見出し画像

差出人不明のラブレターをもらい、犯人探しをした高校生の話。【シナリオ】

ラブレターなんて、16年生きてて、はじめてもらったんだ。
それはもうびっくりして。
こんな祭のことを好きって言ってくれる人がいたなんて。
差出人が不明でも、本当に、純粋に、嬉しかったんだ。
…あいつに、あーだこーだ言われるまでは。- 一高祭(高1)

ーーーー

ここはとあるミュージカルスタジオ。
小学生から高校生までが、なりたい自分になれる場所として通っている。
今日はとある秋の火曜日。今日のレッスンは18時から。
スタジオの1番の新人である中学3年生の亜冬なずなは、いつもみんながスタジオに来る前に自主練をしている。
時刻は17時。今日もスタジオの電気は、なずなのために少し早くからついている。

そこに、167㎝の抜群のスタイルを持った、いつも顔色一つ変えない、クールな高校1年生、道端輝が目の光りを消して、スタジオの中に訪れる。
いつもの凛とした背筋は、珍しく曲がっており、つやつやの黒髪ロングヘアも、なんだか今日はボサボサだ。

ガチャ。

なずな「…おはよ?」
輝「おはよう…。」

輝、ゆっくり外靴を脱ぎ、中に入ってくる。

なずな「な、なにかあった、、?」
輝「いや。。…」

輝、あたりを見渡す。

輝「今、なずなだけ?」
なずな「うん、そうだけど。」
輝「あのさ、ここに来た時、…紙見なかったか?」
なずな「紙?」
輝「うん。紙っていうか、ルーズリーフみたいな。多分昨日のレッスンの時に置いて帰っちゃって。なんか、いっぱい色々書いてある紙、全部私の字なんだけど。」
なずな「えーあったかなぁ。(あたりを見る)」
輝「そうか…。(俯いて、真剣な表情)」
なずな「どんなこと書いてあるの?」
輝「いや!見てないならいいんだ。」
なずな「?…そう。」
輝「…ちょっと、更衣室探してくる。」
なずな「うん!行ってらっしゃい!」

輝、荷物をスタジオ後方に置き、猫背のままゆっくり更衣室に向かう。
ガチャン。

なずな「…相当大事なものなのかな、輝。」

突然、ドタドタドタと激しい足音と、騒がしい声が遠くから聞こえてくる。
それが近づいてくると共に、ゆうりと祭がスタジオに入ってくる。

ゆうり「はい、私の方が早かったー!!」

なずなと同じ中学3年生、男勝りでお調子者の茶髪ショートヘア、白川ゆうりが得意げにそう言い、
高校1年生なのに身長が146㎝しかない、小柄お団子ヘアの一高祭は、息を切らしながらゆうりの腕をつかむ。

祭「まじで、ほんと、逃げ足だけは早すぎるにゃゆうり、、」ゼェゼェ
なずな「は、走ってきたの?」
ゆうり「うん!あ、おはようなずな!!なぁ聞いてよこいつさーー
祭「ニャーーーーー!!!!他の人には言わないって約束したにゃ、約束したでしょゆうりちゃん????」圧
なずな「どうしたのゆうり??」
ゆうり「こいつさ、」
祭「にゃー!」
ゆうり「こいつ、」
祭「にゃ!!!」
ゆうり「こい、」
祭「にゃ!!!!」
ゆうり「ラブレター貰ったんだって!!!!!」
祭「にゃあああああああああああああ!!!!!!!」
なずな「え!!!ラブレター!?!?」
祭「き、聞こえてしまった…。」
ゆうり「ほら、これこれ!!」

ゆうり、手に持っていた紙をなずなに渡す。

祭「ぎゃあちょっとゆうり!!!!」
ゆうり「競走に負けたお前が悪い。」
なずな「(紙を見ながら)見ちゃっていいの!?✨」
祭「もう見てんじゃん!!!」
ゆうり「いいぞー、むしろ音読してもいいぞー!」
なずな「なになに…
『ずっとあなたを見ていました。
あなたは気づいていないだろうけど、ずっともっと知りたかった
お人形のように長い髪を結って見える横顔が、眩しかった。』」

ガタッと、どこかから物音がする。
 
なずな「ん?」
ゆうり「横顔が眩しかったってさ(笑)」
祭「まじでやめて欲しいにゃ、、」
なずな「『あなたにももっと、僕のことを知って欲しい。
教えるから、あなたについても教えて欲しい。
知らない未来を、一緒に知っていきたい。』」 
ゆうり「もうラブレターの度を超えて婚姻届だろこれwww」
なずな「祭ちゃん、モテモテですなぁ~」
ゆうり、なずな「「むふふふふ~」」
祭「うううううう、うにゃーーーー!返すにゃ!!(なずなから手紙を奪う)」
なずな「ごめんごめん(笑)でも、これ、誰が書いたんだろう。名前書いて無かったよね?」
祭「そうなんだにゃ。差出人も、宛先も書いてないんだにゃ。」
なずな「てことは…」
ゆうり「恥ずかしいな祭、ここまで騒いどいて、もしかしたら祭宛じゃない可能性もあるんだもんなwww」
祭「だから!祭はさっきからそう言ってるでしょ!だからゆうりにも他の人には言わないでほしいって!」
ゆうり「だってあの祭がだぜ!?チビで猫で女っ気の一切ない祭がwww」
祭「てめぇそろそろ祭が年上だってこと再認識した方がいいですよ。」
なずな「うーん…。」
祭、ゆうり「「ん?」」

なずな、斜め上をずっと見ている。

ゆうり「なんか考え始めたな。」
祭「なんか考え始めたね。」
ゆうり「なずな?どした?」
なずな「あー、いや、誰だろうって思って。だって祭ちゃんの学校ってほぼ女子高なんでしょ?」
祭「そうにゃ。」
なずな「スタジオも女の子しかいないし…。」
ゆうり「女子からなんじゃね?」
祭「にゃ!?」
なずな「いや、でもこの手紙には「僕」って書いてあるし…」
ゆうり「咲みたいに、女でも自分の事「僕」っていうやつはいるぜ?」
なずな「え、じゃあ咲ちゃん!?」
ゆうり「…いや、あいつはないだろ。そもそもあいつ、昨日休みだったじゃん。」
なずな「昨日貰ったの?」
祭「実は、直接貰っては無くて、家に帰って鞄を見たら入ってたんだにゃ。…でも。」
なずな「でも?」
祭「学校を出る時にはこの手紙、入ってなかったと思うんだよに…。」
ゆうり「てことは…」

ゴクリ。

ゆうり、なずな、姿勢を正す。

なずな「えーこれから、差出人捜索会議をはじめたいと思います。」
祭「なずな?」
ゆうり「差出人と考えられるのは、昨日このスタジオでレッスンを受けていた、咲と祭以外のスタジオ生11名…。」
祭「ゆうり?ちょっとちょっと、突き止めなくていいから!」
なずな「何で!祭ちゃんに恋人ができるかもしれないんだよ!!こんなに面白そうなことってないじゃん!」
ゆうり「こんな近くにバカ面白れぇ恋バナの種があるんだぜ?突き止めねぇわけにはいかないだろ!」
祭「かんっぜんに面白がってんじゃん!超他人事じゃん!」
ゆうり、なずな「「超他人事の決まってんじゃん!!」」

ガタッ。また物音が。

なずな「白川さん、筆跡から誰か特定することはできませんかね。」
ゆうり「うーんそうだなぁ、かなり綺麗な字だし…。」
なずな「字綺麗な子多いもんね。」
ゆうり「よし、ここは指紋を!」
祭「取れないでしょ!!!」
ゆうり「えー。」
なずな「でもこの差出人、かなりのポエマーだよね。」
ゆうり「確かに、これただのラブレターじゃねぇもん。こんなくせぇラブレターねーだろ。史上初だろ。」
なずな「『お人形のように長い髪を結って見える横顔が、眩しかった。』…横顔だって。てことは、普段から祭ちゃんの横にいる人?」
ゆうり「横顔ねぇ、、(祭に近づき、その横顔を凝視する)」
祭「な、なに。」
ゆうり「眩しいか?」
祭「(ゆうりの頭をチョップする)」
ゆうり「ッテ!!いったー。(頭を押さえる)」ヒリヒリ
なずな「(祭の横顔を覗く)うーん。確かに眩しくはないね。」
祭「そんなマジマジ言わないでよ、わかってたけど。」
ゆうり「なずなには叩かねーのかよ!」
なずな「でもさ、『横顔が眩しい』っておかしくない?横顔が、太陽みたいに光ってるってことでしょ?あの蛍光灯を近くで見て、目が痛くなるみたいな感じでしょ?ぜんぜん祭ちゃん見ても目痛くならないもん。そもそも光ってないし。表現間違ってるよ!」
祭「ものの喩えというのが通じないのねこの子には。」
ゆうり「なずなの良い所は純粋さだ。」
なずな「ほかにどんな表現があるかな?(再び祭の横顔を見て)うーん、
『横顔から滴っている汗、チラチラと目が合う。緊張している祭』!」
祭「ただ実況してるだけじゃん!!!」
なずな「あれ?ちがかった?」
ゆうり「そもそも、ラブレターにポエム書くこいつの頭がおかしいんだよ。」
なずな「確かぬ。」
ゆうり「まっ、祭のこと好きなやつなんて、物好きに決まってるしな!」ハハハ
祭「ほんとこいつ失礼にも程があるにゃ💢💢」
ゆうり「…(輝の鞄を見る)ん、あれ?そういえばもう1人誰か来てんのか?」
祭「にゃ、ほんとだ、鞄あるね。」
なずな「あー、さっき輝が、・・・・・・・あ。」
ゆうり「あ?」祭「にゃ?」

ガタッ

なずな、音がする方を見る。更衣室であった。
なずな、ゆっくり視点をラブレターの方に移す。
なずなはそのラブレターの紙が、ルーズリーフであったことにやっと気づいた。

なずな「…!!!!!!」
~~

輝「うん。紙っていうか、ルーズリーフみたいな。多分昨日のレッスンの時に置いて帰っちゃって。なんか、いっぱい色々書いてある紙、全部私の字なんだけど。」

~~

ゴクリ。

なずな「こ、これさぁ、1回私預かってもいいかな?」
ゆうり「え?なんで?」
祭「なんかあったの?」
なずな「いや、なんかあったというか、なかったというか、、」
ゆうり「はぁ?」
なずな「とりあえず、失礼しますね、、(ゆうりの手から手紙を取ろうとする)」
ゆうり「待った。(手紙を上へあげる)」
なずな「えっ。」
ゆうり「なんか怪しいなお前。…もしかして?(祭の方を見る)」
祭「…?ハッ!」
ゆうり、祭「「もしかして…!?」」
なずな「ち、ちがうよぉ!私は書いてない!!」
ゆうり「たしかになぁ、ちょっと的外れでロマンチストなとこあるもんなぁ、なずなは。」
なずな「そんなことないって!!」
祭「そっか、なずなが…。」
なずな「祭ちゃん!?ちょっとずつ距離を取らないで!!」

ガチャ。更衣室のドアが開く。

輝「…」
ゆうり「あ、輝ー!おはよ、聞いてくれよ、これなんだけどさー!」

ゆうり、立ち上がり輝の方に駈け寄り、手紙を見せる。

なずな「あ!!ちょっと待って!!!!」
祭「だから見せないって!!」

輝「…。」

輝、3秒手紙を凝視し、その後光の速さで手紙を奪う。

ゆうり「え?」
輝「くだらない。」
なずな「あ、ちょ、輝、、」

輝、鞄の方に向かい、手紙をカバンの中にしまい、鞄を肩に掛け、スタジオを後にする。

輝「まじでくだらねぇ…。」

その動作スピードは、さっきの光の速さを感じさせないほど、平然でゆっくりとしている。
ガチャン。スタジオの戸が閉まる。

なずな、ゆうり、祭「「……」」
ゆうり「あいつ、持ってたな。」
祭「て、ことは…」

ゆうりと祭、なずなの方を見る。
なずな、顔を下に向け、手で顔を覆う。

なずな「何も触れないどこ…。」
ゆうり、祭「「う、うん…。」」

その1週間後、2か月後の公演で使われる楽曲が配布された。
その歌詞には、あの日見たポエムが長くなって記載されていた。
ほとんど書かれていた文章はあの時と変わっていなかったが、
『お人形のように長い髪を結って見える横顔が、眩しかった。』の文章は『お人形のように長い髪を結って見える横顔が、美しかった。』に変更されていた。
初めて作詞に挑戦した道端輝は、何を思ったのだろう。


おしまい。



この記事が参加している募集

私の作品紹介

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?