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詩 『糸/音』

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音にすると 少し離れる。 たけど繋がっている。
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遊泳禁止

遊泳禁止

遊泳禁止

浜から砂が失われ
海水浴場が閉鎖する
遊泳禁止を示すロープが潮風に吹かれ
さびれた街をいっそうさみしくする

受け入れやすい物語を持って死んでゆくひとたちを簡単に見送り
砂が波に拐われてゆく
不自然はひとつもないと勝手に救われて

侵食されているのかも
そうして生きてゆくのかも
物語の準備をして
焦燥から逃げて

餞

獅子は十六匹の群れから
若い兄弟たちが旅立つ
さようならさようなら
春は別れの季節だから
ただそうなる
そのようにある

四肢の十六本をもてあまして
あとの十二を切り離した
さようならさようなら
ふたりは対のままで
ひとりとは縦に裂いたエリンギとなる
ただそうあるしか

はなむけの言葉に裏打ちされた
自信をひとつ
胸に

支持十六票の提案を捨てても
一分につき何千リットルもの泉は涌く
さようならさ

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詩「磔」

詩「磔」

#殺すな  とガザを嘆くのに
被災地の獣は必ず仕留めよと腸《はらわた》がいう
喉笛に箸を一本深く突き立てて

その姿を校庭の遊具に磔せよ
体育倉庫の奥に眠る黒と黄色のロープで縛れ
#殺すな  と平和をと
憎しみのない世界を願っているのに

2024.01.03
タスケテのあ行は息が漏れるから
シネと短く叫び突き刺せ

詩「シュトーレンと光」

詩「シュトーレンと光」

まんなかにナイフを入れて
五ミリずつ 七ミリずつ
ドライフルーツがよく馴染んで
今日より明日 もっとおいしくなる
粉砂糖をまぶしたそれは
おくるみにくるまれたキリストの姿

まんなかにナイフを入れて
五ミリずつ 七ミリずつ
分断した傷口は開いたまま乾いて
今日より明日 もっと凄惨になる
硝煙や砂、血にまみれて
父が子の内蔵をこぼさぬように抱く

寿ぐ言葉よ
夜のあとには朝を与えよ

2023.12

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めかくし

めかくし

わたしのピンクのスニーカー
もしかしてPUMAのかもしれない
靴箱の片方だけを開けて
みないふり
みないふり

「ねえわたしの靴のしたにやわらかなあかちゃんがいるの」
「ここでジャンプしてもいい?」
「ハンバーガーのおもちゃもあげよう」
「きっと喜ぶよね」

踏みつけて踏み抜いて
瓦礫の下へ追いやって
みないふり
いないふり

2023.12.09

靴底にいのち感じてしまうかも
てんとうむしの音

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詩 赤い涙

詩 赤い涙

片道の燃料はあります
この飛行機を僕にくれるのです
こんな名誉なことがあるでせうか
出発は明日です
最後の夜です

僕を忘れないで  しあわせになってください
まだ死にたくない  花は散るもの

テロルをすべて憎むなら
若き特攻兵に涙してはいけません
彼らは戦争のきまりごとを破り
白人たちを恐怖の底に突き落とした

僕を忘れないで   来年も知覧の桜は
まだ死にたくない   僕がいなくても綺麗

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「戦争反対」

「戦争反対」

かたく目を閉じ 耳をおおいましょう
そこには静けさがある
なにもいうべき言葉はありません
ここは日が射し
八百万の神々がおもいおもいに暮らしている

かたく目を閉じ 耳を塞いでいるあいだに
乳児すら静かになる
かける言葉は見当たりません
そこは病院
瓦礫がまだ息のあるひとの墓石ともなる

神は祟るもの だから祀るもの
ネクタイをかたく結びあい訳知り顔を並べる人々が
自分の口を閉ざして後ろで手をとり

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詩「ある老いた清貧の願い」

詩「ある老いた清貧の願い」

老人が友人を富ませ
父は祖父に忖度する
老獪な視界の先で
母は娘は頬をひきつらせる
失われた世代は分断を強いられ
若者が絶望を見て権威の広告塔を撃てば
富める老人が群がり最上級の葬式を出すという
子のポケットは裏返され続け
なけなしの一割をむしりとられる

坂を転げ落ちながら願うのは
バスの後ろまでの点検
子どもが死なず若者の苦しまない日常
傾きの増す船を
もうすぐ降りるその前に

2022.09

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迷路

迷路

             こい瀬 伊音

汚染されていない人間を寄越して
マスクをとって口を開けて
さあそれを食べなさいあなたの
顔がほころぶのが見たいから

汚染されていない恋人を寄越して
マスクをとって口を開けて
さあ深く接触をあなたの
温度と湿度が恋しいから

退路を絶つ想像で胸がきしむ
トンネルの先は海に沈む
誰も受け取らないように
SがふたつとOは後ろ手

2022.03.19

三月四日

三月四日

誰もそばにいないんだろう
誰も寄せつけない高御座で
誰のことも 自分も
もう大切じゃない

自分の足でそこから降りられない
ひとりきりジャングルジムの上で
あまりの恐ろしさにみんな
背を向けて逃げてしまった

だれかだれか
彼は叫んではいまいか
だれかだれか
下から手を差しのべてくれるひとを

ぼうや おりておいで こわがらないで
やさしい声は魔女にかわり
大きな鍋に放り込まれる
老人は知っている

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詩「せなか」

俳人 田中目八さんのBFC3応募作
マイクロノベル × 連作俳句
「蝶をあつめて」から
インスピレーションをいただきました。

「せなか」は
田中目八さんの「蝶をあつめて」の世界観に
書かせてもらった詩です。
ブンゲイファイトクラブ3という
あこがれのリングに届かなかった作品を #BFC3落選展  にだしてくださったからこそ
出会えました。
わたしも今回出場が叶わず失意のなかでしたが

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詩「あたらしいひには」

詩「あたらしいひには」

           こい瀬 伊音

さようならさようなら
あなたは手をふる

すべて捨てなくては自由になれないの
誰の持ち物でもないのに

さようならそのようなら
ちいさく手をふる

あなたをかたどった
たくさんのわたしたちを置いて

手荷物検査はこちらです
何も持たずに行きなさい
僭越な監視と検閲に
まっすぐな背中を向ける

さようならさようなら
ほかの言葉が許されてほしい
あたらしいひには

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詩「背中」

詩「背中」



「背中」

            こい瀬 伊音

削って削って削りでた木は舟になって
川に浮かんでいくのです

削って削って飛び散る銀を
指で広げていくのです

削られ削られとがった先でいっぽんの線を引く
細く細く息をして
舟を忘れて

見上げていた目でふりかえれば
裾模様と
海に浮かぶ大船団

千里走れる脚
幾山川越えていく杖
あの光るところへ
頂へ

2021.09.26

書くことが、

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詩「鎮静の月」

詩「鎮静の月」

背中につけたちいさなあとは
すぐにきえるから心配しないで

細く細くただ息をして
空にとけるから気にしないで

ここに
そこに

金に塗った爪を切って
紙石鹸で手を洗って

おまけ

鎮静の月、は
新月直前の三日月だそうです。
消え入りそうな。

そう知ったら
詩がうまれたのでした。