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「老い」の科学を展望する2

前回の続きで、「老い」に対して科学がどこまで迫ろうとしているのかを紹介します。

今回も、前回同様に、最近和訳版が出版された「Ageless」を主な参考書籍にしています。

前回は、ある生物(センチュウ)の遺伝子を変えると寿命が延びたという研究をきっかけに、生物学的アプローチが老化への研究に影響を与えた、という話をしました。

その結果、老化とそれによる死がもたらされる仮説が数多く提唱されることになります。

そのなかで、上記書籍で例示されたものをあげると以下の通りです。
・代謝が早いほど寿命が短い
・活性酵素がミトコンドリアを傷つける
・酸化によって障害を受けた細胞が老化を進める

現代で、相対的に支持されている理論として、2つほど紹介します。

1つは、オードリー・デブレイが、2002年ごろに提唱した7つの老化防止方法です。

もう1つは、2013年に発表された老化の「9つの特徴」です。詳細に関心のある方のために、元論文を貼っておきます。

これら2つの理論は共通項もあり、上記書籍では10点に絞って「老化の特徴」を整理し、その原因をそれぞれ探索しています。

1.DNAの損傷とそれによる突然変異
2.テロメアの短縮化(補足)
3.たんぱく質の異常(補足)
4.エピジェネティックの変化(補足)
5.老化細胞の蓄積
6.ミトコンドリアの機能不全
7.神経細胞間のシグナル伝送の問題(メッセンジャー分子)
8.腸内のウイルス・細菌(マイクロバイオーム)などの変化
9.細胞(特に幹細胞)の消耗
10.免疫不全(補足)

2の補足です。テロメアとは寿命遺伝子といわれることもあり、自死に影響を与える末端の部位で、この作用によって細胞の寿命に影響を与えます。

3についてですが、たんぱく質は生命活動で最も重要な物質ですが、短命なためにリサイクルする機構が備わっています。

その代表格が「オートファジー」で、要は「自食」によるリサイクル作用です。過去に近い投稿をしたので引用しておきます。

逆に残存することで活動を阻害するたんぱく質もあり、その1つがアルツハイマー病の原因として注目されている「アミロイド」です。

こちらも解説が長くなるので、過去の関連投稿の紹介にとどめておきます。

次に4について、そもそもエピジェネティック自体が初耳の方もいると思いますので、過去投稿を紹介しておきます。

要は、「遺伝」とは4種類の塩基情報配列だけでなく、それを制御するシステム全体でのネットワーク構造がもたらすものだ、ということです。

最後にあたる10の免疫不全とは、異物を退治する本来的に生物が持つ機能のことです。

我々人類で代表的なものを挙げると、リンパ腺の中にあるT細胞です。こちらも過去の投稿を引用しておきます。

10の特徴をまとめると、老化とはこれら各現象が絡み合って起こるプロセスの総称、ということです。

逆の見方をすると、これらへの治療方法がそれぞれ確立されることで、老化を防止することが出来る、ということです。

次回は特に、前回の投稿で取り上げた「セノリティクス」という薬を中心に、なぜ老化防止に利くと考えられているのかを紹介したいと思います。

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