SFを凌駕:太陽望遠鏡による未来天文学
以前に、三体というSF作品を取り上げました。
色んなアイデアが詰まった玉手箱ですが、その序章であり物語すべての因果を飾るのは「太陽による電波増幅器」という空想でした。
ある科学者が異様に強い電波を観測します。まさかと思いつつ研究を続けた結果、太陽が電波を、一定以上の強度と特定の周波数で増幅反射することを突き止めます。もう少し掘り下げると、太陽が核融合エネルギーを放射するときに、連続的でなく離散的にその周波数が下がる境界面があることをつきとめます。そしてそのエネルギー境界面に一定以上の強度を持つ電波をぶつけると、増幅して反射することを発見します。
物語では、世を憂いたその科学者が、その天然増幅装置を使って地球外文明へメッセージを勝手に送信し・・・というくだりに続くわけです。この辺の科学的リアリティがこの作品を序盤からぐいっと引き締めるポイントです。
これらはあくまでフィクションで、現代物理学では確認されていません。
と思っていたら・・・なんとこの空想が部分的に正しいことが今年発表されました。しかも(もちろん偶然でしょうが)作品同様中国の科学者です。
太陽には、コロナと呼ばれる高温の外大気層が知られています。
そのコロナの中で温度が低く、プラズマ密度が低くて磁場強度が低い領域をコロナホールと呼びます。これがさながら凸レンズの役割を果たして散乱した電波放射エネルギーを収束させ、その焦点では8倍にまで高まることを確認したそうです。
物語では木星からの電磁波バーストが数億倍に増幅、とあるのでその反射効果は空想には及びませんが、それでも上記記事によれば星間通信の可能性はあるとのことです。
実は太陽を使った観測でもう1つ興味深い発表があります。
現時点で最も視力の良い(遠方が見える)望遠鏡は、JWST(ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡)です。人間の視力に例えると約1000ぐらいです。
2019年に、ブラックホールの映像化に成功したEHT(イベントホライズン望遠鏡)が、なんと視力300万。地上から月面のテニスボールを見つけることが出来ます。
今回の発明は、重力レンズ効果という物理現象を応用したものです。イメージを上記記事から載せておきます。
ようは、太陽は重いためその周辺の時空を通過するときに生じる歪み度合いを計測することでその先の天体を見つけることが出来ます。
理論的にはなんとEHTの100万倍という視力を獲得できます。
ただ、難点は上記図にあるRELAY SPACECRAFT、ようは電磁波を放射するソースの設置場所です。地球と太陽の542倍という超遠方に設置しなければいけません。これは以前紹介した宇宙探査機ボイジャーのさらに3倍に相当します。
いずれはこういったスケールで天文学が進化するかもしれませんね。
現実がSFを凌駕する日を心待ちにしています。