独立自主管理労働組合「連帯」は民主化運動をし始めたため、12月13日戒厳令が敷かれ、1983年までポーランドは北朝鮮のような国でした。世界の国々から経済封鎖され、ポーランドは孤立化していました。
80年代に食料配給制になって、母は毎月区役所に足を運び、食料引換券をもらっていました。スーパーに置いてあるのはパンとお酢だけ。たまに店先に肉が並ぶと、皆我先にと引換券を手に持って店に押し寄せ、店の前には長蛇の列ができていたのを思い出します。配給される食料は十分ではなく、当時の僕は常に腹を空かせた状態でした。

僕はニュースなどをよく見ていたので、近々共産主義が終わるのではないかという直感がありました。だから外国に脱出することを考え、語学を学ぼうと思いました。
共産主義の次は資本主義がくる、そうなったら教育が重視される…
小さいながらにそう確信していました。まさに時代を先読みしていたんですね。
それを家族に話すと、皆賛成してくれました。

実は、僕が高校に復学した頃、長兄も失業し、アルコール依存症になりました。兄は酒を飲んでは僕にいつも「自分の人生なんて意味がない」と言っていました。だから、僕は兄のために大学で心理学を勉強して助けてあげたいと思っていた。そんな矢先、僕が大学2年の頃(1997年)に、兄は真夜中にお酒を飲んで酔っ払い、車に轢かれて亡くなりました。大変ショックな出来事でしたが、逆に僕は「人生に意味をもたらすしかない」とも思いました。
兄は変化を予測できずに、時代の潮流にのまれていきました。だから、僕は、時代の変化の予測は難しいですが、自分なりに先読みをして、その変化に耐えられるよう責任をもって準備する。それを自分のミッションと考え、仕事にしようと考えたのです。

元Google人材開発部長 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏

平和とは状態ではなく、争いを未然に防げる解決力を指す。

第40代アメリカ大統領 ロナルド・レーガン氏

では、レーガン元大統領の言うことが真実なら、平和のために「争いを未然に防げる解決力」とはなんだろうか?
その答えこそ、フレデリック氏とピョートル氏、ハラリ氏が言うような

  • 新しい時代を先読みして、学んで伝えること

  • 漠然とした平穏な状態を待つのではなく、平和のための知恵とビジョンを練ること

につながるのではないだろうか?

ぼくたちにできることとは

  • 未来に訪れる新たなパラダイムに関する知恵を知って学ぶ

  • そこから地球全体視点での人類共通のビジョンを共創する

…ことではないかと思えた。

この記事をとおして少しでも、みなさんがティール時代の新しい社会のあり方について理解を深められたら幸いだ。とにかく、ぼくらは希望があるし、地球環境のために協力してできることがあると伝えたい!

長文だが、読んでいただいて大変感謝する。

参考

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