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中国スタートアップ 資金調達Weekly Report_2021/05/07-2021/05/13_19w

こんにちは!
中国大好きな竹内雄登です。
ソフトバンク投資部門でのベンチャー投資業務を経て、先の4月末までSPEEDAというデータベース向けに中国産業調査をしていました。

今年の2021年から、ITjuziというデータベースの情報をもとに、Weeklyで中国スタートアップの資金調達状況について発信することにしました。
このWeekly Reportでは、主に以下3点についてまとめていきますので、お時間がない方は気になる箇所だけでも、ぜひご覧ください。

・各週の資金調達案件まとめ
 - 資金調達件数(日別、業界別、都市別、ラウンド別)
 - 投資金額(日別、業界別、都市別、ラウンド別)
 - 資金調達実施企業リスト
・上記資金調達により、新たにユニコーンになった企業
・投資案件数上位10の投資家

では、早速本題に入りたいと思います。

1. 日別 資金調達件数・金額

2021年の第19週目である5月7日〜5月13日における、日別の資金調達状況を見ていきます。

[資金調達件数]
5月7日〜5月13日の週は、合計131件となりました。
また、1月1日からの資金調達件数の累計は1,933件となりました。

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[調達金額]
非公開や曖昧な情報を除き、公開されている情報のみを集計したため、あくまで参考としてのデータですが、5月7日〜5月13日の週では、公開金額合計で143.7億元の資金調達が行われました。
また、1月1日からの調達金額の累計は2,732.0億元となりました。なお、今週の131件のうち93件が金額非公開のため、単純計算すると、今週の調達金額は集計できた金額の約3倍の規模になると考えられます。

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2. 業界別 資金調達件数・金額

では、業界別に見ると、どうなっているのでしょうか。

[業界別 資金調達件数]
今週の131件の内訳を見ていきます。
業界別に見ると、法人向けサービスの資金調達件数が最も多く、合計29件となりました。次いで、医療・健康、先進製造、スマートハードウェアが上位に入り、上位4業界だけで今週の件数全体のうち66.4%を占める結果になりました。

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1月1日からの資金調達件数累計の内訳を見てみると、上位4業界の医療・健康、法人向けサービス、先進製造、ローカルライフサービスだけで、全体の59.0%を占めています。

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[業界別 調達金額]
公開されているものだけのため、あくまで参考程度のデータですが、今週は医療・健康、Eコマース、法人向けサービス、生産製造の順に多く、上位4業界で全体の78.6%を占めています。

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なお、今週のEコマースと法人向けサービスにおいて、それぞれの調達金額の半分以上を占める案件があるのですが、どちらもソフトバンクビジョンファンドによる投資案件でした。

Eコマースでは、生鮮食品EC大手の叮咚买菜(Dingdong Maicai)に対し、ビジョンファンドはシリーズD+で3.3億米ドル(約21.5億元)を投資しました。なお、同社の既存株主にはセコイアチャイナ、CMC Capital、启明创投(Qiming Venture Partners)などがおり、先月のシリーズDでは7億米ドルを調達しているため、シリーズDとD+を合わせると10.3億米ドルを調達したことになります。

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叮咚买菜(Dingdong Maicai)は注文から29分で生鮮食品が届くことを売りにしていますが、それを支えているのは「前置倉」と呼ばれる倉庫です。これは、配送可能エリアに分散配置された小さな倉庫のことで、注文が入り次第、「前置倉」からバイクなどでユーザーの元へ食品が届けられます。

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36Krによると、叮咚买菜(Dingdong Maicai)は現在、上海・北京・深圳・広州・杭州などの29都市をカバーしており、合計で約1,000の前置倉を持っているとのことです。2020年の年間GMVは140億元で、全国の月間売上高は10億円以上の水準になるようですが、収益性の面では課題を抱えているようです。海通証券が2019年に出したレポートによると、叮咚买菜(Dingdong Maicai)の1日の平均注文数量が1倉庫あたり1,250個に達しないと損益分岐点に達しないようですが、 まだ約1,000個程度/日と足りておらず、赤字の状態のようです。そのため、同社はコスト削減のためにサプライチェーンの最適化を行っているとのことです。なお、同社は2020年末時点で600以上の産地直送サプライヤーと提携しており、野菜・果物・水産物・肉・鶏肉・卵など5,400以上の生鮮食品をカバーしています。

また、ブルームバーグによると、同社が早ければ年内にも米国でIPOを実施し、少なくとも3億ドルを調達する計画があるようですので、今後の同社の動向と中国生鮮食品ECの競合状態は引き続き要注目です。


一方、法人向けサービスでは、HR関連のSaaSを展開する北森(Beisen)シリーズFでビジョンファンド、ゴールドマンサックス、セコイアチャイナなどから2.6億米ドル(約16.9億元)を調達しました。今回の資金調達により、同社のポストバリュエーションは20.8億米ドル(約135.2億元)となり、ユニコーン企業となりました。なお、同社の既存株主にはセコイアチャイナ、经纬中国(Matrix Partners China)、深创投(Shenzhen Capital Group)などがいます。
※以下画像は36Krより引用

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同社は「統合型のHR SaaS+ローコードプラットフォーム」を展開しています。具体的には、同社が構築したローコードのPaaSプラットフォーム上にSaaS型のHR関連のモジュールを展開し、人事・採用・評価・e-ラーニングなどHR関連で必要となる機能を統合して利用できるSaaSを提供しています。これにより、大企業や中小企業のユーザーは、用途に合わせて柔軟にカスタマイズできたり、同社による自主開発されたサービスを利用することができます。

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なお、人事・採用・評価・e-ラーニングなどのセグメント毎に、中国国内でもたくさんの競合がいますが、同社サービスは「オールインワン」であることが差別化要因となっており、2016年から4年連続で市場シェア1位で、累計で6,000社以上が同社サービスを利用しています。競合が同社同様オールイン製品を開発することは想定しており、競合優位性を引き続き確保するために開発を続けています。現在、北京と成都に本部を構えているほか、全国に17の子会社・支社を置いており、社員数は1,500名を超えているようです。また、北京・上海・成都には研究開発センターを設立しており、研究開発メンバーは600名を超えているそうです。主要な競合がIPOしていることから、同社のIPOも噂されていますが、詳細は未だ不明です。


話を戻して、1月1日からの調達金額累計を業界別に見ると、医療・健康、Eコマース、物流、自動車・交通の順に多く、上位4業界だけで全体の60.5%を占めています。

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3. 都市別 資金調達件数・金額

続いて、都市別の内訳を見ていきましょう。

[都市別 資金調達件数]
今週の131件を都市別に見ると、北京、上海、杭州、深圳の順にランクインし、上位4都市だけで全体の73.3%を占める結果となりました。

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1月1日からの資金調達件数累計の内訳を見てみると、上位4都市の北上深杭(北京、上海、深圳、杭州)だけで67.3%を占めています。
また、先週に引き続き、上位10都市のみで累計投資件数の約84%を占めていることから、投資は一部の都市に集中していることがわかります。

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[都市別 調達金額]
公開されているものだけのため、あくまで参考程度にご覧いただきたいのですが、今週は上海、北京、深圳、杭州の順にランクインしました。なお、上記の叮咚买菜(Dingdong Maicai)は上海、北森(Beisen)は北京に本社があります。

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また、1月1日からの調達金額累計の内訳を見ると、北京、上海、深圳、長沙に集中していることがわかります。次いで、先週に引き続き5位以降は蘇州、杭州、広州が競り合っています。

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4. ラウンド別 資金調達件数・金額

ラウンド別に見るとどうなっているのでしょうか。

[ラウンド別 資金調達件数]
今週の131件では、シリーズAが45件で1位、戦略投資が27件で2位になりました。これら上位2つのラウンドだけで全体の55.0%を占めています。

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1月1日からの資金調達件数累計の内訳を見てみると、先週に引き続き、シリーズA、戦略投資、シリーズBの順に多いです。シード/エンジェルラウンドの件数も日に日に上昇しており、総じてアーリーステージの企業による資金調達が活発であることがわかります。

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[ラウンド別 調達金額]
公開情報のみをもとに集計した調達金額をラウンド別に見ると、シリーズCが最も多い36.6億元となり、全体の25.5%を占めています。
次いで、シリーズDが34.3億元で2位となり、全体の23.8%を占め、上位2つのラウンドで全体の49.3%を占める結果となりました。

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1月1日からの調達金額累計の内訳を見ると、戦略投資、シリーズD、シリーズAの順に多く、上位3ラウンドでの合計は全体の59.3%を占めています。

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5. 今週、新たにユニコーンになった企業

今週は1社が新たにユニコーン企業となり、中国のユニコーン企業数は2021年5月13日時点で290社*になりました。
*ITjuziが公開しているデータのため、その他データベース等がまとめている数値と異なる可能性があります

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[企業紹介]
企業名:北森(Beisen)

業界:法人向けサービス
拠点:北京
設立時期:2002年1月
バリュエーション:20.8億米ドル/135.2億元
主要な投資家:红杉资本中国, 经纬中国, 深创投, 高盛(中国), 富达投资Fidelity Investments, 春华资本Primavera, 元生资本, 软银愿景基金
企業HP:http://www.beisen.com


6. 今週、資金調達を行った企業リスト

2021年5月7日〜5月13日に資金調達を行った企業は以下の通りです。

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今週気になった案件は、名創優品(MINISO/メイソウ)による昱家良品への投資です。

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昱家良品アニメや映画などのIPライセンスを受け、フィギュアやオリジナルCGアートのデザインや関連する派生商品の開発・販売を行っています。"Iron Kite Studio"、"Keep Originality"などのブランドを持ち、「NARUTO」や「遊☆戯☆王」などのアニメのほか、「MARVEL」や「X-MEN」との提携を行っています。

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元々のアニメ人気に加え、POP MARTが仕掛けたフィギュアブームを受けて、名創優品(MINISO/メイソウ)昱家良品へ投資したのだと推測しますが、名創優品(MINISO/メイソウ)は2,3年前にMARVELとコラボしていたので、実は元々業務関係があったのかもしれません。
今後、名創優品(MINISO/メイソウ)の店舗にフィギュアが増えているか、増えている場合どのようなフィギュアが増えているのかを注目していきたいです。

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7. 今週末時点での投資件数TOP10の投資家

2021年の投資件数TOP10の投資家は以下の通りとなりました。
※順位の矢印は先週との比較を表しています

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テンセントは今週4件の投資を行い、先週に引き続き1位にランクインしました。今週は、ゲーミングに2件、金融とローカルライフサービスにそれぞれ1件の投資がありました。

また、セコイアチャイナも先週同様2位にランクインしました。
今週の投資案件は5件となっており、法人向けサービスに2件、医療・健康、ブロックチェーン、ローカルライフサービスにそれぞれ1件の投資をしています。なお、上記ユニコーン企業の北森(Beisen)にも投資しています。




以上、今週の中国スタートアップ資金調達レポートでした。

今後も毎週レポートしていきたいと思いますので、よかったらスキとフォローをお願いします。


お問い合わせは以下にて受け付けております。
竹内 雄登(Yuto Takeuchi)
Twitter:https://twitter.com/yuto_takeuchi01

注:
・本noteは速報の位置付けとしています
・事実を整理し、定期的に投稿することを目的としていますので、特定企業の分析や各社の投資傾向に関する情報が薄くなることはご了承ください
・本noteにおける中国スタートアップは、中国を拠点とする非上場企業を指します
・投資件数・金額およびその他データは本note投稿時点にITjuzi上で集計できたものを反映していますので、後日ITjuziのデータが修正・削除された場合、Weekly Reportの前後で数値のずれが発生する可能性があります。ずれが発生した場合、遡及して過去分を修正しませんので、ご了承ください




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