こい瀬 伊音 (こいせ いと)

詩人を名乗る小説書き。 石田衣良パブリッシュサロン「世界はフィクションでできている」出…

こい瀬 伊音 (こいせ いと)

詩人を名乗る小説書き。 石田衣良パブリッシュサロン「世界はフィクションでできている」出身。サロン内 ショートショートコンテストで4度の優秀賞受賞。ストーマ啓発ポスターのキャッチコピー「私の大切なものは目に見えない。服を、着てしまえば」意気込みは「あなたをいと中毒に仕立てあげる」

マガジン

  • 詩 『糸/音』

    音にすると 少し離れる。 たけど繋がっている。

  • 掌編小説集『十三夜(いまだみちず)』

    ちいさい小説をここにおきます。 マガジンタイトルには  十三夜 に  あとすこしで満ちるのだという  不遜な態度と  いまだみちず に  あと二日をじりじりと歩むようすを 表現しました。 ほんとうは、 満ち欠けはいつものことですが…

  • ちいさな歴史集『うつろい、うつろわず』

    うつろひ、とは 転居だったり 枯れて散っていくもの 色づいていくもの のこと。 変わっていくことに美しさを見出だして 変わったり 変われなかったりするおはなしを ここに。

  • 舵とり練習帳

    「文体の舵をとれ」の練習問題へのとりくみをアップしていくマガジンです。

  • クロコライダーズ!

    なんだか今、足踏みしてる気がする。 このままでいいのかな? 誰かに信じてもらえれば、もう少し強くなれるのに。 これは、 6つのピースからなる青春群像劇。 あなたを、わたしを応援します。 忘れられない2020年8月に。 (武田花さんのポップス大作戦#1~6への応募作です)

最近の記事

獅子は十六匹の群れから 若い兄弟たちが旅立つ さようならさようなら 春は別れの季節だから ただそうなる そのようにある 四肢の十六本をもてあまして あとの十二を切り離した さようならさようなら ふたりは対のままで ひとりとは縦に裂いたエリンギとなる ただそうあるしか はなむけの言葉に裏打ちされた 自信をひとつ 胸に 支持十六票の提案を捨てても 一分につき何千リットルもの泉は涌く さようならさようなら すべて涙に流したら からだはからからのスポンジとなる ただそうあれ そ

      • ある藤原家の食卓

        古賀コン4テーマ「記憶にございません」 (※一時間で書くこと)               こい瀬 伊音  資源ごみの分別をしていたら、まだパッケージから出されていないままのお守りが出てきた。高貴な紫色の地に若草色で縫いとってある文字は「合格御守」。 「えええっ初詣のとき買ってあげたお守り、そのままぽいっと捨てたの? だから神様に見放されたんじゃ……あきれられたんじゃないの?」  やいやい言う妻に、俯いたまま知らねーおぼえてねーと息子。いやまぁ二ヶ月前のことだから、覚えて

        • 詩「磔」

          #殺すな とガザを嘆くのに 被災地の獣は必ず仕留めよと腸《はらわた》がいう 喉笛に箸を一本深く突き立てて その姿を校庭の遊具に磔せよ 体育倉庫の奥に眠る黒と黄色のロープで縛れ #殺すな と平和をと 憎しみのない世界を願っているのに 2024.01.03 タスケテのあ行は息が漏れるから シネと短く叫び突き刺せ

        マガジン

        • 詩 『糸/音』
          43本
        • 掌編小説集『十三夜(いまだみちず)』
          14本
        • ちいさな歴史集『うつろい、うつろわず』
          4本
        • 舵とり練習帳
          8本
        • クロコライダーズ!
          6本
        • 【閲覧注意】感想文!学校の先生には見せられないバージョン!
          3本

        記事

          意図的秘密の『棕櫚10』+『レイドバックSF』

          はじめに 『棕櫚10』 『レイドバックSF』に 興味をもってくださったみなさま、ありがとうございます。 2023年、素敵な二冊に誘ってもらえて、うれしさのあまりここぞとばかりにすきをつめこみ放題!の作品を寄せました。 すこしふしぎ、けっこうふしぎ、わけがわからない! それでもよく、それでも好き というお声はとてもとてもありがたく、勇気の出るものです。 ふたつの作品は、あるひとつの作品世界に連なったものでした。本文のうしろにひっそりと作品名を記し、だれかそこにたどり着いてくれ

          意図的秘密の『棕櫚10』+『レイドバックSF』

          詩「シュトーレンと光」

          まんなかにナイフを入れて 五ミリずつ 七ミリずつ ドライフルーツがよく馴染んで 今日より明日 もっとおいしくなる 粉砂糖をまぶしたそれは おくるみにくるまれたキリストの姿 まんなかにナイフを入れて 五ミリずつ 七ミリずつ 分断した傷口は開いたまま乾いて 今日より明日 もっと凄惨になる 硝煙や砂、血にまみれて 父が子の内蔵をこぼさぬように抱く 寿ぐ言葉よ 夜のあとには朝を与えよ 2023.12.24 明日がたのしみって思えることは しあわせなことなんだね どんなこどもに

          詩「シュトーレンと光」

          めかくし

          わたしのピンクのスニーカー もしかしてPUMAのかもしれない 靴箱の片方だけを開けて みないふり みないふり 「ねえわたしの靴のしたにやわらかなあかちゃんがいるの」 「ここでジャンプしてもいい?」 「ハンバーガーのおもちゃもあげよう」 「きっと喜ぶよね」 踏みつけて踏み抜いて 瓦礫の下へ追いやって みないふり いないふり 2023.12.09 靴底にいのち感じてしまうかも てんとうむしの音は乾いて

          オレンジのちアプリコット

           まばゆいオレンジのなか、裕貴の背中が遠ざかっていくのを見送りながら、わたしはちっともさびしくないことを確認していた。 「あーさむっ」  ぴったりと閉めていた掃きだし窓が反射して、逆光のわたしを映し出している。冷気が入り込まないように、と思ったのだけれど、閉め出された気持ちにもなる。この部屋、どうしようか。  越してきて、四年がたとうとしていた。ベランダ用のスリッパのままで、点検のように1LDKの部屋をぐるっと見回す。二泊三日の乱雑を片付けてしまえば愛着もある。会社まで近すぎ

          オレンジのちアプリコット

          詩 赤い涙

          片道の燃料はあります この飛行機を僕にくれるのです こんな名誉なことがあるでせうか 出発は明日です 最後の夜です 僕を忘れないで  しあわせになってください まだ死にたくない  花は散るもの テロルをすべて憎むなら 若き特攻兵に涙してはいけません 彼らは戦争のきまりごとを破り 白人たちを恐怖の底に突き落とした 僕を忘れないで   来年も知覧の桜は まだ死にたくない   僕がいなくても綺麗 世界を敵にまわして戦わざるをえない 彼らの境遇を想像してみるとしたら…とおもい

          「戦争反対」

          かたく目を閉じ 耳をおおいましょう そこには静けさがある なにもいうべき言葉はありません ここは日が射し 八百万の神々がおもいおもいに暮らしている かたく目を閉じ 耳を塞いでいるあいだに 乳児すら静かになる かける言葉は見当たりません そこは病院 瓦礫がまだ息のあるひとの墓石ともなる 神は祟るもの だから祀るもの ネクタイをかたく結びあい訳知り顔を並べる人々が 自分の口を閉ざして後ろで手をとりあっている 息をし、食べ、叫べ わたしは口をこじ開ける あなたがたの神など知ら

          フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて

          BFC5落選展 フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて               こい瀬 伊音  角切りの黄桃と一口大のバナナとを冷凍庫からとりだして、カランカランとフードプロセッサーに入れる。牛乳とヨーグルト、はちみつを垂らしてスイッチオン。最初はすこしぎこちない動きだけど、やがてなめらかになる。とろとろの桃のスムージーを太いストローで吸い上げる。  亜里沙ちゃんの目はアーモンド型の縁にびっしりとまつげが揃っていて、濡れたように黒かった。初めて会ったとき

          フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて

          不可逆的ガチョウ倶楽部

           可逆か不可逆かっていうのは大きいんです、戻れるか戻れないかということですからね。なんとか食い止められるか否かってことです。ご自分の状態がだんだんわかってきましたか。  ALT48。健康診断では何年にもわたって芳しくない数字を叩きだし、運動するつもりがあるのか聞かれ、そのたびに「近々始める予定である」をチェック、なにもしないまままた次の健康診断が来て、加速度的にほぼすべての数値が右肩上がり。一センチ刻みだった腹囲が四センチも増えた。わかっているけどお酒もおつまみの塩気もスイー

          不可逆的ガチョウ倶楽部

          「鬼芥子姫」

          阿瀬みち編 人魚アンソロジー『海界』より 「鬼芥子姫」    差し出された盃を受け取りひとおもいに飲み干した。膳からみっつの骸骨が、こちらをみている。  居並ぶ男たちのだれもが困惑するなか、兄ひとり満足そうに髭を撫でた。 「さすがわが妹よ。剛腹である」   市はほほえんだ。  しゃれこうべの頂きはよく塗られ、肌がまろやかであった。ゆるやかな曲線にくちづけて傾ければ、艶やかな紅を損なうことなく美酒を味わうことができた。   長政さまとの、一年ぶりの再会。漆黒の塗りに金粉

          待ってるね

                         こい瀬 伊音  月の近くにある星がなんだか、あの名前がわかればもっと日々が豊かなのにね、草花や鳥の名前もおんなじ、とそんな話をしていた友達が急に消えてしまって、わたしはとてもかなしい。  鳥の名前は。すずめとか、カラスとか、そんなのならわかるよ、カラスはかっこよくて好きと言うとき、彼女はきまってそのカラスのくちばしが太いのかとかそんな特徴が入ったくわしい名前を示すのだ。  きのうは、彼女が教えてくれた天文台のアカウントを検索して、見つけた星空の

          BFC4悪魔合体感想詩「羽根ペン」

           BFC4…本日終わりを迎えましたが、 幻の2回戦を読み終えていません。いつもながらの遅読ですが、読みたい小説がたくさん、たくさんあるというのはとても豊かなことですよね。  いついつまでに読まなくちゃ!と背中を押されるのもきっかけとなって(助けてもらえて)好きですが、ゆっくり取り出して何度でも眺めるのも贅沢だなぁ。  そんな風に思いつつ、  幻の2回戦に出場された渋皮ヨロイさんの「白鷺」について変な?感想を呟いたら化野夕陽さんにお褒めいただき… 感想詩を書いてしまおう!と思

          BFC4悪魔合体感想詩「羽根ペン」

          掌編小説「ガラシャ殺し」

          ーー侍女清原糸曰く ガラシャ殺しーー清原糸曰く               こい瀬伊音  その茶碗を、「夫」は時々取り出して眺めた。正座した膝のまえに置き、ぬかづくようにしながら眺める。曲線、粒だった肌。釉の加減でくるまれたところと地肌を剥き出しにしたところ。ゆっくりと愛でたあと手に取った。つるりと丸みを帯びた側面から指のはらを這わせ、ざらりとの境目を撫でる。そのときには目を閉じていて、いえ、開いているけれどどこにも像を結んではいなくて、喜びを神経の細やかな部分から存分に

          掌編小説「ガラシャ殺し」